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89/125

89:都心、四つ目。

 揺れは長いものではなかった。

 そう激しくもなかったけど、凄く嫌な感じのする揺れだ。

 待機室ではすぐさまテレビをつけ、ネットでも地震速報が流れるのを待つ。


「ブライト、悪いけどさ、飛んでくれないか?」

「あ? どこに」

「この辺りだ。本部から五分ほどの距離でいい。そこからここを中心にしてぐるっと一周して欲しいんだ」

「またなんでそんな? まぁいいけどよ」

「その前に、サクラちゃん、スマホ貸して」

「どうするの?」


 サクラちゃんから借りたスマホから、俺のスマホに電話を掛ける。ボリュームは最大にしてスピーカーに。

 それを、ブライトのベストに入った保冷剤と交換して入れる。


「そこ、窓お願いします」

「うし。ブライト、ここから行ってくれ」

「はいよ。んじゃ行って来るぜ」


 待機室の窓から飛び立ったブライトは、そのまま真っ直ぐ飛行する。

 やがて見えなくなり、俺たちはテレビをじっと見つめた。


 流れてこない地震速報。

 一分……二分……三分……。


「だあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」


 五分を過ぎた頃、ブライトがもう戻って来た。

 その慌てぶりから、揺れた時の『嫌な感じ』が当たっていることが想像出来た。


「ブライト」

「ダダ、ダ、ダ……ダンジョン生成だ!! あっちに黒い渦がぐるんぐるんして、ビルが吸い込まれた!」

「ビルって、おいどっちの方角だ!?」

「部長を呼べ! 要請以外で外に出てる奴も全員連絡しろっ」


 みんなが慌ただしく動き出す。

 都心に、四つ目のダンジョンが……早く救助にいかないと!


「サクラちゃん。備品室に行って、ポーションや携帯食、毛布をボックスに入れられるだけ入れて来て」

「え? い、入れられるだけ?」

「管理スタッフにダンジョンが生成されたって言えば、いろいろ用意してくれるから」

「わ、わかったわ」

「ブライトはしっかり羽根を休めて。出来れば食事も」

「お、おう」


 すぐに指令室への内線を繋げ、ハト部隊に『全鳥本部へ帰還』するよう伝えてもらう。

 理由は、ダンジョンが新たに生成されたから、だ。

 帰還する際、西区ダンジョン内の冒険者にも、そのことを伝えてもらう様にした。


「まったく。何の前触れもなく突然来やがって」

「東区のダンジョンが二十二年前、それから十八年前、十二年前に北、西とダンジョン生成がされて以降、都心には出現しなかったのにな」


 捜索隊に入ってから、近県でダンジョン生成は起こっていない。

 生成に巻き込まれた人の救助は経験がないけど、月一で過去の救助内容から勉強会も行われている。

 普段の救助と変わらない。

 ただ、要救助者が冒険者でないこと、その人数がめちゃくちゃ多いってだけだ。


『出動部隊、指令部隊は速やかに大会議室へ移動すること。繰り返す――』


 後藤さんの声だ。マイクの後ろからもいろんな声が聞こえている。近県に応援要請が出されたみたいだ。

 これじゃあ面接も中止だろうな。


 ……面接。

 あの中に人命救助に役立つスキルを持っている人とか、いないんだろうか?

 いや、戦闘スキルでもいい。元冒険者もいるだろう。


「あ、秋山さん。無線ONでお願いできますか?」

「三石? どこか行くのか」

「ほら、今日、集団面接に来た人たちいたでしょ。あの中に戦闘系や人命救助に役立つスキルを持っている人がいないか、聞いてみます。人手はひとりでも多い方が良いですし」

「そ、そうだな。参加させるかどうかは上が決めることだろうが、スキルを把握しておくのはいいはずだ。わかった。会議室での内容はお前にも聞こえるようにしておく。行ってこい」

「行ってきます」






『現場は上野駅近くのショッピングモール。現在の様子は坊』


 無線から流れてくる状況報告を聞きながら、面接会場になっていた会議室でスキル所持者から話を聞く。


「戦闘経験は?」

「半年ほど……妻が妊娠して、急に怖くなってしまい辞めたんだ」

「戦えますか?」

「あ、あぁ。今でも小遣い稼ぎ程度に、西区の五階でソロ狩り程度には」

「十分です。ご協力いただけるなら、隣の第二会議室の方に移ってください。モニターで大会議室の映像を流しているんで」


 面接に来た人の中で、スキルを持っているのは半数ほど。

 エレベーターの中でサクラちゃんを触ったりブライトの羽根を毟ろうとしたりくれと言ったり、あの人たちはやっぱりスキルを持っていなかった。

 スキルを持っていない人の中にはドローン操縦経験のある人や、元自衛隊の人も。

 自衛隊の人ならスキルがなくても、協力してもらえそうだ。もちろん、ドローンの操縦が出来る人も。


「せっかく来たんだし、俺たちも指令室から指示の手伝いしますよっ」

「なんでもしますっ。私も人助けしたいです!」


 スキルを持たない一部の人がそう声を上げた。同調するような声もちらほら聞こえる。


「指令室にある機材の扱い方もわからないうえに、どう指示を出せばいいか、緊急性のある順位も何も知らない人に指示なんかされたら、現場は大混乱します」

「教えてくれればいいじゃん。新人教育とかあたりまえのことだろ? え? 捜索隊ってそんな当たり前のこともしないの?」

「ではあなたに教育するために、ダンジョン生成に巻き込まれた人たちへ『新人の教育中なんで救助待ってください』って伝えるんですか? モンスターにも同じこと言うんですか?」

「そ、そんなこと言ってないだろ……な、なぁ?」


 男が周りに視線を向けたが、他の人はその視線から逃げるように顔を背ける。

 さっきまで一緒に「やらせろ」って騒いでた癖に。


「あなたとあなた、それからそこの人、あなたも――――以上の人はお帰りください。面接は終わりです」

「なっ。そんな権限が平社員にあるのかよ!」

「はーいはいはい」


 突然、パンパンと手を鳴らす音が聞こえ、ドアの方を見ると――。


「安虎社長? どうしたんですか、こんな所に」

「コ、コーヒー牛乳社長!?」


 コーヒー牛乳社長?

 社長は会議室に入って来て、二十人ほどの肩を叩く。

 さっき俺が指定した人たちだ。


「はい、不採用。人助けより安全な場所にいる自分を優先させようとする困ったちゃんは、うちの会社にはいらないから。はいはい、さようならさようなら。今俺から肩を叩かれなかった方も、申し訳ないですが今日はお帰りください。こんな状況ですのでご理解をお願いします。あ、履歴書は預かるので、俺のとこ持って来てくれるかな?」


 肩を叩かれなかった人たちは突然の状況に困惑しているようだったけど、文句を言う人はいなかった。

 社長に履歴書を手渡し、会釈してみんな出ていく。

 肩を叩かれた人の中にはしれっと履歴書を出す人もいたけど、その場で破り捨てられた。


 若くして社長を務めるような人だ。相手の顔ぐらいすぐに覚えるだろう。

 あの人たちは、ATORAグループ会社のどこにも就職できないだろうな。


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