87:出動・鳥軍団。
「あぁー、今日も暑い」
「僕なんて溶けて死にそうだ」
「ほんとぉ……もうダメぇ~」
「なんで日本の夏ってのは、地獄なんだよ」
八月も終わりに差し掛かっているっていうのに、相変わらずの暑さだ。九月もどうせこんな感じなんだろう。
寒い地方に生息するシロフクロウにとって、日本の暑さはまさに地獄なんだろうな。
長い毛におおわれているサクラちゃんもだ。
外を歩くときは、保冷剤入りのベストをふたりに着せてしのいでもらっている。
「カァーッ。情けねぇなぁ、フクロウ野郎は」
「うるさいよカラス野郎!」
今日はダンジョンパトロール隊の面々を、ダンジョンに案内する仕事だ。
カラスとハト、あとインコで構成されたパトロール隊で、一階から三階までの浅い階層をパトロールしてもらうことになっている。
比較的浅い層では不慣れな冒険者が道で迷ったり、準備不足で怪我をして動けなくなる程度の要請ばかりだ。
この程度ならガッツリ戦闘系な隊員でなくても救助出来る。
そして西区と東区では一階から三階まで飛行系モンスターがいない。
彼らにとって比較的安全にパトロールが出来るってことだ。
「スノゥがいてくれりゃあ、涼しいのになぁ」
「ほんとねぇ~。でもおチビちゃんたちだけで留守番させられないものね」
「ダンジョンに行くまでの間だけでも、一緒に来てもらうとかは? 十五分から三十分ぐらいだし」
「んー、そうだなぁ。相談してみるかぁ」
とりあえず、早くダンジョンに着きたい。
「わぁー、ママみてぇ。鳥さんがいっぱいだよぉ」
「な、なんなのこれ?」
「うわっ。鳥の大行進!?」
「あの自転車、追いかけられてるのか!?」
カラスハトインコが五十羽ほど着いて来ているんだ。目立って仕方ない。
やがて前方にコンクリートの壁が見えてくる。ダンジョンへの入り口を囲う壁だ。
壁のこちら側に冒険者用駐車場があって、バイクや自転車だけは内側に置いていいことになっている。
駐輪中に鳥軍団は壁の上で待機。
初任務ってことで、そわそわしている。
「お待たせ。じゃあ中に入ろうか」
「待ってました! ダンジョンの方が涼しくて、夏の間はずっと入っていたいぐらいさ」
「じゃあそうしなさいよ」
「ぐぬっ。サクラ、あんたは冷たいなぁ。毛は暑いけどよぉ」
ブライトがそう言うのも無理もない。
ダンジョン内は一部の特殊な階層を覗いて、だいたい二十℃に保たれている。
過ごしやすい気温なんだよな。
それもあってか、夏になるとダンジョンの一階には普段ダンジョンに来ないような、スキルはあっても戦闘系ではない――という人たちまで涼みに来てて混雑している。
中にはスキルを持っていない人までいるから、そんな人が奥に行ってしまうと危険だったりもする。
「じゃ、グループ分けしたメンバーで、さっそくパトロールを始めてくれ。何かあったらハトさんスキルで連絡すること。モンスターから逃げてる人とかいたら、助けてあげてくれ」
「でも無理しないでね。武器を持ってる人間は、たいてい冒険者だから。その人たちに助けを求めて」
「ポッポー。それじゃ、しゅっぱ~っつ」
鳥たちも三羽一組でチームを組んでもらい、計十七チームが出発した。
今日はこの一階の構造を覚えてもらうための飛行だ。
「うわっ。なんだこの鳥は!?」
「あ、冒険者の方ですか? 驚かせてすみません、捜索隊です」
「え、捜索隊? え、あの鳥も?」
「はい。野生でスキルを手に入れた鳥たちなんです。彼らはうちに就職して、上層のパトロールをお願いしたんですよ。ほら、この時期ってスキル持ってない人まで入って来ちゃうでしょう?」
「あぁー、涼しいっすからねぇ。それでよくスライムとかコブリンに襲われて逃げて回ってさ」
「あと迷子にもなってるよなぁ。あ、あの鳥たちがそういう人の面倒を?」
頷いて応えると、彼らは「なるほどねぇ~」と。
チームにはハトが一羽、必ず入るように構成してある。
あるハトが『以心伝心』というスキルを持っていて、同じハト仲間とテレパシー的なやりとりが出来るってことだ。
そして上層であれば電波の届く発信機を使い、彼らの位置も本部でバッチリモニターしている。
以心伝心スキルを持つハトは本部で待機し、もし鳥さんチームが迷子になれば司令塔ハトがスキルを使って出口まで誘導。
救助が必要な人を見つけても、直ぐに本部とやり取りして解決することが出来る。
春先に増える新人冒険者対策も、鳥さんチームがいればバッチリだろう。
『悟、上手くいってるようだ。お前は戻って来い』
「はい、後藤さん。そういえば、今日は集団面接の日ってホワイトボードに書いてあったけど、なんの面接なんですか?」
『あぁー、あれな。実は現場出動時の、隊員手当てについてだな、ちょっと規律変更があったんだ。まぁその話も兼ねて説明するから、お前らは戻って来い』
ルール変更?
いったい何を変更するんだろう。




