63:魔改造、はじまる。
「妹はツララ。お兄ちゃんの方はヴァイス」
二羽の雛の名前だ。
ツララはまぁそのままだけど、意外と人間のキラキラネームにもあるんだなこれが。
佐々木さんたち女性陣に相談してみたけど、かわいくていいんじゃないかって。
あんまりかわいいとかは意識してなかったんだけどな。
ヴァイスは、ドイツ語で「白」という意味だ。
なんか響きがいいから選んだ。
「どう?」
「ちゅらら~」
「違うぞツララ。ツララだツララ」
「ララァ」
「ツ・ラ・ラ。ツララだツララ」
お兄ちゃんの方は受け入れてくれたようだ。妹の方も気に入ってくれたみたいだけど、発音が……。
二週間かそこいらの違いなんだろうけど、ヴァイスとツララの発音はだいぶん違うなぁ。
「ツララちゃん、かわいいわぁ。さすが悟くんね!」
「ステキな名前をありがとうございます、悟さん」
「僕が見込んだだけのことはあるぜ!」
「どうも。ところで、本社にはこれからも住む予定? 実はさ――」
実は、我が家の屋根裏収納部屋の改造がついに始まったんだ。
図面は父さん。シロフクロウ一家が暮らせるように、窓もセンサーで開閉するようにするって言ってた。
しかもウッドデッキまで作るって張り切っている。
更に、父さんはサクラちゃんの部屋も改造すると言っていた。
ついに俺のトレーニングルームが全て消える。
サクラちゃんのために細い丸太を置いたりして、遊び場も作ってやるんだとか。
俺……息子なのに……。
トレーニング機器は地下室に持って行かれることになった。
地下は父さんと母さんのシアタールームがある。一階からはエレベーターで下りれる仕様だ。
シアタールームの他に物置部屋があってそこ――ではなく、そこへ続く廊下に置かれることになった。
通路……狭いな……。
「親父さんが僕らのために!」
「私たちのために、そこまでしてくださるなんて。悟さんのお父様になんてお礼を言っていいのか」
「お礼なら別にいいと思うよ。たまに触らせてくれればね」
「そんなもんでいいのか? だったらいくらでも触ってくれていいぜ」
という話を獣医さんにすると、彼女は寂しそうに言った。
「せめてあと半月! 半月くださいっ」
「まぁ引っ越しはリフォームが終わってからなんで、まだ二週間以上先だと思いますよ」
「本当ですか! あぁー、今のうちに写真――データをたくさん取らなきゃ」
今、ぽろっと本音が出ましたよね?
まぁ研究資料とかそういうんじゃないなら、別にいいんだけど。
ツララとヴァイスの二羽は、人の言葉を話して賢いってこと以外は、普通のシロフクロウの雛と同じだという。
ただここにいる限り、もう野生で暮らすことはないだろうから、動物園のフクロウと同じような育て方がいいだろうって。
「食事は冷凍マウスや冷凍ウズラ、あと鶏肉や馬肉ですかね」
「冷凍……」
「あ、でも雛たちはまだ小さいので、鶏肉や馬肉を食べやすい大きさにしてあげてください」
そっちの方が俺の負担がなくて済む。
「もう始まってる……」
「お仕事早いわねぇ、おじさま」
帰宅すると、屋根裏の魔改造が始まっていた。
魔改造を請け負ったのは、父さんの設計事務所の下請けさん。この家もそこの会社が建ててくれたものだ。
サクラちゃんの部屋も、ここの人たちがたった一日で終わらせた。
「お、おかえり悟くん。おーい、そろそろ引き上げるぞ」
「うぃーっす。あ、帰ってきてたか、ぼん」
もう夜の七時だってのに、いつまで働いてんだこの人たち。
「残業代、出るんですよね?」
「お、給料の話か? いやぁ、社会人だねぇ」
「社会人ですよ。ちゃんと残業代、請求してくださいよ」
「心配しなくても、むしろ他の仕事より多めに貰ってるよ」
ならいいんだけど。
大工さんたちが帰って、父さん母さんにブライトたちのことを話した。
「あのさ、魔改造する前にちゃんとブライトたちの意見も聞こうよ。向こうでの暮らしの方が何かと便利ってことだってあるんだし」
「う……そ、そうだったね。こっちの都合を押し付けるわけにはいかないね。じゃあ、工事は中止にしてもらうよ」
「最後まで聞いて、父さん。ブライトたちはこの家で暮らすって言ってる。ただ雛がまだ小さいから、もう少し獣医の傍にいた方がいいだろうって」
半月待って。
そう言うと、父さんはニンマリ笑った。
「半月だな。ふっ。それまでには余裕で終わる」
「……オーバーワークさせないでよね、父さん」
「いつもオーバーワークなお前には言われたくないなぁ」
……何も言い返さないでおこう。