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85:わちゃわちゃ。

「捜索隊アニマル部隊……いいね!」


 そんな社長の一言で、スキル持ちの動物たちを雇う方向で話が進んだ。

 といっても、どんなスキルか――というのは重要で、今日は秀さんの案内でスキル持ち野良動物たちが暮らす廃屋へとやって来た。

 スキル鑑定のためではない。


「おい、てめーらっ。まず体をしっかり洗え!」

「「うにゃーっ!?」」

「ノミダニくっつけてひと様の前に出れると思うなよっ」

「オレたちは水浴びしてるぜー?」

「そうよそうよ」


 野良猫たちは急遽設営されたプレハブ小屋で、これからシャンプータイムだ。

 カラスやハトたちは公園なんかで水浴びしているから綺麗だ――と主張する。

 でもその水、ずっと溜まりっぱなしのやつだったりしない?

 ってことで。


「ここに綺麗な水を用意したから、改めてこっちで水浴びしてくれる? あと水浴び後はあっちの建物で扇風機回してるから乾かしてね」

「おぉーっ。綺麗な水か。一番のりだぜー!」

「あっ。ずるいぞカンクロー」

「早いもん勝ち……ってい、ポポ子てめぇー!」

「早いもん勝ちなんでしょー? ぽーっぽっぽっぽ」


 鳥類の皆さんはまぁ、うん、水が嫌いってわけじゃなさそうだからいいや。

 カラスやハトの他、インコまでいる。なんでも親が元ペットだった、とか。


 問題は猫だ。

 みんな水を嫌がって大変だ。


 ただ今回は協力な助っ人のみなさんがいる。

 トリマーの専門学校に社長はお願いをし、そこの生徒さん三十人が駆け付けてくれた。


「トリマーって、犬専門だと思っていました」

「あはは。まぁ犬が八割ですけど、毛の長い猫もいますから」

「あぁ、なるほど。確かに」

「なので猫ちゃんのシャンプーやカットも、授業で習います。今日はいい勉強になります。ありがとうございました」

「いやいや、お礼を言うのはこちらですよ」


 秀さんは三十匹ぐらいだって言ってたけど、野良ネコネットワークで知ったとか訳の分からないことを言う猫たちもいて、廃屋には七十匹をちょっと超えるスキル持ち猫が集まっていた。

 どうやらこの区だけじゃなく、近隣の区からも来たようだ。

 なんと、犬も十五頭いた。


「ボク、元飼い犬。スキル貰った、ご主人、ボクをダンジョン入れて、お金稼いでこいって。でもボク、戦うスキル、違う」

「こいつがカタコトなのは、言葉をまったく教えてもらえてなかったからなんだよ」

「戦闘系スキルじゃなくってモンスター倒せねぇってわかったら、こいつの主人はこいつを……」

「でもボク、悲しくない。主、いつも怖かった」


 つまり捨てられた、と。

 スキルを手に入れられたからって、その瞬間から人の言葉を話せるわけじゃない。

 これまで聞いていた言語なら、聞くという点ではほぼ満点。話す方は少し教えてやる必要がある。


 カタコトの子の場合、ペットとして飼われていたころから、主人があまり話しかけたりしていなかったんだろう。

 残り四頭も、純粋な野良犬ではなかった。

 十年前、規模としては東京で一番小さな奥多摩で発生したダンジョン生成に巻き込まれてスキルを手に入れた犬は、そこで飼い主を亡くしてしまい野良になったらしい。

 その犬がスキル持ちで野良になってしまった犬たちの面倒を見ていたそうだ。


「こんな大所帯になってしまって、申し訳なく思う」

「みんな、そんなに働きたいのか?」

「そうだな。我々犬は元来、そういう生き物だ。使命を持って動くことに、喜びを得るのだ」

「オラたち猫はのんびりゴロゴロしたいにゃけどなぁ」


 だけど美味しいご飯を食べるにはお金が必要。そのお金は働かないと手に入らない。

 だから仕方なく働くんだと、猫たちは言う。


 不思議なのは「お金を盗もう」「食べ物を盗もう」という考えがないことだ。

 それが悪いことだと理解しているから、彼らはそれをしない。


「そんなのあたり前にゃろ?」

「うーにゃうーにゃ。人間は当たり前に悪いことをする。不思議な生き物にゃあぁ」


 猫にさえわかることを、人間は理解していない。

 人間寄り動物たちの方が賢く、平和主義なのかもしれないな。


「というわけで、はーい猫ちゃんたち~。次はあなたたちの番ですよ~」

「ふぎゃああぁぁぁーっ! 悪魔っ。人間悪魔ぁーっ」

「ノミやダニにだって命はあるにゃーっ!」

「何言ってんのっ。血を吸われてんのよっ。病気にだってなるかもしれないでしょっ」


 なんか凄く良いことを言った後なのに、シャンプーごときで慌てふためくなんてなぁ。

 犬の中にもシャンプーは初めてって子がいたけど、兄貴分の犬が平気な顔をしてシャンプーされているのを見て怖がることなくトリミングされていた。


「あの、捜索隊のお兄さん」

「あ、はい、なんでしょう?」

「タヌキとシロフクロウがいましたよね?」

「タヌキ? いえ、タヌキはいませ――あ、タヌキ、サクラちゃんね」


 いつもレッサーパンダって言うように心がけていたから、いざタヌキって言われると「はて?」ってなってしまう。


「サクラちゃんやブライトたちは、本部で留守番です。連れてきたらノミとかダニが移ってしまうかもしれないですし」

「あー、そうですよね」


 なんか学生さんが少しガッカリしたように見えたけど。


「カァーッ。ワレワレハー、ウチューカラスー、だぁぁぁぁ」

「ゲヒャヒャヒャッ。なんだそりゃ」

「おぉ、面白れーな。俺にもやらせてくれ」

「ポッポー。ワレワレは~、ウチュウ~ハトポッポー」


 扇風機の前で鳥類は何やってるんだ。


 猫たちのシャンプーに手こずったものの、午後から追加で生徒が二十人、水道車もやってきてテントの下で簡易トリミー台も設置してなんとか一日でみんなの体を綺麗にした。

 学生のみなさん、お疲れ様でした。


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