7:キタ――(゜∀゜)――!!
「あぁん、まだ見つからないわ。どうしましょう。生きてるわよね? 大丈夫よね? 心配だわ」
時間が経つにつれ、サクラちゃんの口数が増えていった。
元々よく喋るタヌ、レッサーパンダだと思っていたけど、不安を紛らわすために喋ってないと落ち着かないのかな。
「あっ、ごめんなさい。ずっと喋りっぱなしだったわね。口じゃなく、足を動かすべきよね」
「足も動いてるから大丈夫だよサクラちゃん」
「そ、そう? んー……でもこんなに見つからないものなの? これが普通? 私がお喋りなせいで見つからないなんてこと――」
「それはないから。こればっかりは運も絡んでくるし、数日見つからないなんてこともあるよ」
端末への登録がないときはそんなもんだ。
確かに彼女はよく喋る。
でも救助者が見つからないことをお喋りに、因果関係は微塵もない。
「本当に? 本当に関係ない?」
「うん。サクラちゃん、気になる事でもあるの?」
「え……うぅん……ほら、私さ、前は冒険者パーティーにいたって言ったでしょ?」
さっき言ってたな。アイテムボックスを持っているから、荷物持ちとして雇われやすいんだろう。
「そこでもね、こんな風にずっとお喋りしてて……あ、私、スキルを手に入れてから三カ月は、職業訓練を受けていたの。あと悟くんみたいに、勉強もしてた」
「じゃあ、パーティーにいたのって実質三ヶ月?」
「ううん、一ヶ月半よ。クビになったの。うるさいからって」
――[ひでぇ]
――[そいつら吊るし上げろ]
パーティーを強制的に追放されてからは、また職業訓練施設に戻ったそうな。
で、半月前にうちの会社の社長の目に留まって、スカウトされたらしい。
この半月は捜索隊の仕事を学んだり、捜索隊が使うアイテムの使い方を学んだり、それなりに忙しかったようだ。
「最初はね、宮城の捜索隊に配属されることになってたんだけど……どうせなら都会に出たいじゃない!」
「え、そう?」
「そうよ! 若者なら誰だって憧れるわよ!」
「……ごめん。生まれも育ちもここだから、よく、わからない」
「んもうっ。悟くん、リアクション薄すぎぃぃ」
喜怒哀楽の表現がヘタなのはわかっている。
ダンジョンで生まれた者は、大なり小なりみんなそうだから。
ダンジョンの異様な空気が、脳の感情の司る部分に悪影響を与えているのでは――という学者の意見もあった。
「このルートの捜索は完了。次はこっちのルートを行ってみよう」
「わかったわ。あぁ、早く見つからないかし――いけないわね、また同じこと言ってる。ごめんなさい、悟くん。うるさくしてるわよね。少し静かにしてるわ」
「え? 気にしなくていいのに」
「でも、悟くんは普段、無口で静かな子だって聞いたわ。静かな方がいいんでしょ?」
「うぅん……」
確かに口数は少ない方だ。だからって静かなのは好きというわけじゃない。
むしろ賑やかな方が好きだ。自分が仕事以外ではあまり話さないから、誰かが話しているのを聞くのは好きなんだ。
賑やかな場所にいると、今、自分が生きているんだって実感出来るから。
「サクラちゃん、喋ってよ。俺、サクラちゃんの声を聞いてるとき、自分が生きてるんだって思えるんだ。生きてるから聞こえるわけだしさ」
「悟くん……」
「それに、要救助者がどこかで身を潜めているかもしれない。サクラちゃんの声が聞こえたら、向こうから応答してくれるかもしれないだろ?」
救助を求める理由は、だいたい負傷が原因だ。
回復剤が切れて動けなくなり、どこかに隠れて救助要請を出す。生存率を上げるためなんだけど、実は捜索する側も見落としやすくなるっていう。
だから定期的に「おーい」と呼ぶんだけど、今日はサクラちゃんが喋ってるし、いいかなってやっていない。
「サクラちゃんの声を聞いて、きっと安心して応答してくれるはずだ」
「わ、わかったわっ。私、いっぱいお喋りするわ! えっと、えっと、そうね。要救助者を見つけたら、そのあとはどうするの?」
「うん。まずは怪我の有無だね。ポーションは持って来ているけど、肉体の欠損なんかは治癒できないし」
そうじゃなく、ポーションで治癒出来るようなら、その後は栄養を摂ってもらって、動けるようなら一緒に地上へと戻る場合もある。
その辺りは要救助者の状態次第だ。
たまに背伸びして、実力に見合わない深さに下りて来た冒険者もいるけど、その場合は後発のチームと合流してから、守りながら帰路に着く。
「さっきも言ったように、俺は攻撃スキルがないからさ。俺だけの力で誰かを守りながらダンジョンを戻るっていうのは難しいんだ。サクラちゃんのスキルは?」
「私はアイテムボックスと神速、あと威嚇の三つだけよ。そういう意味じゃ、私も攻撃スキルがないから守って上げられないわねぇ」
「俺たちは完全なスピード組だね」
――[しんそく? めちゃくちゃ早いってことか?]
――[足場の良し悪し関係なく、早く走れる――だろうだ]
――[サクラちゃんに威嚇されたい]
――[アイテムボックスって、捜索隊にうってつけのスキルじゃん]
「私、戻ったら体力つける訓練をするわっ。早く走れても、悟くんみたいに持久力がないから」
「いや、十分あるほうだよ。それにサクラちゃんぐらいなら、抱っこしても全然苦にならないし。大丈夫だよ」
「はうんっ。お、乙女を気軽に抱っこしないのっ」
乙女って……タヌキじゃないか。
「恥ずかしいんだからっ」
でもタヌキ……あ。
「サクラちゃん、静かに」
「え? わ、私、悟くんを怒らせちゃったかしら?」
「サクラちゃん」
耳を澄ますよう、ジェスチャーを送る。
サクラちゃんも気づいたのか、小さな耳をピクんと動かした。
――[まさか!?]
――[キタ――(゜∀゜)――!?]
「聞こえたわっ。おーいって、おーいって聞こえたわっ」
「うん。声が反射してどっちから聞こえて来てるのか、いまいちわからないな」
「任せて! こっちよ悟くん」
サクラちゃんが走り出す。
ここは動物の耳に頼ろう。