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51:友好的に。

 どうしてこんなことになったんだろう。

 今俺は、航空自衛隊基地に来ている。

 民営の空港じゃ大勢押しかけて迷惑になるだろうからって、何故かロシア側が指定したのが空自の基地だ。


 何か企てているんじゃないかって職場の人たちは言ったけど、社長は大丈夫だろうって。

 どうしてか?


 そりゃもう。

 同盟国であるアメリカ、そして日本が誇る自衛隊機が護衛という名目で目を光らせ並走飛行しているんだ。

 更にアメリカのハンターギルド……日本でいう冒険者ギルドから協力の申し出があって数名の冒険者が来ている。

 中には俺と同じ、ダンジョンベビーもいるっていう。

 あと全員、動物好き……。サクラちゃんの肉球を触って喜ぶような人たちだった。


 日本側も負けちゃいない。

 全国からAランク、Sランクの冒険者が終結。

 さすがに圧巻だ。


「Hi」

「え? あ、ハイ」

「My name is Orlando。僕の名はオーランドだ」

「……日本語話せるなら、なんでわざわざ英語を使ってるんだ……」

「その方がカッコがつくからだ」


 いや、わからないよ。

 このオーランドっていうのが、俺と同じダンジョンベビーだ。

 さっきから女性自衛官やメディア関係者の注目を集めている。だから近づいて欲しくない。


「僕はダンジョンで生まれた」

「知ってる。俺もそこで生まれた」

「フッ。君とはいつか戦いたい」


 は?


「ちょっとちょっと。悟くんと戦いたいって、どういうことよっ」

「oh、タ……レッサーパンダ。ハイタッチ」


 手を出されてサクラちゃんも条件反射でハイタッチしてるし。

 ハイタッチして嬉しいのかそうでもないのか、オーランドの表情は動かない。

 でもなんとなくだけど、喜んでる気がする。

 顔は無表情だけど。


 ダンジョンベビーと会うのは初めてだけど、俺もあんな風にいつも表情が硬いのかな。


「悟くんと戦うなんて、私が許さないわよ。がおぉーっ」

「oh......トートイ。大丈夫。殺し合いはしない。たぶん」


 物騒なこと言ってるな。たぶんってなんだ、たぶんって。


「勝負の内容次第だ」

「内容……じゃんけんっ」

「「ぽん」」


 咄嗟に言ってみたが、じゃんけんが通じてよかった。

 ダンジョン生まれの人間は、とにかく反射神経が人より格段にいい。

 だからだ。

 かならず出しちゃうんだよ、手を。


「俺はグーでオーランドはパーだ。オーランドの勝ち」

「yes! 僕の勝ちだ」

「俺の負けだ。残念、残念」


 どうやら満足したようだ。口元が笑っている。

 それにしても、オーランドがブライトたちの護衛をすると言って捜索隊に来たのは、あの記者会見を行った日の夜だ。

 アメリカから来たにしては早すぎる。


「オーランド。最初から日本にいた?」

「……何故わかった」


 俺と勝負するために来てたのか!?

 いったいなんで??


「そんなことより、来たようだ」


 オーランドが上空を指さす。

 既に着陸態勢に入った飛行機が見えた。

 その周りには十機ほどの戦闘機が並走しているけど、日本とアメリカのものだ。ロシア機は一機もない。

 何機かは離脱していく。アメリカの戦闘機だ。ここに着陸するわけにはいかないから、護衛=脅しはここまで。あとは自衛隊機が引き継ぐ。


「向こうも冒険者が搭乗しているようだ。思いっきり殺気立たせて、怯えさせてやろう」

「いや、そんなことする必要ないだろ」

「何を言っている。わからせてやるんだよ。彼らに手を出せば、死よりも恐ろしいことになるんだぞと」


 やっぱり物騒な奴だ。

 オーランドの言う彼らというのはブライトたちだろう。

 そのブライト夫妻は、俺たちの足元をずっと行ったり来たりしている。

 生まれた雛は、日本でも有名な猛禽類専門の獣医さんが小さなバスケットに入れて抱えている。


 ロシア機が着陸し、タラップ車が横付けした。

 ドアが開いてまず出てきたのは、明らかに冒険者だ。


 ……おいおい、本当に殺気だしてるよ隣の奴。

 いや、こちらのAランク、Sランク冒険者もだ。

 殺伐としてる……嫌だ。

 ほら、飛行機から降りて来たあちらさんの冒険者が後ずさりしてるじゃん。

 もっと友好的に、笑顔で出迎えようよ。

 俺はうまく笑えないけどさ。


 スキル持ちじゃないと気付かない殺伐とした空気の中、次に出てきたのはガラスケースを抱えた人だ。

 ケースの中にはバスケットが入っており、そこに雛がいることは一目でわかる。

 果たしてこの雛は、奪われたブライトたちの卵から生まれた子なのか。それとも他の番から生まれた雛なのか。

 後者なら……もうこの雰囲気からだと、殺し合いが始まるんじゃないかと心配でしかない。


 ブライトとスノゥは気になるのだろうが、決して彼らに近づこうとはしない。

 後ろには先日生まれたばかりの我が子がいる。獣医さんの周りには赤城さんたちエースと、都内のSランク冒険者パーティーもいる。

 向こうの冒険者が動いたとしても、彼らに勝ち目はないだろう。

 それに、オーランドもいる。彼は俺と違って戦闘スキルを持っていた。

 攻撃スキル持ちのダンジョンベビーなんて、Sランクの更に上だと言っても過言じゃない。

 絶対に敵に回すなの代表格だろう。


 そっとケースが地面に置かれ、彼らは慌てて後ろに下がった。

 顔色が悪い。飛行機酔いしたのだろうか?


 赤城さんエースチームがそのケースを拾い戻って来る。

 すぐにケースが開けられ、ブライトたちとご対面だ。


 雛は小さかった。でも先日の記者会見中に生まれた子よりは大きい。


「孵化して二十日齢ぐらいですね」

「二十日前に孵化してるってことですか?」

「はい。それでも、スノゥさんから聞いた産卵日から計算したら、少し合わない気もします」


 獣医さんの話を聞いて、オーランドの殺気が強くなる。

 だけどブライトとスノゥは構わず雛の傍へと近づいた。


「あぁ、私の坊や」

「傍にいてやれなかったパパとママを許してくれ」


 そう声を掛ける二羽。

 声がかけられると、雛は気だるそうに顔を上げる。

 そして一言鳴いた。いや……言った。


「Ya goloden」










*ロシア語で「お腹が空いた」という意味です。

 ローマ字表記の方を採用しています。ロシア語は環境依存なので

 うまく表示できるかわからないため、こうしました。



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