68:モテモテ。
「ひと様の会社に乗り込んで来て、堂々とスカウトか」
「正々堂々――という言葉が日本にはあっただろう?」
「使い方が間違っていると思うがな」
「くくくくく。そうか?」
どうしてこうなった。
一階のショップ前で名刺を渡され、スカウトだなんだと言うから無視して待機ルームに戻ってきたら……ついて来た。
そして後藤さんと鉢合わせしてこの状態だ。
犬猿の仲というよりはハブとマングースだな。
「なぁなぁ、ボーイ。人命救助なんかやってないで、金稼ごうぜ。な?」
「捜索隊なら人命救助も出来て給料も貰えますよ」
「いやいや。大金だぜ? それによ、アメリカでもトップのハンターギルドだ。うちに来りゃ、女にモテるぜぇ。な、オーランド」
エディって人だっけか。オーランドの方を見たけど、直ぐにしかめっ面になって俺を見る。
オーランドはどこから持って来たのか、ツララとヴァイスに肉を食べさせていた。
女にモテる、ねぇ。
「あのぉ、お聞きしていいですか?」
「OKOK。なんでも聞いてくれ」
「女性にモテて、どうするんですか?」
「……What? え、ど、どうって……いやいや、男なら大勢の女にモテたいだろう?」
「いえ、別に」
この人、ダンジョン生まれのオーランドと一緒にいるのに、俺たちみたいなのは感情が乏しいってこと知らないのかな?
それともオーランドは違うのかな。女性にモテたい?
「なんでダンジョンボーイは女に興味ねぇ奴ばっかりなんだよおぉぉー!」
あ、オーランドもそうなのか。
「はぁ……信じられないぜ、まったく」
「はぁ、すみません……」
モテたいと思わないといけなかったのだろうか……。
「でもエディさん。いろんな女性とモテたとして、どうするんですか?」
「そりゃお前、モテればいろんな女と付き合えるじゃねえか」
「いろんな人と同時にお付き合いしたら、その人たちに失礼だと思うんですけど。だってそれって浮気ってことでしょ?」
「ぅいっ……い、いや、あの……」
「俺ももしかしたらいつか誰かと結婚するかもしれません。いろんな人と同時にお付き合いしていたなんて、妻になる人が知ったらどうですかね? 悲しみますよね?」
「あ……はい……あの……すみません……」
わかってくれたかな?
だいたいモテたいこととハンターになることと、何の関係があるのか。
「でも悟くん、ある意味モテモテよね」
「え? モテモテって、どういう意味だいサクラちゃん」
「だって、あの人たちは悟くんをスカウトしたいんでしょ? 後藤さんはさせたくないんだし、それってつまり悟くんがモテモテってことじゃないかしら?」
……男にモテモテ?
うっ。なんか寒気がする。風邪でも引いたかな。
お、出動要請?
なんで待機ルームにいる全員のスマホが鳴ったんだ?
「後藤さん」
「お、おぉ、すぐ指令室に行ってくる。お前の相手なんかしてられねーんだよこっちはっ」
「弱い奴なんて助けなくたっていいだろう」
「あんたが遭難したときは助けに行かせんさ。なんで全員のが鳴ってんだ」
「さぁ、なんででしょう……え、要救助者がいるだろう場所……北区の七十九階!?」
「なんだと!? ちっ。赤城たちが出てるって時に」
後藤さんはすぐに待機ルームを出て、指令室へと向かった。
赤城さんたちは同じ北区の六十三階だ。赤城さんたちが捜索する冒険者が七十九階まで行ってたらついでに……。
でもそれはあり得ない。
六十三階で遭難した冒険者が、十階以上も下層に行ってるわけがないし。
「だ、誰が七十九階に? 秋山さんたちだって新入社員の教育で出てるし」
「秋山さんのレベルは80だったろ? 北区の七十九階っていったら適正は120だろう。秋山さんだって無理だろ」
「赤城さんたちエースだけだろ、行けるとしたら」
「今朝出発したばかりだ、早くても戻ってくるのは明日だろ。北区の下層から戻って来てすぐまた下層って、無茶が過ぎるだろ」
みんな誰が出動するのか気になっているみたいだ。
北区の七十九階か。八十階なら俺も行けるけど、それは怪我人の搬送を手伝うために赤城さんに一度連れて行ってもらったことがあるだけ。
「ところで、なんでまだいるんですか?」
アメリカから来たあの三人組だ。
オーランド以外の二人はなんか話し込んでるし、いつまでも待機ルームにいて欲しくないんだけどな。
あ、こっち来る。
「ヘイ、サトル。ミスター後藤に連絡してくれないか」
「後藤さんに?」
「あぁ。我々がその救助、手伝ってやると」
……え?
「その代わり、君が出動するんだ。何、心配しなくていい。オーランドを行かせる」
「僕? つまり、サクラちゃんの活躍が……よし、行こう。僕に任せておけ」
いや、なんでそうなる?
「さ、悟くん?」
でも、今待機ルームにいるメンバーじゃ、北区の七十九階になんて行けない。
アメリカでもトップレベルのハンターだっていうオーランドなら……。
「はぁ……後藤さんに伝えます」
「いい判断だ。君は知るだろう。真の強さというものを。そして君自身、その強さを求めるようになる。きっとな」
……え、なんで?