74:殴った方が早くね?
――[魔力フィルターの反応が全然ないな]
――[悟くんたちどうなった?]
――[配信映像が氷しか映ってない件]
――[それな]
――[一号さん一回サクラちゃんのとこ戻ったら?]
――[残りは二十四号さんに任せとけばいいっしょ]
――[サクラちゃんの活躍を見たい]
――[金髪の新人君を映してぇ~]
――[え、まだ気づいてない人いたの? あの金髪、アメリカのハンターだよ]
――[ナ、ナンダッテェー(AA略]
「見つけたぜ! きっとアレだっ」
ブライトが見つけた『熱』は、アイス・ドラゴンから近い位置。
だけどその熱源は氷の中だった。
いや。その氷の奥に違いない。
救助要請が入った時には「行き止まりだったから引き返したら道がなくなっていた」だったんだ。
たぶん、冒険者が道に入ってから、あいつのブレスで塞がれたのだろう。
追われていたのか、それともまったく気づいていないのか。それはわからないが、今確実にわかっているのは氷の向こうに熱源がある事。
もし彼らがブレスで氷漬けにされていたのなら――。
「僕のサーモセンサーで見えるはずがないからね」
「あっ。そうね。氷漬けになってたら、温かくないものね」
「あぁ、そうだ。彼らは生きてる。あの氷を砕いて救出しないと」
うっかりオーランドがアイス・ドラゴンを倒したら大ごとだ。今ある通路や空間が塞がれてしまう恐れがあるのだから。
そのためにも――
「オーランド! あそこに要救助者がいるんだっ。ドラゴンがいると邪魔だから、少し移動してくれっ」
「OK」
オーランドがバックステップをしながら、アイス・ドラゴンを誘導。
サーモセンサーに反応があった場所から遠ざかるのを確認して、そこへと向かった。
うぅん……奥の様子はまったく見えないな。
この氷、厚さはどのくらいなんだよ。
「サクラちゃん、ピッケルとか金槌とか、何か叩けそうな物はある?」
「えぇっと、ちょっと待っててね」
「悟よぉ、お前がぶん殴った方が早いんじゃね?」
……そうか!
拳ガードもあるんだ。氷ぐらい!
「サクラちゃんとブライトは少し離れてて。砕けた氷が飛んでくるかもしれないし。あとドラゴンの動きも要チェックで」
「わかったわ。こっちに来そうになったらすぐ知らせればいいのね」
「僕もフェザーで援護する」
アイスロックだって砕けたんだ。同じ氷じゃないか。
「インパクトッ!」
――で砕ける!
ガキンッと硬いものがぶつかり合う音。それからミシミシと氷にヒビが入る。
ヨシ。いける!
「インパクトォォーッ!」
何度も何度も氷を殴り、その度に砕けて飛び散っていく。
アイス・ドラゴンのブレスだからなのか、魔力が込められているからなのか、アイスロックより硬い。
でも砕けないほどじゃない。
ただ氷が分厚くて、通路への貫通はまだだ。
「おっ。悟! サーモセンサーの熱源が動いてるぜっ」
「え? 本当かブライト!」
「あぁ。なんかこっち来てるように見えるぞ」
音で気づいたのか? つまり生きてるし、動く気力もあるってこと。
急げ。急げ。
ドラゴンがこっちに気づく前に助け出すんだ。
オーランドがうっかりする前に助け出すんだ。
いた――見えた!
氷の向こう側で何かが動くのが見えた。
見えたってことは、氷の厚みは残りわずかってこと。力加減しないと、氷を向こう側に吹き飛ばしてしまう。
声は届くか?
「氷を砕きますっ。正面に立たないでっ。聞こえますか!」
応答なし。
クソッ。もう少し削るか。
力加減をして……スキルなしでも少しなら削れないか?
ヨシ。いけそうだ。
少しずつ、少しずつ削って――
――[え、サクラちゃんたちアイス。ドラゴンエリアにまだいるじゃん!]
――[氷の柱んところ隠れてる?]
――[隠れてる姿もかわいい]
――[悟くんは?]
――[ちょw あの外国人ひとりでドラゴンと戦ってるやんww]
――[防戦? いや、遊んでる?]
――[悟くんのパーティーにはいるぐらいだしやっぱバケモノかよ]
――[去年のハンターランク三位だぜあいつ]
――[ちょwwwww」大草原通り越してジャングルになっちゃうwwwwww]
――[悟くんはどこ?]
――[あの氷の中じゃない? あ、ほら壁に穴空いてる]
――[うおっ、光った。インパクトで氷を砕いてるのか]
まだか。まだ届かないのか!?
「――たのか!?」
聞こえた!
「聞こえますか! 聞こえたら返事してくださいっ」
「聞こえるっ。救助の人か!?」
「そうです! 氷を砕くので、正面に立たないでくださいっ。砕けた氷が飛んでいきますのでっ」
「わ。わかった。少し奥の壁際に下がりますっ」
よかった。
人影が後ろへ下がっていく。少ししてその影が大きく手を振っているように見えた。
「ふぅ……インパクトォォォォーッ!!」
この一発で!
願いを込めて拳を叩きつけると、ガラガラと氷が崩れてその先の空間へと繋がった。
ち、力入れ過ぎた?
「大丈夫ですか!?」
「悟くんっ、開通したの?」
「あぁ、もうこっちに来て大丈夫だよサクラちゃん」
「よかったわ~。凄い音がしてたから」
「最後にすげー光ってたな。気合入れ過ぎだぜ」
サクラちゃんとブライトも合流。そして――
「た、助かった!」
「急に道がなくなって焦ったんですよ。外はどうなっているんですか?」
氷の奥にいたのは五人の冒険者。
彼らは外に何がいるのか、知らないようだ。