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93:俺はやるぜ!

「じゃあ、あとはよろしくお願いします」

「了解。無事、地上へ送り届けます」


 後続の冒険者に生存者を託し、俺たちは引き続き食品フロアを目指す。

 幸い、声を掛けてくれた人とその他二十人ほどは擦り傷程度のものはあったけど、みんな歩ける人ばかり。

 サクラちゃんのアイテムボックスから甘いお菓子と飲み物を取り出し、一息ついてもらったら意外と元気に。

 事情を説明して徒歩で地上へ上がって欲しいことを伝えると、これまたすんなり事情を理解してくれた。

 もちろん、道中は冒険者が守ってくれている――というのと伝えたうえでの話だ。


 上の階でも次々と生存者が見つかった――というような声が聞こえてくる。エスカレーターは吹き抜けになっていることもあり、そういった動きは音として聞こえて来た。


「ウォンウォンッ。俺はやったぜ! やったぜ! 八人見つけたぞっ」

「うわっ。ビ、ビックリした。えっと、ハリーだっけ?」

「俺はハリーだぜ!」


 ハスキー犬のハリー。いつもすこぶるハイテンションだ。

 手持ちスキルはひとつだけ。しかしそのスキルがなんとも反則じみたスキルだ。


『俺もハリーだぜ!』

『俺もだぜ!』

『俺も俺も!』


 ハリーのスキルは『餓狼分身』。

 自分の分身体を三体作り出し、それぞれ独自に行動させることが出来る。

 その上、自分とその分身は肉体強化されており、普通に強いっていう。


「分身一、三階を探すのだ!」

『おう! 俺は行くぜ! 俺は助けるぜ!』

「分身二は二階だ!」

『分身二だから二階だぜ! 他誰か来るのか?』

「私たちが同行するわ。ニオイで生存者を探してね」

『任せろ! マッハで任せろ!』


 ハリーの分身たちがそれぞれの階で冒険者や捜索隊に同行して別れていく。


「ハリーさんは私たちと食品フロアにいくの?」

「俺は地下二階だぜ! 駐車場で生存者探しだぜ!」

「じゃあ後藤の旦那とだな」

「あぁ、そうだ。お前たち、まだここにいたのか。追いついたじゃねえか」

「後藤さん」


 後続部隊への指示のため、少し足を止めていた後藤さんが追い付いて来た。

 あれ? 後藤さんの隣にいる人、エレベーターで見た親切な人じゃないか?

 見間違えるはずがない。

 右目の上下と、顎にある傷。そして強面。


 サクラちゃんやブライトに触る面接者を、一喝してくれた人だ。

 履歴書を見なくても、元冒険者だってのはわかる。

 だから臨時捜索隊として協力をお願いするメンバーに入れていた。


「さっさと行くぞ」

「はい」


 食品フロアに下りるためのエレベーターは、上の階から続く場所にはない。五十メートルほど離れた場所にある。

 だが――。


「ダンジョンが割り込んできてますね」

「あぁ。おかげで、ここにあるはずのエスカレーターが見えないな」


 上の階へと続くエスカレーターから数メートル先に、ダンジョンの壁があった。

 ショッピングモールの中に、本来あるべきダンジョンの壁がそのまま存在しているわけじゃない。

 どちらかといえば、ショッピングモールが分断されて、間にダンジョンが入り込んでいる感じだ。

 だからショッピングモールのフロア面積が増えている。


「ニオウぜぇ。こっちだっ」

「ハリー?」

「食い物のニオイだぜ! こっちだ! こっちだ!」


 食品フロアから匂って来る香りか。何も匂わないけど、犬のハリーにはわかるんだろう。


「さすが犬だね。知ってるかい、三石くん。犬の嗅覚はね、人間の百万倍以上あるんだよ。犬種によっては一億倍。まぁシベリアンハスキーは犬の中では平均的だけど」


 でた。赤城さんの動物うんちく。

 赤城さんは捜索隊のアニマル部隊の隊長になりたい――と、後藤さんに直談判して拒否されている。

 だけどカラスのラスティが、赤城さんのチームに加わることが決定している。今はまだ、ダンジョンに慣れるためにパトロール部隊にいるけど。

 そのラスティは赤城さんの肩にとまっていた。


 カラスのラスティのスキルは『幻惑』『黒い嵐』そして『サークル』という、コッテコテの戦闘スキル系だ。

 幻惑は読んで字のごとく。対象に幻を見せて惑わすスキルだ。

 黒い嵐はブライトのフェザーと同じで、黒い羽根バージョン。もちろん実態じゃなく、魔法的なヤツ。

 サークルは、ラスティを中心に円形のバリアを張る。

 攻守揃ったバランスタイプ。それで赤城さんのチームに配属された。

 赤城さんは大喜びだ。


「あったぜ! エスカレーターあっ――ガアァァッ

「ハリー!?」

「任せろ、カァーッ」


 ラスティが一足、いや一羽根早く飛んでいって、ダンジョンの壁を曲がった瞬間にモンスターの断末魔が聞こえた。

 俺たちも急いで角を曲がると、ゴブリン亜種と呼ばれるモンスターが五体、倒れていた。


「やったぜ! 俺二匹倒したぜ!」

「カッカァー。オレは三匹倒したぜ。なんだよこいつら。ぶっさいくだなぁ」

「エスカレーター! エスカレーターだぜ!」

「お手柄だね、ハリー。ラスティもサポート、ありがとう」

「カッ」


 ゴブリン亜種。見た目はどことなくゴブリンに似ているけど、違うのは背中が曲がっていて、大きなコブがあること。そのコブには親指大の針が生えていて、それを飛ばしてくる。

 厄介なのは針に麻痺毒があること。

 ゴブリン亜種の推奨討伐レベルは45。上の階で見たナメクジから一気に推奨レベルが上がっている。


「もしかしてここって、ダンジョンの階層で言うと二階じゃなかったりするんじゃ」

「かもしれんな。外の様子が見えないからなんとも言えないが、さっきのダンジョンの壁だって、二階の石造りじゃなく、土壁だったろ」


 ダンジョンの階層を跨いでいるんだ。このショッピングモールは。


「食品フロア到着。それじゃあ悟、山内、頼むぞ。それとギルドからの応援のみなさんも」」

「うっす。さっきのゴブリン亜種のこと考えると、ここはレベル50以上推奨だろうな」

「まぁ70以上のメンバーで構成しているから、大丈夫っしょ」

「油断しなきゃな。じゃ、俺たちはお土産コーナーの方へ行きます。生存者を見つけられなかったら、そこから階段で地下駐車場へ向かいます」

「あぁ。よろしく頼みます」


 さぁ。捜索開始だ。


「行くよ、サクラちゃん、ブライト。それからヴァイス」

「えぇ、行きましょう」

「おうっ」

「ッケ」



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