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79:母のひとり勝ち。

「――ですから、ご両親の方から息子さんを説得していただきたく、こうして馳せ登場したのです」


 それを言うなら「馳せ参じ」とか「馳せ参上」だろ? 馳せ登場ってなに。


 北区の救助を無事終え、本部に戻ってそのまま仮眠。

 翌朝、着替えを取りに帰宅するさい、何故かアメリカのハンターギルドの人たちがついて来た。

 というか車に乗せてくれた。レンタカーだったけど。


 オーランドはうちに上がるなり寝て、トムって人とエディって人が両親と話がしたいと。

 まぁうちに来るって言った時点で用件はわかってたけどさ。


「息子がそちらのハンターギルドに入ると、アメリカに行かなきゃならないんですよね?」

「そうなります。うちはニューヨークでも一等地に本拠地を構えていますから、大都会ですよ」

「もちろん、息子さんにはうちの本拠地事務所でも最上階のスイートルームを支給するぜ。自由の女神だって見えるぞ」


 自由の女神はテレビでも写真でも見てるし、別に今更見たいとも思わないけど。


 救助から戻って来ても二人は「ヘイ、サトルゥー。うちのギルドに来ないかー」ってしつこかった。

 あんまりうるさいからサクラちゃんが怒って魅了しようとしたけど、まったく効果なし。

 調べたら二人のハンターレベルは160前後。そりゃ魅了が利かないわけだ。

 後藤さんが「不法侵入で警察を呼ぶぞ」と、うちの警備員連れて脅したらようやく本部から出て行ったけど、本部前でずっと俺が出てくるのを待っていたらしい。


 俺を直接勧誘できないのならとうちに来たんだろうけどさ。


「悟がアメリカかぁ」

「Yes! アメリカはドリームがあって、力があればすべてが手に入る国!」

「息子さんならきっと、いや必ず、ハンターランキング一桁台にあがれマス!」

「……しかし悟は、私が下半身を痛めて産んだ子だ。いなくなると寂しいなぁ」

「そうねぇ。私がお腹を痛めて産んだ子ですものぉ。寂しいわぁ」


 俺は父さんから生れて来てないから。

 父さんの言葉に二人のアメリカ人も「What?」って顔してたし。

 しかしこの二人も諦めない。


「でしたらお二人もぜひアメリカへ。なぁトム」

「あぁ、そうだな。親子三人仲良く暮らせるホームをご用意しましょう。多くのセレブが暮らす一等地なんかどうです? ハリウッドスターだって暮らす街から通うギルドメンバーもいますよ」

「まぁあなた。映画俳優さんも住んでるんですって」

「凄いなぁ~」


 心にもないことを言ってら。


「でしょでしょー。アメリカなら介護スタッフだって充実しているし、何不自由のない暮らしが出来るんだぜ」


 あぁあ。別に父さんは不自由だと思ってないから、あんな言われ方すると怒るんだけどなぁ。

 ほら、父さんが満面の笑顔・・になっちゃったよ。


「エディさん、とおっしゃいましたかな」

「Yes。エディと呼んでくれファーザー」

「わたしはあなたのファーザではありません」

「お、oh...」

「それと、わたしは不自由な暮らしはしていません。あなたからすれば不自由に見えるのでしょうが、自分の足で歩けること、動けることが自由っていうことなんですか?」

「え、いや、あの……」

「有難いことに、わたしにはこの日本で設計の仕事をやっています。二年先の仕事までスケジュールは埋まっています」

「そ、それはす、凄い、デス」

「この家も、この車椅子も、わたしが設計しました。わたしはわたしに合ったものを設計することが出来、わたしの知人たちはそれを実現してくれるのです。不自由? そんなものありません。むしろアメリカへ渡れば、そういった人の繋がりを失って不自由になるだけですよ」


 そうなんだよな。

 今の設計事務所はダンジョンがこの世界に現れる前からあって、父さんもそこで設計士をして働いていた。

 こうなってからも変わらず仕事をくれて、父さんはああなったから、体に障害のある人向けのいろんな設備を設計するようになったんだ。


 モンスターとの戦闘で体の一部を失った人とかからも相談を受けたりして、少しでも快適に暮らせるようにってリフォームの仕事もしている。

 仕事が出来るのは、やっぱり設計事務所の人たちのおかげなんだ。父さんは下半身不随になっても、仕事を回してくれたあの会社のおかげ。

 だから父さんは絶対ここを離れないだろう。

 あの会社の人たちが、いつもうちのリフォームに来てくれる大工さんたちが大切な人たちだから。


「それにこれは、日本の高い医療技術でも治せなかったものです。なんだったら悟が勤めるATORAの社長さんが、半年に一度、海外の有名な神経外科医とコンタクトを取ってくれて、今の技術で治せないか相談までしてくれています。その中にはアメリカの医師もいるんですよ」


 え、そんなことしてくれてたのか?


「しかしこの二十二年間、答えは変わっていません。だからなんだというんです。わたしは生きてるし、ご飯も食べれて、ビールだって飲めるし、美味しいものも食べられます。いやぁ幸いと言うか、臓器の方がまったく問題がないものでねぇ」

「下の世話はしなくていいから、楽だわぁ~」

「遥ちゃんに見られたら、恥ずかしくって出るものも出なくなっちゃうよ~」

「やだぁ、賢一くんったらぁ~」


 なんで唐突にイチャイチャしてんの?

 見せられてるこっちが恥ずかしいからやめなよ。お客さんの前だってのに。


「こうお話しても、まだわたしをアメリカに連れていきたいですか?」

「い、いや、あの……で、では息子さんだけでも――」

「エディ」

「ん? ――ぐはっ」


 うわっ。突然トム氏がエディをぶん殴った。

 ちょっと待って。リビングのテーブルが壊れたじゃないか。


「ソーリー! 本当に申し訳ない。ごめんなさい。サトルを引き抜きたい一心で、エディが失礼なことを言いました。どうかお許しいただきたい」

「そうですか。では――あなた方の誠意を見せてください」

「せーい?」

「謝罪が嘘ではないという証拠です。どうか、息子の希望を聞いてやってください。悟」


 父さんはいつもの温和な表情に戻っていた。


「決して息子の希望を、無視しないでくださいね」

「も、もちろん……もちろんです」


 もう父さんが言った意味を理解しているようだな。

 俺の意思は変わらない。


「オーランドを見てハッキリとしました。力が欲しい」

「で、では!?」


 希望に目を輝かせるトム氏。


「もっともっと強くなりたい。そうすれば」

「そ、そうすれば――」

「そうすればもっとたくさんの人を、もっと早く救助出来る。これからは積極的にレベルを上げて、強くなります。日本ここで」

「え……き、救助……自分のためじゃなく、他人のために?」

「うちの息子は、いい息子でしょう? 他人のために一生懸命になれるんですから。自慢の息子ですよ。そう思いませんか、トムさん」


 え、父さんそんな風に思ってたの?

 それとも吐いてもいい嘘?

 でもあの顔は……本気で、そう思ってる?


 え、なんだ、凄く顔が熱く感じる。


「ふぁ~ぁ。トム、サトルの説得は無理だ」

「オ、オーランド」

「サトルにとって人助けが、生まれて来た意義みたいなものなんだ。僕が家族・・を守るのと同じでね」


 オーランドには俺が説得に応じないことはわかっていたようだ。言ってる意味はよくわからないけど。

 それを聞いてトム氏は俯き、それから立ち上がって倒れたままのエディ氏を起こした。

 あの人気絶してるじゃないか。


「三石さん、迷惑をかけてしまった。我々は帰ります」

「はい。でもテーブルの弁償はしてくださいね。うふふ」


 帰ろうとするトム氏に、母さんは満面の笑みを浮かべてそう言った。

 きっと頭ん中で、新しいテーブルはどんなのにしようかって考えてるんだろうなぁ。



ブクマ・・・してくれたっていいんだからね><

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― 新着の感想 ―
現実のアメリカは移民にはドリームのない国なっちゃいましたね
更新お疲れ様です。 やっぱり今回の共闘(?)で、オーランドさんの中で何か変化があったみたいですね。 こういう心境の変化で人間として成長する人って居ますし、オーランドさんは今より更に人気を集める人にな…
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