72:つまりそれは。
「いたぜ! いやがったぜ巨大トカゲ野郎が!」
早めの夕食と少しの休憩の後、捜索を再開して少し先行していたブライトが慌てて戻って来た。
巨大トカゲ……アイス・ドラゴンか。
『こちらでも確認しました。尻尾まで含めると、推定三十メートルのアイス・ドラゴンです』
――[えぐ]
――[まさにボスって感じだけど北区はまだ最下層まで見つかってないんだよな]
――[さすがにマズいだろ]
――[戦わないで迂回して捜索すればいいんじゃない?]
――[でもなぁ、こういう時に限って要救助者がその辺りにいるってオチだろ?]
インカムから流れてくる森田さんの声で確定された。
一年以上も倒されていないネームドモンスター。かなり強いんだろうな。
通常で考えると、ここのネームドモンスターの狩り適正はレベル135ぐらいなはず。でも一年以上狩られていないから、適正は+15ぐらいになっているだろうな。
さっきレベル100になったけど、倒せるのか、そんな奴。
「オーランド、お前レベルは?」
冒険者とハンター。呼び名に違いはあれど、レベルの概念やその計測システムはまったく同じものだ。
「196」
「そっかひゃくきゅ……はぁ!?」
――[ちょwww]
――[この外国人えっぐ]
――[今確認出来る最大レベルって201だったろ]
――[捜索隊新エース登場]
――[さすが悟くんパーティ唯一の人間]
――[悟くん忘れないでやってwwww]
ひゃ、ひゃくきゅーじゅうろく!?
うちのエースの赤城さんだって125……いや先日レベルが上がったって言ってて126なんだぞ。
もちろん、日本にも150ぐらいの人はいるけどさぁ。
200目前とかおかしくないか?
「ジャパンのダンジョンは温いのさ。アメリカだと一階から適正レベル50とか60なんてダンジョンもある。地下五十階での適正は100を超えてるよ」
「うわっ。北区の比じゃないな」
「エゲつねぇな……」
日本でいうとこの中層でも、レベル100を要求されるのか。
しかもアメリカでは個人ランキング性を導入しており、ランキングに応じて国から報酬が受け取れる。もちろん、資源を拾ってくればそれでも報酬が得られるから、ハンターのやる気も出るというもの。
ランキング報酬は500位から。だからランキングを上がろうとして、また維持しようとして必死になる。
強くなることが悪いことだとは思わない。強ければもっと確実に、人を助けることだって出来るだろうから。
でも、お金のために無理してでも強くなろうとすれば、ミスをして命を落とす人だって増えるはず。
実際、日本とアメリカではダンジョンで命を落とす人の人数にかなり差が出ている。
人口に対しての割合にしても、倍以上の差だ。
なんでそんなにって思ってたけど、こういうカラクリがあったんだな。
「サトル。アイス・ドラゴンは僕が倒す。君たちは安全な所でみているといい」
「……わかった。取り巻きはどうするんだ?」
「それも問題ない。切れぬもんなど、我がミスリルの剣にはない!」
なんで急にカタコトになるんだよ。どっかで覚えてきたセリフだろ。なんか聞き覚えがあるぞ
一個人として不安があるものの、オーランドのレベルなら負けることなんてないだろう。
俺たちが近くにいたんじゃかえって邪魔になる。
少し離れたところで見ていよう。
デカい。あの体じゃ、ここから他所にはいけないんだろうな。
ここからオーランドとドラゴンの対決を見守ることになる。
オーランドがドラゴンと戦うため、ひとりで通路から出て行った。
戦う……本当に戦う必要があるのだろうか?
あの図体だ。通路は通れないし、ここ以外に移動することだって出来ない。
ならここを迂回して別の道を捜索する手だってある。
ここでアイス・ドラゴンと戦ってるだけ時間の無駄なんじゃないか?
「もしかすると七十九階の氷って、あいつが吐いた息かしら」
「それはねーだろサクラ。あっちの通路はあいつには狭いだろ」
「あぁ、それもそうね。体が大きいから、ここから離れられないのね。じゃあここを避けて歩けばドラゴンと出会わずに進めるんだから、わざわざここで遭難する人もいないか」
そう。奴はここから他所には――ん?
ギルド支給の地図と俺のオートマッピングの地図……見比べて気づいた。
ギルドの地図がいつ作成されたのかわからないが、一致していない箇所がいくつもある。
ギルド支給の地図では道なんて描かれていない場所が、俺のオートマッピングでは道になっていた。
その逆も然り。支給の地図では道になっているのに、俺のオートマッピングでは道がない。
「ネームドモンスターが巨大だから、出現時には構造が変わる仕組みなんだ!?」
「え? そんなダンジョンがあるの?」
「ある。大型のネームドモンスターが湧く階層の一部は、そういう造りのところもあるんだ」
ここがそうだと知られていないのは、正確な地図をこれまで誰も作れなかったからかもしれない。それにこの下層だ。下りてくる冒険者も限られていたしな。
「森田さん、鈴木さん。ドローンを飛ばしてください。ドラゴンが移動出来そうな通路が奥にないか、確かめたいんです」
『了解です』
『ラジャ』
「ついでに要救助者が閉じ込められていそうな場所がないかも、調べて貰えますか?」
――[つまりそれは俺らの仕事!]
――[視聴者参加型捜索きました!]
――[うおおぉぉぉ。探せ探せぇー]