6:(´;ω;`)ブワッ
十七階の端末には、要救助者である冒険者二人の登録はなかった。
「十六階での捜索を開始します。十七階へ向かうルートにはいませんでしたので、それ以外を下り階段側からしらみつぶしに行きます」
『後発チームがあと三時間ほどで十六階に到着する。入口側はそちらに行かせよう。それまでに見つかるといいが』
時計を確認すると、昼の十二時目前。少しだけ小腹が空いてきたかな。
「サクラちゃん、空腹は大丈夫?」
「そうね、でもまだ大丈夫! 早く見つけて上げましょう。その子たちだってきっとお腹を空かせているはずよ」
サクラちゃんはそう言うけど、腹が減っては戦は出来ぬ、だ。
――[サクラちゃん天使]
――[マジなんで顔出しNGなん? ぜったい美少女だろ]
――[てかカメラ足についてないか? ずっと見上げるようなアングルなんだよ]
「携帯食持ってるよね?」
「干し芋があるの! 美味しいのよぉ~」
糖分があるのはいいことだ。干し芋なら歩きながらでも食べられるだろう。
「サクラちゃん、食べながら歩こう。俺も食べるから」
「え? お行儀悪くない?」
「え? 普通に町中でも食べ歩きしてる人、いるよ」
祭りにいけば屋台があるし、みんな歩きながら食べてたよ。
――[てか普通にそういう場所あるしな]
――[サクラちゃんはお嬢様っと( ..)φメモメモ]
「そうなのね。じゃあ少し食べようかしら」
「うん。空腹で走ると、体力の消耗が激しくなるからね。食べよう」
サクラちゃんのアイテムボックスから、チョコレート味の行動食を出してもらう。
「悟くん、悟くん。これ開けて」
「あ、うん」
未開封の干し芋の袋は、タヌ……レッサーパンダでは開けにくいようだ。
袋を開けてやると、器用に手を使って一枚だけ干し芋を取り出す。
スキルを手に入れた動物の多くは、サイコキネシスが使えるようになるらしい。
サクラちゃんにはそういった様子がなく、自分の手を使って物を持ったり操作したりしている。
そうだ。後ろ足で立てるからといって、前脚で干し芋を持って食べながら歩くのはさすがに難しいか?
「サクラちゃん。食べてる間だけ、俺が抱っこするよ。その方が落ち着いて食べられるだろ?」
「えぇー!? さ、さっきからずっと抱っこしてもらってたのに、悪いわそんなの。それに、私だって年頃の――きゃっ」
「早く食べて本格的に捜索を開始するよ」
やっぱりこれはチョコ味が美味しいな。前に立井さんがフルーツ味も食えって持って来たけど、あれはちょっと……。
「サクラちゃん、食べないの?」
「え? あ、その、た、食べるわよっ」
――[年頃の女の子を気軽に抱っこするな!]
――[天然? 天然なのか?]
――[けしからん!]
――[俺たちは何でこんなイチャイチャを見せられているんだ]
――[おい、いちゃついてる場合じゃねえ。モンスター映ってんぞっ]
――[うわぁぁサクラちゃん逃げてぇぇぇ]
――[え? 悟くん、今モンスター蹴ってなかった?]
――[吹っ飛んだぞ!?]
「あら? 悟くん、今足元に何かいなかった?」
「え? んー……いた? 何か当たった気はしたけど、石かな。よく気づかずに石を蹴飛ばすんだ」
「そうなの? んもう、気をつけなさいよね。小さな石だって躓くと、意外と痛いんだから」
「大丈夫だよ。靴履いてるし」
サクラちゃんは裸足だから、そりゃ痛いだろうね。
――[石いいいぃぃぃ!?]
――[自覚なし!? モンスター蹴り飛ばした自覚ないんですかこの人!?]
――[ちょっと後藤さーん]
小腹を満たし、水分補給もしっかりしてからサクラちゃんを下ろす。
ナビゲーションスキルを発動させ、オートマッピングで描いた地図をなぞっていく。これから移動するルートだ。
こうすることで地図上でなぞったルートを矢印で指示してくれるのだ。
「ここでは俺も全力では走れないから、サクラちゃんのスピードに合わせるよ」
「どうして全力で走れないの?」
「えっと、全力で走ると角を曲がれないんだ」
「あ、そういうことね。大変なのねぇ、身体能力が高すぎるのも」
「まぁ便利なときもあれば、不便なときもあるよ。子供の頃はコントロール出来ず、それこそ苦労したよ」
保育園の年少組の頃には、一メートルぐらいの高さまでジャンプしてたし、先生をおんぶすることも出来た。
小学一年の体力テストで五十メートルを三秒で走り、走り幅跳びは九メートルを超え。
他の項目も、高校生男子を超える記録ばかりで……。
「クラスの子たちからは、怪物だって言われて怖がられたりもしたよ」
「悟くん……」
本人にその気がなくても、加減がわからなくて他の子に怪我をさせるんじゃないかって。
保護者の中には、こんなバケモノを学校に来させるなって言う人もいた。
そんな声もあって、俺は二年生に上がる頃にはスキル獲得者専門の施設に移った。
「スキルの使い方を学ぶ人たちの中で、俺だけは普通に勉強をしていたんだ。幸いにも、スキル持ちの元小学校教員とかもいたから、その人たちが快く先生になってくれて……サ、サクラちゃん? なんで泣いてるの?」
「なんでって、悟くん、あなたこんなにいい子なのに。みんな酷過ぎるわっ」
――[(´;ω;`)ブワッ]
「仕方ないよ。実際に小さい頃って、廊下を走って止まれず、壁をぶち抜いたこともあるし」
「コンクリートの壁を!?」
「いや、それはさすがに俺でも死ぬよ。ぶち抜いたのは木製さ」
「なぁんだ――って、それでも十分凄いわよ!」
あと木材の上からタイルを張りつけたタイプだったけどね。
――[悟くん、かわいそうなんだけど、ちょいちょいネタをぶっこんでくるな]
――[止まれなかったとはいえ、普通は壁をぶち抜かないよな]
――[まぁベニヤ板ならワンチャンぶち抜けるかも]