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71/124

71:バグってるだけ。

「思う様に走れないから、時間かかるなぁ」

「Sorry……」

「え、なんで謝るんだよ、オーランド」

「僕は時速100キロで走れないし、サクラちゃんより重いから」


――[オーランド、おんぶされたいのか]

――[アッーー]


 ……いや、そういう意味じゃないから。

 それに重いって、お前を抱っこして走る訳ないだろ。


「そうじゃなくって、こんな氷の上だから走ると危ないだろ」

「滑るわねぇ、きっと。止まれなくって壁に激突よぉ」

「あー、ナルホド。それは危ないね。サトル、走るなよ」


 だからそう言ったじゃないか。なんか彼、ちょっとズレてるよな。


――[スケート靴持ってくればよかったんじゃね?]

――[天才現る]

――[アイスリンクみたいに平じゃないから無理だろ]

――[あまりにも早い論破]


 走ると滑るから、なるべく早歩きぐらいの速度で捜索を続ける。

 俺はオートマッピング中の紙と、支給された地図とを見比べながら歩いているから、出て来たモンスターは全部オーランドに任せっきりだ。

 七十九階のモンスターだってのに顔色一つ変えず、無造作にも見える太刀筋で一刀両断しまくるオーランド。

 凄いなんてもんじゃない。ブライトもサクラちゃんも、手を貸す暇すらないんだからな。


 時々ブライトが先行して飛んでは戻って来る――というのを繰り返し、時刻は十八時を回った。


「夕食にしようか。それから少し休憩して、また捜索を再開する。オーランド、徹夜になるけど」

「構わない。ダンジョンに入ればたいてい数日は眠らないから」

「まぁ、それじゃあ不健康よ。悟くんも捜索中は全然眠らないし。休めるときにちゃんと休まないと」

「oh、サクラちゃん。優しい」

「はいはい、いい子ねオーランド。いい子だからご飯の準備手伝いなさい」

「イエッサー」


 サクラちゃんに頭ペシペシされて、オーランドが調理の準備を始めた。

 あ、アイスロックがこっちに来てる。

 オーランド……はこっちをチラっと見ただけで、すぐに準備の続きを始めた。


 おい、モンスターに気づいてるんだろ。

 おい、倒してくれよ。

 おい、俺はまだか弱いレベル61なんだぞ。


 くっそぉ。


 こっちに来てるのは一体だけ。

 く、砕けるか?


 サクラちゃんから貰ったグローブを技術研究部に持って行って、少し改良して貰った新グローブ……ここで性能をテストしてみるか。

 拳を守るために、インパクトの衝撃を和らげる素材を上から縫い付けて貰っている。

 凄いのは、こちらが与える衝撃は100%対象に伝わるのに、跳ね返ってくる衝撃はこれまでの50%に半減してくれるとこ。

 捜索隊専属医の話だと、俺の骨には一切ダメージはないけど、皮膚の方に多少ダメージが来てるって言う事。

 インパクトを多用した後は、少しうっ血してるところもあったりした。

 それが改善されるだろうってことだ。


「あら、悟くん?」

「ちょっと行って来る」

「君の実力、見せて貰うよ」


――[悟くん?]

――[配信止めないで! 止めないで!]


 やっぱりそのつもりでスルーしてたのか。


「ダメだったらすぐ助けろよ」

「わかった。助けてやる代わりにツララちゃんとツーショット撮らせて」

「……ブライト?」

「娘はやらねぇーぞおぉぉぉーっ!」


 またなんか変なテレビ見たな。

 はぁ、行ってこ。


 拳を握りしめ、ノシノシとやってくるアイスロックへ向かって歩き出す。

 氷の塊であるアイスロックは、石系モンスターの一種で動きは多分に漏れず遅い。

 ただ奴は氷属性の魔法を撃ってくる。

 撃たれる前に、打つ!


「インパクトォォーッ!」


 最近は不発することなく打てるようになった、俺唯一の攻撃スキル。

 拳の保護カバーもあるし、安心して全力打ち込みが出来る。


 俺の声に気づいたアイスロックと、目が合う。

 目……あったんだ。


 と思った時には拳が奴の頭部? 額? とにかくヒットし、氷が――。


「砕けた……。え、意外とモロい?」


――[もうおかしいだろww]

――[モロくないモロくないww]

――[悟くんのパンチ力がバグってるだけですからっ]


 砕け散った氷の破片は後方に吹き飛ぶ。あ、なんかドロップした。原油石かな?

 貴重はエネルギー資源だし、持って帰ろう。


「サクラちゃん、これ入れといて」

「え、えぇ……悟くん、適正120のモンスターを、一発で倒しちゃった……」

「あ、あぁ、うん。なんか思ったよりモロかったみたいだ。氷だからかな?」

「アイスロックはモロくはない。僕でも属性を付与して刃を保護しないと、刃こぼれさせてしまうぐらいにはね」


 ま、まぁ剣とは相性が悪いんだろう。

 あ、冒険者カードを見てみようかな。さすがに一体倒した程度じゃどうにもならないだろうけど。


「って、レベル100になってる!?」

「よし、サトル。このまま最下層を目指そう。そうすれば僕に追いつけるはずさ」

「い、いやいや。ここはまだ最下層が発見されてないんだ。それ以前に、俺たちは救助者を探しに来たんだぞ。レベリングをしに来たんじゃない」


 そう言うと、オーランドはどこか理解できないというような表情を浮かべる。


「サトル、何故他人を助けるんだ? 遭難するということは、実力もなく下層に下りたと言う事だろう。自分の実力もわからない奴は、助ける必要はない」

「実力がなければ助けなくていいって、誰がそんなこと決めたんだ。そもそもここまで下りてこれたのは運だけじゃない。実力があったからだ」


 上層の方だと、運よくちょっと下まで行けた――というのはあるかもしれない。でもこの階層まで来たら、運なんてものはない。実力だ。

 

「トムもエディも、他のクランメンバーだって言っている」

「自分たちが強いから、他の人を見下しているだけだ。助け合うことがいけないことなんて、そんなのおかしいだろ! なぁオーランド。お前はダンジョンで生まれた後、どうやって地上に出たんだ?」

「アメリカ陸軍の特殊部隊が来て救助して……助けて、もらった」

「俺もだ。俺は、一緒にダンジョン生成に巻き込まれた後藤さんが救命士で、母さんが産気づいて助けてもらったんだ。当時外科医の卵だった後藤さんの奥さんも手伝ってくれて、それで無事に産まれてこれた。モンスターが襲って来た時、父さんが俺たちを守るため囮になって……戻ってこない父さんは死んだと思ってたよ。でも生きてた。救助に来てくれた自衛隊の救助隊に救出されていたんだ」


 ダンジョンベビーは、生まれた時から凄い力を持っていたわけじゃない。

 スキルはあっても、それを使える知識も体力も力もなかった。赤ん坊なんだから、当たり前だ。

 世にダンジョンベビーがいるってことは、赤ん坊を救った人がいるっていうこと。


 俺たちは誰かに助けられて、今生きている。 


「だから俺は捜索隊に入ったんだ。助けてもらったから、誰かを助けることにした」


――[悟くんが思いのほかしっかりしててちょっと感動した]


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