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70/123

70:そう言えばあったね、そんなスキル。

――[配信始まった! 今北産業]

――[なんかもう始まってる]

――[うっかり配信スイッチ入れ忘れたとか?]

――[可能性はある。うっかりサクラちゃんとうっかり悟くんだし]

――[ざわざわ]

――[外国人? 誰?]

――[人間の新人!?]

――[悟くんチーム初の人間]

――[それは悟くん含め人外パーティーってことだよな]

――[審議中]



「地図の未記入地帯を散策中、通路が行き止まりだったから引き返していたら……」

「道がなくなってたって、救助要請にはあったみたいね。どういうこと?」


 スマホで受け取った資料にはそう書いてあった。

 ただ途中でスマホの電波状況が悪くなったようで、冒険者からの通信は途切れてしまったらしい。

 一般の人が使うスマホと違って、冒険者や俺たち捜索隊が使っているものは電波の送受信方法が違う。

 こっちのスマホは持ち主の魔力を介して、ダンジョン内に設置した魔導電波塔を使って送受信している。

 電波状況が悪くなった要因として考えられるのは、持ち主の魔力切れか、その階層の電波塔が壊れたか……。


「もしくは、魔導電波を遮るほどの力で塞がれたか、だろ? サトル」

「道を引き返していたらなくなっていたっていうのがね。塞がれた可能性はあると思う」

「道を塞がれたって、ここは可動式ダンジョンなの?」

「ギルドから貰った資料には書いてないから違うハズだ。でも」


 ここは氷に覆われた階層だ。生息しているモンスターも氷属性の奴らが多い。中には氷の魔法を使う奴もいる。

 それで道が塞がれたのだとしても、魔導電波を遮れるかな?

 そもそも魔法やスキルの類は、一定時間で消えるんだぞ。


「サトル、この階層にネームドは?」

「え……えっと……いる。これ、マズいんじゃ……」


 ギルドの資料に書かれていたネームドモンスターは……アイス・ドラゴン。

 ドラゴンって、モンスター最強クラスの種族じゃないか。

 一部のファンタジー好きオタクに大人気だけど、正直、ドラゴンになんて遭遇したくない。


 ネームドモンスターはそれを狙う冒険者が競って倒したがる。湧いてから倒されるまで一日と持たないことも珍しくない。

 この前のトレントなんかは旨味がないからって不人気だけど。

 でもドラゴンは違う。

 鱗一枚で億のお金になるっていうのに、強すぎてほとんどの冒険者が手を出せないでいる。


「ここのアイス・ドラゴンはもう一年以上倒されてないって……」

「それはダメだね。モンスターは生存時間が長ければ長いほど、力を蓄積するからね。まぁ、僕の敵じゃないよ」


――[ドラゴンキタ――(゜∀゜)――!!]

――[いやこれマズいって]


 マジか……。

 でも魔導電波を遮断するぐらいの力となると、やっぱりこいつだよなぁ。

 ってことはこいつの近くに要救助者もいるはず。






「見つからないわねぇ」

「先に座標を伝えてくれればよかったんだけどなぁ」


 その前に通信が切れたから仕方がない。

 長時間歩き続けたから、いったん休むことにした。

 スイッチを入れ忘れていた配信は、休憩時間には止める。バッテリーの節約だ。


 コンセント不要のセラミックスヒーターを出して暖をとる。

 足元も壁も天井も全部氷で覆われているので、地面に直接座ると寒い。

 とはいっても、一面氷の世界なわりに気温は-5℃程度。


 アウトドアチェアを出してカセットコンロでお湯を沸かす。


「ヌードル! いいねぇ」

「塩と醤油と味噌、あととんこつもあるけど、どれがいい?」

「ヌードルでいい」


 ……だからどの味にするか聞いてるのに。

 俺は味噌食べたいし、醤油を渡しておこう。

 それにしても……。


「何やってんの……」

「ん?」

「何って、なぁに?」

「いや……サクラちゃん、なんでオーランドの膝の上に? それからブライトも」


 椅子に座ったオーランドの膝の上にサクラちゃんが。

 ふわもこフードを被ったオーランドの頭にはブライトがいる。

 どういう状況?


「もふもふだから」

「寒いんだもの」

「僕ぁ頼まれたんだよ。ホットスポットのスキルを」


 ホットスポ……ああぁぁ!

 すぐに椅子を移動させる。オーランドの後ろ側だ。

 彼と背中合わせになる形で座る。


「うわぁ、暖かい。ヒーターいらないじゃん」


 忘れていた。ブライトには周囲を温かくするスキルがあることを。

 いつの間にオーランドはブライトのスキルのこと知ったんだ。

 まぁ待機室でもずっとサクラちゃんやブライト一家の傍にいたもんなぁ。


 カップラーメンにお湯を注いで醤油味を彼に渡す。

 膝の上ではサクラちゃんが茹でたササミを食べてて、頭上ではブライトが鹿肉を食べている。その肉はオーランドが箸で与えていた。しかもちゃんと自分用とブライト用で箸を使い分けている。

 動物、好きなんだな。


「オーランド。お前ほんとに動物好きなんだな」

「アニマルは家族だ」

「家族?」

「ん。家族」


 オーランドがスマホを差し出してきた。写真を見せてるのか。

 写っているのは猫、猫、羊に犬、アヒル!?

 あと子供。


 この子供……金髪碧眼のこの子って、もしかして。


「オーランド?」

「五歳の頃。こっちは三歳、えっと、これは――」


 動物ばっかりだ。写っている人間といえばオーランドだけ。写ってない写真の方が多い。

 オーランドの両親は?


「いない」

「え? 何が?」

「僕の両親がどこにも写ってないから気になっただろ?」


 思ったけど……よくわかったな。


「両親はいない。パパはダンジョン生成のときに、ママは僕を産んでそのまま」

「え……」

「ただ……ママはスキルを手に入れたんだ」

「生成に巻き込まれた時に?」


 オーランドは頷き、彼の母親のスキルが「アニマルテイマー」だったことを教えてくれた。

 そこまで話して、彼は口を閉じてしまう。


 もしかすると、彼を産んだ母親が死の直前にスキルを使って何かをしたのかもしれない。

 一緒に生成に巻き込まれた動物がいて、その動物に命令をしたのかも。

 息子を守って欲しい――と。


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