82:殺傷力マシマシと忍者
「ヴァイスのスキルが『トール・ハンマー』と『ホバリング』と『チェンジ』……このチェンジって、一覧に二つ出てるってことは……」
ツララとヴァイスを同時にカプセルへ入れ鑑定した結果、一覧に現れたスキルは全部で六つ。
トール・ハンマー……言わずと知れた雷系最強魔法。ただちょっと他と違うのは、自身が雷を纏って相手に突進するって使い方らしい。
ホバリング……まぁそのままの意味だ。フクロウはホバリング出来ないから、これは飛行能力がぐんと高くなるだろう。
チェンジ……なぜか二つ表記されている。それもそのはず、このスキルは兄妹の位置を交換するというスキルだった。
ウィル・オー・ウィプス……光の精霊を召喚する魔法系スキル。明るくするだけじゃなく、直接相手にぶつけて攻撃することも出来る。
パラライズ・フェザー……ふわふわした光る羽毛を作り出し、それに触れたものを麻痺させる。
「そういえば、ショップのオープン日に、ツララちゃんが整理券持ってない人を見つけたじゃない。その時、光る玉が浮かんでたわよね?」
「あぁ、そういえば。やっぱりあれ、ツララのスキルだったのか」
「えっちぇん。ツララえりゃいの」
「ふふ。偉いわねツララちゃん。でも、ぷかぷか浮かべるだけにしましょうね」
「あーい」
そうだな……間違ってぶつけでもしたら大変だ。
それに一覧にあるスキルのうち、トール・ハンマーとホバリング、チェンジがヴァイスのだとしたら、ウィル・オー・ウィプスとチェンジ、それからパラライズ・フェザーの三つがツララのスキルってことになる。
麻痺させる羽毛……。そこかしこで出されたら困るぞ。
これは本部に戻ったら、留守番しているスノゥにしっかり教育を頼まなきゃな。
「それにしても、トール・ハンマーって……今んとこ確認されている雷属性の魔法スキルの中でも、トップクラスの破壊力を持っているスキルだよ」
「で、ですよね……」
ギルド職員とこそこそ話す。
この二羽……完全に戦闘系兄妹だ。しかも殺傷能力マシマシコンビだぞ。
「ふっ。さすがは僕の子供たちだっ」
「ブライト、あんた泣いてる? 父親としての威厳なくて泣いてる?」
「な、泣く訳ないだろっ」
父親より完全に強そうだもんな。
「でも大丈夫かな。こんな強力はスキルを赤ん坊のころから手に入れちゃって」
「どうかなぁ。人間の場合はさ、実際にスキルがちゃんと使えるようになるまで数年はかかるけど、動物は成長が早いしなぁ」
俺の身体能力スキルはパッシブだし、赤ん坊のころから常時発動していた。
オートマッピングにしろナビゲーションにしろ、使おうと思って使ったのはスキル所持者の訓練施設に行ってからだ。
初めての場所だから覚えるためにって、スキルを使ったんだっけ。それまで必要なかったもんなぁ。
「スキルを手に入れた動物って、普通の子たちより長生きでしたよね? 成長が緩やかになるのかなぁ」
「あー、それ正確なデータがないんでなんとも言えないけど、どうも大人になるまでは普通に育つっぽいよ」
「え、じゃあ大人になってから緩やかになるってこと?」
「たぶん。その二羽は要観察だろうね」
今はもう、獣医さんは常駐していない。でも週一で見に来ると言っていた。
とりあえずアニマルダンジョンベビーは初めてだし、成長のこととかスキルのこととか、いろいろとデータが欲しいんだろう。
特に変な機械に繋げたりはなく、体重や体の大きさとか調べているだけ。変な機械なら、むしろこの鑑定機の方が変な機械だけどね。
「そうだっ。スキルを封印してくれるひと――じゃなく、猫がいるんだ」
「……は?」
「いやだから猫だよ。スキル持ちの。うっかりダンジョンに入ってスキルを手に入れちゃう子供がいるじゃないか。危険性の高いスキルの場合はね、友達との喧嘩で使っちゃったりしないようにさ、スキルを封印するんだ」
「スキルを封印……そんなことが出来る猫がいるなんて、知らなかった……」
「まぁ捜索隊とはあまり関係のないスキルだからねぇ」
スキルが欲しいって人は、大抵、一攫千金を求めてだったり今の仕事を辞めたかったり、冒険者に憧れていたりでダンジョンに入る。
実際にスキルを手に入れたら、ほとんどの人はその足で冒険者ギルドへ向かうもんだ。
そこで手続きをして、スキル訓練施設とかに行く。
でもうっかり、もしくは悪戯でダンジョンへ入った子供たちはそんなことを知らないから、そのまま帰宅。
スキルのことを親に報告するかどうかは、その子次第だ。中にはダンジョンに入ったことを親に知られると怒られるからって、黙っている子もいるらしい。
「で、何かの拍子にスキルが発動して、親が慌てて相談にくるってんだな」
「ブライト正解! さすがお父さんは違うねぇ」
「ふっ。僕ぁ出来る父親だからね!」
「あぁ、それでスキルを封印ってことね。子供のうちは危ないものねぇ」
「そうなんだ。十年前からね、その猫と契約してスキル封じをしてもらってるんだよ。その猫自体は、スキルを手に入れたのは二十年前でね」
二十二年前にダンジョン生成が始まったし、二十年前って言うと結構スキル使用歴が長いんだな。
「行ってみるかい? 都内にいるよ」
「ブライト、どうする?」
「んー。スノゥと一回相談だな」
「そうだね。じゃ、一旦帰って彼女と相談してからまた来ようか」
「あぁ、そうさせてくれ。ところで悟よぉ」
「ん?」
「お前、自分のスキル鑑定を忘れてねーか?」
……忘れてた。
慌ててカプセルに入り、鑑定してもらった結果――。
「硬質化。一定時間、皮膚と骨を硬くするスキルだね。えぇっと、か……三石くんさ、忍者になれるよ」
「え……どういう意味ですか?」
「壁走り。どんな壁でも走ることが可能。ただし歩いたり止まったりすると、落ちる。だってさ」
変なスキルを二つも習得していた……。