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57:シュコー

「ではみなさんはここで待っていてください」

「いえ、俺たちも行きますっ。仲間が生きているなら助けないと」

「気持ちはわかりますが、正直言うと足手まといなので」


 四十二階に上がる階段まで戻って来た。

 俺とサクラちゃんだけならもっと早くここまで戻ってこれたけど、四人をあそこに置いていくことも出来ない。

 雑炊を食べてもらって、少し休憩をしたら出発。

 モンスターは俺とサクラちゃんで全て処理し、上り階段に戻って来たのはあれから二時間以上過ぎた頃か。


 仲間を助けたい気持ちがあっても、体がついてこないんじゃ連れていけない。

 ここまで来るのだって時間がかかったのだから。


「さ、悟くんはあなたたちのことを心配して言ってるの。この子ちょっと言い方がきついかもしれないけど、いい子なのよ」

「わかってる。わかってるよサクラちゃん」

「あら、私のこと知ってるの?」

「そりゃあ、有名タ……有名なレッサーパンダだし。美幸と将太のこと、頼みます」

「えぇ、任せて! さ、行きましょう。悟くん」


 俺の言い方って、きついのか?

 足手まといなのは足手まといだし、ついて来られてもかえって危険な目に会わせるだけだから待っててくれって言っただけなのに。

 きつい?


「あの、それお借りしてもいいですか?」


 リーダーと思われる人物が、大事に斧を抱えていた。

 トレントが相手なら良さそうな武器だ。


「これは……美幸を助けに行って捕まった将太のもので……どうぞ、使ってください」

「ではお借りします」


 斧を受け取って階段を上る。するとバサバサと羽ばたく音が頭上から近づいて来た。


「おぅ。やっとお帰りか」

「ブライト。迎えに来てくれたのか。ドローンは?」

『ドローンは念のため、トレントの所で待機させています』


 と、一号さんから通信が入った。

 四人を階段で待機させ、俺とサクラちゃん、ブライトで現場へと向かう。


――[せっかくサクラちゃんとの合流なのにいぃぃぃ]

――[一号さんなんで迎えにいかなかったんだよ!]

――[早く到着してくれサクラちゃん!!]

――[ブライトのサーモセンサーに引っかかったってことは生きてる??]

――[厳しいんじゃね? トレントって血を啜るモンスターだし]

――[でも体温があるってことだべ]


 ブライトの案内で森の中を走る。


「こっちだこっち。ほら、あの木を見てごらん」


 ブライトが顎クイで指し示す先に、ひと際幹の太い木があった。

 太い枝からは蔦が何本も垂れ下がって、それが時折動いて見える。根っこもボコンと地面から出ては潜ったりを繰り返す。


――[サクラちゃんキタ――(゜∀゜)――!!]

――[ついでに悟くんもキタ――(゜∀゜)――!!]

――[ついで言うてやるなよww]


「トレントだな。いいか、決して捕まるんじゃないぞ。サクラちゃんは神速で逃げ回ること」

「捕まるとどうなるの?」

「血を吸われて、最後は全身の骨を砕かれて養分にされるんだ」

「イヤァァァァァァーッ」


 サクラちゃんは小さな手で口元を隠し、全身の毛を逆立てた。


「捕まらなければいいんだよ、サクラちゃん。君ならこの森でも逃げ回るのは簡単なはずだ」

「そ、そうだけど……そうね、悟くんも足は速いんだものね」

「あ、それと。奴は歩くから」

「え……」


 さっきのサクラちゃんの悲鳴で、既にこちらに気づいているトレントが根っこを地面から出し、ゆっくりと歩きだした。


「大丈夫。遅いから」


 移動速度は人間の徒歩とそう変わらない。体が大きいから素早く動けないのだ。

 ただし蔦は違う。

 鞭のようにしなり、鋭く飛んでくる。

 これに捕まると根元に引き寄せられ、そして血を吸われる。


「ブライト! サーモセンサーの反応はどこからだっ」

「中だっ。幹の真ん中、内側に反応が出てる。けど体温がどんどん低下していってるぞっ」


 低下……血を吸われてる!


「きゃあぁぁーっ。悟くん、小さいトレントが出て来たわっ」

「トレントじゃない、切り株オバケだ。トレントが召喚する雑魚だよ。吸血能力はないから安心して」

「よかったわ」

「ただ睡眠ガスを出すから、サクラちゃん、距離を取ってガスマスクを着けるんだ」


――[ガス……マスクだと]

――[ざわざわ]

――[またあのカッコウになるのかサクラちゃん]

――[絵面がヤバいって]

――[視聴者数が増えて来たな]

――[おかえり。俺たちはずっと見てたぜ]

――[途中で二時間ぐらいバッテリー節約って切られたけどな]


 サクラちゃんは高速で駆けまわり、アイテムボックスからマスクを二つ取り出した。

 一つを彼女に装着させてやり、もう一つは俺が装着。


「僕は!?」

「ブライトは高い所にいて。ガスの噴射範囲は狭いから、君の所までは届かないはずだ。シュコー」

「ちゃんと装備出来たかしら? シュコー」

「大丈夫だ、サクラちゃん。シュコー」

「お前らなんか怖い」


――[シュコー]

――[だめだ笑う]

――[真面目な人命救助なはずなのに……]

――[絵面がもう逝ってる]


「あんたたち、こっちへいらっしゃい! えぇ~いっ。シュコー」


――[ダメだ……サクラちゃん……]

――[ガスマスクサクラちゃんのチャーム……]

――[いろんな意味で破壊力が強すぎる]


 サクラちゃんのチャームに引っかかった切り株オバケたちが、彼女の方へとふらふら集まっていく。


「ロック・ファイアの杖だ。シュコー。そいつらは火に弱い。ブライトは上空から攻撃を。シュコー。年輪の中心を狙うんだ! シュコー」

「ホォーッ。僕に任せな! とりゃああぁぁ、フェザー!」


 ブライトの周りに光の羽根が浮かび上がる。それが上空から切り株の頭上? に向かって真っすぐ急降下。

 スコンッと音がして光の羽根が突き刺さる。

 ど真ん中に命中しただろう切り株がそのままパタリと止まって、そして真っ二つに割れた。


 実は秋山さんに教えてもらった、切り株オバケを簡単に倒す方法がこれ。

 年輪の中心に力を加えると、スコーンっと割れるそうなんだ。

 まぁ年輪の中心っていうのが狙い難い所でもあるんだけど。それも上空から見下ろす位置を飛ぶブライトなら、狙うのも難しくないだろう。


 そしてサクラちゃんは、チャームで動きを封じてロック・ファイアの杖を振る。

 植物だから弱点は火。

 体に着火してようやく我に返った切り株オバケだが、もう遅い。

 さすがに倒すまではいかないが、それでもダメージは少なくもない。

 プスプスと煙を上げながら倒れ、もぞもぞ動くので精一杯だ。


『オオォ、オオオオォォォォッ』

「トレント。お前の相手は俺だ! シュコー」


 二人が囚われているのは幹の中。


「ブライト。センサーで見える二人の反応の上と下、左右にフェザーで印を付けてくれ! シュコー。斧でぶった切る! シュコー」

「任せろっ。しゅこー」


――[お前マスクしてねーだろww]

――[口で言うな腹痛いwwwwww]



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ブライト 無線機じゃあ無いんだから、シュコーすな!!
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