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56/134

56:反応があった。

 ナビゲーションスキルのおかげで、なんとか四人の下へ到着した。

 うまくモンスターの進入をある程度防げる壁つきの踊り場を見つけたもんだ。それで襲われずに済んだんだろう。


「まずはポーションを」

「す、すまない」

「サクラちゃん、ポーションを人数分出して」

「はいっ。あとは?」

「あとは食事を作るから調理キットとかお願い」


 怪我はそう多くないけど、ポーションには少しだけ体力を回復する効果もある。

 ひとまずこれを飲ませて、食事が出来るまで我慢してもらおう。

 さっき渡したクラッカーやパン、携帯食は全部食べつくしたようだ。水もない。


「全員食べれましたか?」

「いや……ひとりは目を覚まさなくて……」


 すぐその起きない人の呼吸を確認する。

 生きてる。体力が極限まで減っているんだろう。


「うぅん……捜索隊ではポーションを使うと、追加料金が発生します。さっき飲んでもらったのは通常ポーションです。一本一万円。命に係わることなんで、いちいち確認を取りません。が……」


 この目を覚まさない人には、通常のポーションじゃ足りない。

 数本飲ませても、回復出来る体力は少ないから効果ないだろう。


「効能の強いポーションがあります。一本七万円と高価です。どうしますか?」

「の、飲ませないとどうなるんだ?」

「地上に連れて帰るまで、持たないかもしれません。ただ、大丈夫かもしれないって可能性もあるので、正直、何とも言えないんです」


 医療系スキルがないから、俺としては大丈夫じゃない時のことを考えて行動したい。


「あ、あの……俺たちの捜索は、家族が?」

「はい。費用は貯金から支払うようです。ちなみにさっきのポーション代を含めて、捜索代は今のところ十六万です」

「じゅ……い、意外と少ないんだな」

「まぁ山での救助と違って、ヘリとか使いませんから。燃料といったら、ご飯だけですからね」


 下層とはいえ西区だから、基本料金が安く設定されている。四十階から下だと、基本料金は十二万。

 まだ日を跨いでいないから、さっきのポーション以外で追加料金はない。


「使ってください。いや、正直百万とかいくんじゃないかって思ってたから」

「北区の六十階より下で、捜索するのに五日以上かかればそれぐらい行きますが」


 特上ポーション、一本七万円。

 これは捜索隊技術部で製造されているから原価で使うことが出来る。ギルドにも卸してるけど、冒険者が購入しようと思ったら十万円だ。

 これは怪我の治癒だけじゃなく、細胞を活性化することもでき、体力も大幅に回復してくれる。

 まぁ例のごとく。欠損した体を再生できたりはしないけど。


 眠ったままの人の上体を起こし、口を開いてポーションをほんの少しだけ流し込む。

 飲み込む様子が見られたらゆっくり、少しずつ飲ませていく。

 あとはしばらく様子を見よう。


「よし、じゃあ食事を作ろう。何日召し上がってないんですか?」

「あ……丸三日。あの……上の階に仲間が二人……」

「えぇ。わかってます。今、俺の仲間が捜索していますので。その二人はどうしたんですか?」


 鍋に水を入れ、沸騰させる。そこへ投入するのは、わざとお米を砕いて焚き上げた捜索隊標準装備の救助飯だ。

 水分量多めで炊いたものをレトルトにしたもので、さらに沸騰した水に入れることでおかゆになる。

 米を砕いているから、噛む回数も少なくて済む。なんだったら噛まずに飲み込んでもいい。

 そこに鶏雑炊の元をぶち込んで完成っと。


「雑炊が出来ました。起き上がれますか?」

「あぁ、いい匂いだ。また……また米が食えるなんて……」

「いただきます。いただき……う……んめぇ……」

「ゆっくり食べてください。三日間、胃の中に何も入れていなかったんですから、急いで食べると吐いてしまいますよ」


 勿体ないから吐かないで。


「う、ううぅ……」

「徹! 気がついたか徹」

「め、飯の……匂い」


 うん。食欲は偉大だ。

 目を覚まさなかった人も無事、意識を取り戻した。

 彼には介助しながらおかゆをゆっくり食べさせていく。食べてもらいながら、四人にはこうなった経緯を聞いた。


「四十一階から四十二階で狩りをしていたんだ。二泊三日の予定で、さぁ帰ろうって時にバイオウルフの群れに遭遇しちまって」

「逃げてるうちに方角がわからなくなってしまって。それで見つけたんだ。下りの階段を」

「一時避難のつもりで駆け下りたの。そしたら……そしたら階段の途中で美幸の悲鳴が聞こえて」

「悲鳴? モンスターは階段には入れないハズじゃ」

「いや。美幸はまだ階段に入っていなかったんだ」


 その美幸さんは何かに捕まって引きずられていったそうだ。

 そして彼女を救おうと階段を駆け上がった男性も、同じく捕まって森の奥へ消えて行った……。


 四十二階……。


「二人を捕まえたってのは、蔦か木の根っこじゃないですか?」


 四人は顔を見合わせる。そして顔色を青くした。


「そんな……まさかトレント!?」

「悟くん、トレントって?」

「四十二階に出現するユニークモンスターだ」


 植物系モンスターの中でも大きく、そして凶悪なモンスターだ。

 奴に捕まれば、生きながらにして血を啜られる。ゆっくり、じわじわと。


「それはいつの話なんです?」

「ど、どのくらいだろう。俺たちがダンジョンに入って三日目の朝ぐらいだったはず」


 なら四日前か……手遅れかもしれない……いくらゆっくりと言っても、捕まった人が生きていられるのは二日ぐらいだって聞いた。

 せめてご遺体でも見つけてやれればいいけど。


 そうだ。


「後藤さん。ブライトに繋げてください」

『どうした? そっちの状況は?』

「遭難者を発見しました。四人とも無事です。残り二人は四十二階でトレントに襲われた可能性が高く、アレが相手だとブライトも危険です。すぐ伝えないと」

『トレントだと!? ちっ。すぐブライトに伝える。四十三階の階段に向かうよう言っておく』

「よろしくお願いします」


 通信を切って二分ぐらい経ってか、後藤さんからの通信が入った。


『ブライトが遭難者二人を発見したっ。サーモセンサーに反応があるそうだ!』


 サーモセンサーにって……体温があるってことか!?



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