90:んっちょね。
「悟さんっ」
「スノゥ? どうしたんだい」
出動準備をしていると、天井スレスレを飛んでくるスノゥに呼び止められた。
後ろからブライトもやってくる。
「あの……この子たちが」
腕を伸ばしてスノゥをとまらせてやると、雛を運ぶようのポシェットからツララが顔を覗かせた。
「ん? ツララ、どうしたんだ?」
「んっちょね。ツララ、にぃにとおてちゅだいちゅる」
「お手伝い?」
「ちぇーんじ!」
チェンジってお前……チェンジ!
「えっと、確か兄妹の位置を変えるスキルで、触れているものも一緒に瞬間移動!」
「ちょー!」
「いやでも、スキル封じてるじゃないかっ」
「いいえ。封じていないんです、そのスキルは」
え、どういうこと?
秀さんところで封印して貰ったはずなのに……そういえば、スキルを封印しているところ、見てないな俺。
「悟さん、赤城さんとお話なさっていたでしょう? スキル持ちの動物たちのことで」
「あ、うん」
「その時に秀さんがこの子たちのスキルを封じてくださったんだけど――」
秀さんはスキルを封じれるが、対象が持つスキルを全て封じる――のではなく個別方式だった。
チェンジのスキルは危険性もないだろうっていうのと、スキルを扱う練習もしっかりしとかなきゃならないってことで残したようだ。
そして兄妹はここ数日、チェンジのスキルを使って遊んでいたらしい。
「生存者を見つけたら、その都度この子たちに触れて地上へ送れると思うの」
「僕が君たちと同行して――」
「私が安虎さんの病院で待機。ダンジョンと病院を子供たちが交互に行き来する形になるわ」
「で、でも……」
「ケッ。ケッ。手伝ってやるって、言ってんだ。ありがたく手伝われろ」
て、手伝われろって……。
「ブライト?」
「言い出したのは子供たちだ。僕は……僕は反対だったけど、この子たちの意思は固い」
「えぇ。心配だけど、やると決めたのはこの子たちだもの」
「もちろん、子供たちはまだ飛べないから抱っこして連れて行ってもらわなきゃならない」
それはまぁ、雛を入れるための袋は俺が背負うからいいけど。
「怖いことがあるかもしれないよ?」
「へーきなの」
「子供扱いすんなっ」
いや雛だろ。
「悟くん。連れて行ってあげましょう。今は雛の手も借りたいほど、大変な状況でしょ?」
「……わかった。ヴァイスとツララは、必ず守るよ」
「ありがとう、悟さん。それじゃあ司令部の佐々木さんに、無線機の手配をしてもらうわ」
「あぁ。まず連れていくのはヴァイスだな。お兄ちゃんだし」
「あたりまえダ! 行くぞっ。いくいくぞー!」
なんか張り切ってるな、ヴァイス。
ブライトとスノゥが連絡を取り合い、合図で兄妹の位置をチェンジして生存者を直接病院内に届ける。
次に生存者を見つけたら、またチェンジで送り届ける。
行き来する手間が省けるから、短時間でたくさんの人を救助出来るぞ。
「あっ。そういえば――」
思い出した。ヴァイスたちのスキルによく似たものを持っている人がいたんだ!
「後藤さんっ」
「悟か、どうした?」
「あれ? 後藤さんも出動するんですか?」
「当たり前だ。俺だってスキル持ちだからな。ところでどうした?」
「あ、はい。実は――」
今日、面接に来た人の中に『絆の握手』という変わったスキルを持っている人がいたことを伝える。
このスキル、直前に握手を交わした相手のいる場所に、瞬間移動する――という能力だ。
しかも瞬間移動する時には、その人に触れている人も一緒に出来ると言う、ここも兄妹と同じ効果がある。
「俺たちだけでダンジョンを走り回って、まずは生存者を探します。ひとり見つかれば、その近辺に他の生存者もいるはずですから、そこで――」
「なるほど。雛たちのそのスキル持ちに協力してもらって一斉に捜索隊をダンジョン内に移動させようってのか」
「はい。もし一階にいなければそのまま二階に下ります。その方が救助活動が早くなると思うので」
「確かに……」
ツララはスノゥと病院の方へ行く。捜索隊の面々も病院へ行ってもらおう。
鳥部隊は飛行モンスターがいなければ捜索隊チームと協力して、高い位置から生存者を探して貰う。
それと別に――。
「ウォン! 来たぜっ。オレは来たぜ!」
「すまないな。警備員配属されたばかりなのに、こっちに来てもらって」
「私たちの鼻が必要なんでしょ? 手伝うに決まってるじゃない」
「任せろ!」
元野良犬たちは、その嗅覚だけでも役に立つ。
「あ、あの。絆スキルの川口です」
「あ、俺と握手をお願いします。俺ひとりで先にダンジョン内を走り回って生存者を探すので――」
見つけたら、可能な限りの人を連れて瞬間移動をして欲しい。そう伝えた。
「わかりました。移動先の握手をする相手は二人までです」
「二人?」
「あ、はい。右手で握手した人と、左手で握手した人のところに行けるんです」
じゃあひとりでダンジョン内と地上を行き来出来るのか!
こりゃ便利だ。
「もう片方は病院待機の支援部隊の奴と握手してもらおう。よし、捜索隊、及び協力者は全員バスに乗り込め。安虎病院に向かうぞっ」
川口さんと右手で握手を交わすと、彼はその右手に手袋をはめた。
間違って他の人の手と触れた時に、移動先が上書きされないためだろう。
「悟くん。ヴァイスちゃんをこの鞄に」
「ありがとう、サクラちゃん」
「息子よ、行くぞ」
「ケッ、ケッ」
「じゃあ、俺たちはダンジョンへ行こうか」
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