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75/132

75:どっちが先?

「そ、そんな……アイス・ドラゴンエリアを迂回してこっちに来たのに」

「地図ではそれぞれのエリアを繋げる通路は狭くて、奴は通れないと思ったのに……」

「いえ、実際には通れるんです。ネームドが湧いた時だけ道が広がってるんですよ。そのことにずっと気づかなかった。誰も」


 アイス・ドラゴンを避けて、七十九階で狩りをする人が少なかったんだろう。そもそもここは寒くて、防寒対策も必須だし。


「今、同行者がアイス・ドラゴンを引きつけてくれています」

「え? ア、アイス・ドラゴンを!?」

「動けるようならここから出て、すぐ逃げようと思いますが。怪我人は?」

「大丈夫です。食料も十分にあったし、とにかく出られなかったってだけで」

「まさか通路がドラゴンのブレスで塞がれていたとはなぁ。どこかに隠し通路のスイッチでもあって、それを踏んだのかと思って探しまくってたのに」

「見当違いだったんだな」


 ギルド支給の地図だと、彼らが入ったこの通路は描かれていない。地図にない通路があれば入りたくなるのは、冒険者の性だろうしな。

 ドラゴンは来ないという思い込みと、好奇心でこんな状況になったんだろう。

 でも、考えようによってはよかったのかもしれない。

 この道に入っていなければ、アイス・ドラゴンと鉢合わせしただろうし。


「荷物をまとめてください。アイテムボックスは?」

「あります。脱出するぞ、みんなっ」


 彼らはすぐに荷物をまとめ、アイテムボックスへと収納していく。

 準備が出来たら氷の通路を通って――。


 アイス・ドラゴンはオーランドの方しか見ていない。

 奴までの距離は百メートルぐらいか。あれなら尻尾を振り回されても当たらない。


「よし。今のうちに!」


 通路から出て冒険者を誘導する。



――[出て来た!]

――[タイミングが悪いって]

――[そっちはアカーンッ]



「ダメだ悟っ。柱の後ろになんかいるぜっ」

「え、ブライト?」

「うわっ。アイスリザードだ!」


 アイスリザード……奴の取り巻き!

 しまった。取り巻きのことを忘れていた。


「私に任せてっ。がおぉーっ!」


 サクラちゃんの威嚇でアイスリザードの敵意が彼女に向く。


「みなさんは逃げ――さ、ささ、さ、さ、悟くん!?」

「え?」

「うう、う、うう、う、う、後ろおぉぉーっ」

「うし……い゛っ」

『グルウウアアァァァァッ』

「Hey! なんで急に僕を無視するんだっ」


 ま、まさか……さっきのサクラちゃんの威嚇が、アイス・ドラゴンにも届いた!?

 いや届いてる。めちゃくちゃサクラちゃん見てる!

 このままじゃ救出した冒険者まで巻き込まれる。


「サクラちゃん! 俺に乗ってっ」

「わ、わかったわ」

「俺たちは正面に向かって走ります。みなさんは左へっ」

「わ、わかりましたっ」


 サクラちゃんが落ちないよう足を掴んで走る。


「きゃあぁぁ~っ」

「我慢してサクラちゃんっ。あんなのに追いつかれたらひとたまりもないんだから」

「わわ、わ、わかってるわ。ぜ、全力で、走ってやあぁぁぁーっ」

「うひぃっ。奴ぁ着いて来てるぜ」

「オーランドは!?」

「滑ってる」


 ……なんで!?

 っとと、こっちも滑るっ。カ、カーブを曲がらなきゃっ。曲がらな……。


「うわうわうわうわあぁぁぁ。す、滑るぅーっ」

「サトルぅー。そのままこっちCome Here」

「そう言ってもおぉぉーっ」


 と、止まれない。このままじゃ壁に激突だぞ。

 止まれ、止まれ……うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!


「さ、悟くんっ。悟くん、あなた……壁を走ってるわぁぁぁーっ」

「氷のせいだ。地面と壁が直角じゃなくって斜面になってたから、そのままぁぁーっ」


 壁に激突しないのはよかったけど、そろそろ止まりたいっ。

 いや、壁走行してる間は止まらないでくれっ。



――[悟くん!?]

――[ま?]

――[ふぁーっ!?]

――[悟くん。ついに忍者になる]

――[なんか光ってね?]



「おい、悟! 前だ前!」

「え、ま……うわあぁぁっ」


 え、なんで? 後ろから追いかけてきてたドラゴンが、なんで前に!?



――[一周してんじゃん!]

――[時速百キロ超えで壁走りしたら、まぁそうなるよな]

――[オーランドなにやってんのっ]



「悟くんっ。私を投げて! そうすればドラゴンは私の方に行くはずよっ」

「出来るわけないだろ! 一か八か――はあああぁぁぁぁっ」


 正面にドラゴンの顔がある。その喉が膨れ上がるのが見えた。

 ブレスを吐こうとしている。

 その鼻先に――


「インパクトオォォォッ!!」


 拳を叩き込む!


『ギャオオオオオオオオオォォォォォンッ』


 仰け反るアイス・ドラゴン。

 視界の端に、稲妻を纏った剣を振り下ろすオーランドが映った。

 

「捕まえた! ライトニング・スラァーッシュ!」


 光の筋がドラゴンの首をなぞる。

 やや間があって、筋が通過したところから先、頭の方がごとんっと落ちた。

 一瞬だけ血しぶきが噴き出したけど、それもすぐに凍結する。


「きゃーっ! やったわ。やったわよぉ~っ」

「やりやがったぜ、あの金髪野郎」



――[審議中]

――[ざわざわ]

――[なんでだよw]

――[今のって、悟くんが殴った段階で死んでなかった?]

――[え?]

――[いやさすがに首を落としたからだろ?]

――[ざわざわ]

――[ざわざわすんなw]

――[犠牲者でなくてよかった]

 


 ふぅ。よかった、オーランドがいてくれて。


 ところでどうやって止まろう?


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