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5:もっと加減してやれ悟くん。

*このお話から、視聴者のコメントを一部リアルタイムで表示します。

 悟が直接目にしているコメントは[]で表示し、見ていないシーンでのコメントは――[]で表示いたします。





[さとるくんって何者?]

[この人捜索隊じゃない? 制服がそうだし]

[捜索隊でさとる? 特定班出番だぞ!]

[三石悟二十二歳。普通に株式会社ATORA捜索隊のサイトに載ってるぞ]

[うぇ。この人ダンジョンベビーじゃん。どうりで常人離れしたスピードで走るわけだ]

[おいwwwww 去年の百メートル走の記録みろwwww]

[マジかこれ……3.5秒って、もう人間じゃないだろ]

[時速百キロぐらいで走れるってことか? え?]

[バカか? 百メートル三秒台で走れても、それが一キロ続くわけねーじゃん]

[それが続くんだな……二年前の千五百メートルの記録だと一分切ってる]

[ヤベーッ!!!!!]






 サクラちゃんを抱っこして全力で走っている。

 走りながら彼女のスマホに視線を落とし、投稿されたコメントを見た。


「ながらスマホはダメよ、悟くん」

[悟くん、サクラちゃんに怒られてるぞ。前向いて走れよ]

「ごめん」

[素直でよろしい]

[マジ素直ww]


 どうしてこんなことになった……。

 スマホから視線を離して、ちゃんと前を向いて走る。


「サクラちゃん」

「ごめんなさい悟くん。私ね、ほら、入社前は冒険者パーティーにいたの。荷物持ち兼、ライブ配信の時のカメラ担当やってたのよ」


 その時に使用していた動画配信用アプリと、捜索隊で配布されている記録用アプリを間違って開いてしまったようだ。

 配信用アプリは録画と同時にライブ配信がスタートする設定にしていたらしい。


「後藤さん、本当にこのまま配信していいんですか?」

『お偉いさんからの命令だ。続けろ』

「あの、理由を窺っても?」

『視聴者がもう六万人超えてんだぞ! 投げ銭してくれてる視聴者がいるんだ。止めるわけにはいかんだろう』


 お金か……。


「こんな動画にお金を払ってくれる人がいるなんて……特に面白い動画にはならないと思うけど」

「いいじゃない、悟くん。捜索隊って世間からは『税金泥棒』って言われているそうよ。でもこの配信で、いろんな人が捜索隊のお仕事を知ってくれるなら、それはいいことだと思うの」


 うちの会社は民間企業だけど、ダンジョンで取れる資源は国にとって大事なもの。

 そのダンジョンで働く冒険者や採掘者を救助する機関だから、国からの補助金が少なからず出る。

 死体のために税金を使うぐらいなら、生きてる人間のために使え――そういう声だって実際にあるのは知っている。


 確かにご遺体を発見することもある。救助要請を受けて出動した場合、全国的に見て年間の半数はご遺体の回収だ。

 でも……生きてる人だってちゃんといるんだ。 


――[サクラちゃん……マジ天使]


「うぅん……でも……万が一だけど、その……救助が間に合わなかったときは……」


 ご遺体がライブ配信される可能性だってある。

 ご家族の方がどう思うか……。


「後藤さん、やっぱり――」

『うぅん、そうだな……。よし、わかった。ライブ配信をこっちで引き継ぐことにしよう。三十秒ズラして配信するから、もしもの時はこっちで画像処理する』

「配信はするんだ……はぁ」


――[溜息吐くなww]

――[どういうこと? ごとーって誰?]

――[東京本社の現場部長じゃね? 後藤って隊員名簿にある]

――[おぉ! この人、元救命救急士で、悟くんをダンジョン内で取り上げたって書いてある]

――[え、なにそのドラマみたいな設定]


『おほんっ。悟、スマホをスピーカーにしろ』


 スピーカーに?


「はい、しました」

『えー、視聴者のみなさん。捜索隊現場部長の後藤です』


 後藤さん、普段の声じゃなくって営業用だ。


――[ごとさんキタ――(゜∀゜)――!!]


「後藤さん、十五階層抜けました。十六階の端末、確認します」

『お、おう』


――[ちょw ライブ配信始まってまだ一時間経ってないのに一五階層突破っておかしいだろ]

――[さすが時速100キロの男]


 階段を下りる間、後藤さんがスマホ越しに視聴者へライブ配信を捜索隊で続ける旨を知らせる。

 配信サイトのアカウントは広報用に持っているから、そっちで引き継ぐ形だ。

 視聴者は特に何もしなくていい。ただ見ているだけで、自動的に配信リンク先に飛ぶよう設定したようだ。


『サクラちゃん。個人用アプリは十分後に終了してくれ。今すぐだとリンクが切れてしまうから』

「わかりました、勤務初日でこんな恥ずかしい失態をするなんて……後藤さん! クビにしないでくださいっ。私、他にいくとこないんですっ」

「後藤さん、端末に該当冒険者の登録がありました。十六階に来てますね。最短ルートで十七階まで走ります」


――[サクラちゃん!?]

――[オレんち来なよ。養うぜ!]

――[きしょい]

――[後藤さん、サクラちゃんをクビにしないであげてっ]


 冒険者カードが端末に登録されたのが、昨日の十五時ちょい過ぎか。

 ギルドに救助要請が出たのが今朝の六時頃。

 果たして一般人を連れて、昨日の十五時から今朝までに十七階層まで移動出来るだろうか?

 この階層のどこかにいてくれるといいんだけど。


 幸いなのはちゃんと一階の端末で登録してくれていることだな。

 一階の端末で『入場』登録をしておけば、あとは各階にある端末の傍を通るだけで自動登録される。

 稀に、それをし忘れる冒険者や、中には故意にしない冒険者もいた。

 登録すると、冒険者登録口座から自動的に一万円が引き落とされるからだ。


 去年、一度だけ端末に登録せず、ダンジョンに潜った冒険者がいた。

 彼らのレベルから察して捜索範囲を絞ったけど、それでも三階層分をしらみつぶしに探して……見つかった時には手遅れだった。


 ちゃんと登録さえしてくれていたら、間に合ったかもしれないのに。


「キャアアアァァァァァァッ」

「サクラちゃん、舌噛むから口閉じてて」


――[サクラちゃああぁぁんっ]

――[もっと加減してやれ悟くんwww]


 十七階まで約一時間半。ここは迷路状だから全速力で走ると角を曲がり損ねたり、オーバーランする危険もある。

 一時間以内に走り抜けたかったんだけどな。


――[おい十七階の平均攻略タイムが十四時間ってなってんだけどどういうこと教えてエロい人]

――[一回も戦闘してないからだろうけど、それでも早すぎだろ]

――[視聴者数十三万人wwwwwww]


次は18:10に更新します。

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