表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/135

59:何故・・・。

「ではお願いします」

『トレントに捕まってよく生き残れたものだ。かならず救いますよ』

「よろしくお願いします」


 四十三階の階段まで避難して、捕らわれていた二人の治療にすぐに取り掛かった。

 輸血をして、ポーションを飲ませただけの応急処置にすぎないけれど。

 それから地上側に救急車が到着したら、緊急脱出用風呂敷を使ってひとりずつ地上へ。

 さすがにサクラちゃんとは違うから、風呂敷一枚でひとりしか送れない。

 意識の戻らない二人だけを風呂敷で送り、残り四人はもう少し体力が回復したら四十五階を目指して一緒に脱出してもらう。


 本当なら風呂敷を使いたいところだけど、手持ちは三枚しかない。それに、一枚十二万円の請求になるから、よっぽどじゃないと救助される側の人もなかなか使うって言わないからなぁ。


「もう少しお値段が手頃だったらいいのにね」

「うん。まぁでも少しずつ安くなっているんだよ」


 これまで政府に毟り取られていたATORA製品の使用料が、正しく会社に入るようになる。国外向け製品も続々と出荷されてるってニュースにもなっていたし、利益が増えるだろう。そうなればうちの商品の単価が下がるはずだ。

 実際、少し前まで風呂敷は十三万だったし。


 半日休んで彼らが少し動けるようになったから移動を開始。

 四十三階はブライトを肩に乗せて歩いていたら、サクラちゃんが足にしがみついて来た。

 もしかしてサクラちゃんも疲れたのかな?

 仕方ない。このまま歩くか。


 四十三階は厄介な構造ってだけで、階段までは遠くないのでヨシ。

 四十四階の階段で食事休憩をとってから再出発。

 ここは普通の迷宮仕様で、四人を連れて四十五階への階段まで八時間掛かった。

 ナビゲーションで一切迷わず進んでも八時間か。前に来た時は一時間ちょっとしかかからなかったけど、怪我人を連れているんだから仕方ないか。


 四十五階に到着したらそこから転移装置で地上へ。

 四人も直ぐに病院へ移送して貰って、任務完了だ。


 丸一日の勤務だったなぁ。ってことは、今日は調整休みか。

 あんまり寝てないし、ぐっすり眠りたい。

 さぁ、居眠り運転しないように会社まで戻らないとな。


「会社に戻るぞ。サクラちゃん、カゴの中に」

「はぁ~い。あぁふ~。眠いわぁ、お腹も空いたわぁ」

「あぁ。会社に戻ったら、少し仮眠室を使わせてもらおう。ブライト、かえ――」

「やぁやぁ、みなさん。今日は僕の初陣だったんだぜ。その初陣で僕は立派に務めを果たした! 迫りくる魔物どもをバッタバッタと薙ぎ倒し、僕らは見つけた。要救助者を!!」


 ……元気だな、ブライトは。

 まぁいいや。頭上でけたたましく叫んでくれてたら、こっちの眠気覚ましにもなる。

 街宣車の様に自分の活躍をかなり誇張しまくったブライトの声を聞きながらペダルを漕ぐ。

 眠気と戦いながら、ブライトの声のおかげで会社まで無事到着。

 簡単な報告を済ませ、上階の仮眠室へと向かった。


「なぁなぁ、悟よぉ」

「んー、なんだブライト?」

「うちの息子と娘なんだがな」

「んー」


 眠い。寝たい。


「名前を付けてやって欲しいんだ。僕らみたいなナイスな名前を」

「んー……わかった。何か考えておくよ。とりあえず、おやすみ」

「よぉし、頼んだよ悟。僕ぁ家族のところへ帰る」


 名前……名前かぁ……ねむ……ねむ子……スイマー……うぅん。

 寝よう。


 意識が沈む中、スマホの通知が鳴った気がする。




  

 

「んー……悟くぅん……スマホ鳴ってるわよぉ」


 悟が深い眠りについた頃、サクラが小腹を満たして仮眠室へとやって来た。

 悟のベッドに潜り込もうとしたのだが、ピピピと鳴るスマホが気になって画面を覗き込んだ。


「あら、オーランドからの着信じゃない。えっと――」



【夜勤明けオツカレ】

【きっと今頃眠気に襲われているだろう】

【だから送って欲しい】

【寝姿の写真を】



「寝姿を送って欲しいって……オーランド、どうして?」


 寝ぼけ眼のサクラは、首を傾げながらも考えた。

 ここで悟を起こすべきか、寝かせてやるべきか。


「寝かせてあげたいけど、それだとオーランドのメールを無視したことになっちゃうし。せっかく出来たお友達なんだもの、仲良くしてもらいたいわ。よし、こうなったら私がひと肌脱ぐわよ!」


 サクラは悟のスマホを操作して、カメラを起動させた。

 そして撮影した。


 悟の寝顔を。


「このアングルかしら? うぅん、これはどう? うん、かわいく写ったわ。あ、全身の写真も送ろうかしら」


 悟の寝姿を十数枚撮影したサクラは、満足気にそれを送信した。


「ふふ。喜んでくれるかしら、オーランドは」 






 直後のニューヨーク某オフィスビルにて。


「……何故」


 三石悟から送られて来た十数枚の写真は、どれも全て悟本人の寝姿が写されていた。

 サクラは――ブライト一家は――どこにも写っていない。


 オーランドは送られて来た全ての写真を、ゴミ箱へと移動させた。

 

「サトル……これはいったいどういう意味なんだ? 僕はサクラちゃんたちの寝姿を送って欲しいと書いたのに」


 いや、書いていない。


「君がこの僕に、君の寝姿を見て欲しいと、そう思ったのか?」


 いや、思っていない。


 オーランドの説明不足が招いたサクラの勘違いで、それを受け取ったオーランドも勘違いした。

 これは勘違いが招いた恐ろしい結果。


「彼は……彼はまさか僕のことを――」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ