61:商談。
「遠慮しないで好きなものを注文して。あ、ブライトくんたちはまだ日本語読めないかな?」
「すみません、社長さん。私のスキルは発音にしか対応していなくって」
「いやいやスノゥさん。謝らなくていいんだ。金森、読んでさしあげて」
「とりあえずビール。三石くんはお酒ダメでしたかね?」
「……ほうじ茶でお願いします」
ここ……都内でもお高いって有名な焼肉店!?
え、しかも個室? しかも結構広い? しかもしかも動物同伴許されてる? え?
「あの、金森さん。ここって実はATORAの系列店舗だったんですか?」
「いえ、違いますよ。社長はただの常連です」
「じ、常連……でも常連ってだけで、動物同伴を許可してくれるもんですか?」
「ここのビル。ATORA所有なんです」
不動産オーナー……いやでも、それって横暴なんじゃ……。
「ここの肉、買い付け先がATORA所有の牧場で――」
「え、牧場もやってたんですか?」
「ここで提供されている野菜もうちですよ」
「畑も……」
「それから六年前、ここの本店が火災で全焼したとき、店舗再建に向けて全額融資したっていうのもありますね。金利ゼロで」
……つまりここの店は、社長にめちゃくちゃ世話になっている……と。
そ、それは確かにおことわりできないだろうな。
ところで、さっきから入れ代わり立ち代わり店員が来てるんだけど、なんで?
「ん? 写真? ブライトくん、お子さんの写真を撮らせて欲しいそうだよ」
「魂抜くのか!?」
「はははははは。どこでそんなの覚えたのさ」
「アニメだ。江戸末期にタイムスリップしたっていう男子高校生が主人公のアニメで見た」
何のアニメだよ。
その後、ブライトとスノゥは子供たちを写真に撮ることを承諾。
中にはサクラちゃんとの写真も希望する人もいたりして、撮影会が始まった。
途中で店長がやって来て従業員に注意するのかと思いきや、サクラちゃんとのツーショットを所望……。
うちの社長と談話したあと、サービスだと言って小さく切られた肉が運ばれて来た。
「馬刺しの三角バラ肉でございます。お子様たちへどうぞ。なるべく赤身の多い所を選びました」
見るからに高そうな肉だ。こんな肉を差し入れしてくれるとは……よっぽど社長の機嫌を損ねたくないのか。
店長が戻った後。
「いやぁ、こういう店やってるけども、彼も動物好きでねぇ。この前の記者会見の時、ほら、娘ちゃんが孵化しただろう。奥さんの話だと、大泣きしながら配信見てたそうだよぉ」
ただのフクロウファン?
「さぁさぁ、食べよう。食べながら話をしよう」
やっぱり目的があったのか。
「――というわけなんだ。どうかな、君たち」
君たち、の中に俺は入っていない。
「わ、私が!? え?」
「はっ。つまり美しい僕らを商品にするってことだね」
「具体的に、私たちはどうすればいいのかしら? 助けていただいたんだもの、なんだってお手伝いしますわ」
「そんな難しいことなんてないさ。ただ写真を撮らせてくれればいいんだ。まぁたくさんってことにはなるけれどね」
商品――サクラちゃん、ブライト、スノゥ、そして二羽の子供たち。
彼らの公式グッズを作って販売したい。
社長はそう言った。
グッズって……。
捜索隊関連の商品は確かにある。ポーションがまさにそうだ。
でも今社長が言ってるのは――。
「アクリルスタンド! それからアクリルキーホルダーだろぉ、ステッカー、ピンバッチ、文房具。Tシャツなんかもいいよねぇ」
「羽根が抜けた際には、ぜひそれらを限定アクセサリーなどにしたいと考えております」
「お、金森、それいいねぇ」
「わりとどこの動物園でもやっていることですよ、社長。リスペクトが足りていませんね」
どう聞いてもファン向けグッズだ。
誰が買うんだよ、そんなもの。
「アクリルスタンド……推し活ね! だったら社長、悟くんや他の社員さんのアクリルスタンドも、きっと売れると思うのっ」
「んー……それはいいかな。うん、いらない」
「えぇーっ!?」
「サクラちゃん、そんなの誰も欲しがらないって」
「悟くんまでっ。私は欲しいわ! お部屋が殺風景だし、飾りたいわっ」
だったら他のものを飾ろうな。
「よし。だったらサクラちゃんとのツーショットでなら。一個ぐらい」
「交渉成立ね。ふふ、楽しみだわぁ」
やめてくれ……。
「僕らの子供が愛らしすぎて、このまま芸能界デビューも近いかな」
「あなたったら、考え過ぎよ」
「いやぁ、そうでもないよ? うちにね、CM出演のオファーとかも来てるから」
「スキル持ちの動物は言葉が通じるため、CMなんかにも起用しやすいとのことなんです」
「そうそう。シロフクロウのスキル持ちはこれまで観測されていないし、なんたってファミリーだ。映えるだろう!」
ふぅーん。スキル持ち動物って、そういう路線もあるのか。
確かに言葉が通じるから、演技の指示とかしやすそう。
……。
「あの……捜索隊の仕事を辞めて、俳優の道にってことですか?」
「ん? んー……君たちはどうしたい? 芸能界という道でも、十分食べていけると思うよ」
芸能界なら命の危険はない。
そう、させてやるべきなのかな。
「社長さん。私がかわいいから、トップアイドルになれるってのはわかってるわ」
ト、トップアイドル? サクラちゃん?
「でも、アイドルなら芸能界にいなくてもなれるわ。今だって十分、アイドルでしょ? だから私は、私のスキルは、人助けのために使いたいの」
「サクラ、お前ぇ……自意識過剰だな」
「なんですって! がおぉーっ!」
「お、やるか? やるか?」
良いこと言ったはずなのに……うん、いつものワチャワチャしたチームに戻ったな。
自分のスキルは人助けのため……か。
俺が捜索隊に入隊した理由が、まさにそれだったのを思い出した。