49:エゲツない作戦。
「僕のスキルは『サーモセンサー』と『フェザー』。それから『ホットスポット』だ。ホットな情報をお届け♪ という意味のホットではなく、温かいという意味のホットさ」
そう言うとブライトは、翼を広げて俺にピタっとくっついて体を光らせる。
「……暑い」
「だろ? 正直さぁ、寒い地方で暮らす僕に、このスキルは酷いと思うんだよねぇ」
「サーモセンサーはわかるとして、フェザーってのは?」
「これさ」
俺から離れたブライトが、また光る。
すると、その光が羽根の形となって宙に浮かんだ。それが十本ほどある。
「迂闊に触るんじゃないぞ。怪我をするからね」
「攻撃スキルなのか!?」
「そ。狩りをするには重宝するよ」
サーモセンサーは熱を探知できるスキルだろう。生き物も熱を持っているし、二つのスキルを使えば確かに狩りに最適な構成だ。ホットの方はおいとくとして。
「私は『言語解析』と『鑑定』、それから――」
赤城さんがまた新しく用意してくれた巣カゴで卵を温めていたが、そこから出てくるとブライトのように翼を広げた。
「『アイスフィールド』よ。アイスと言っても氷ではなく、冷気なんだけど」
「君のアイスフィールドは最高だよ。暑い日本でも快適に過ごせるからね」
「え? じゃあ今もスキルを使っていたのか?」
スノゥはこくりと頷いてから、また卵を暖めだす。
「効果時間があって、その時間もある程度コントロール出来るわ。それからスキルの範囲も自分の意思で指定出来るの」
「僕らの体の表面に、冷気の膜を張っているような感じでスキルを使ってもらっているのさ。妻は最高だろう? 彼女の言語解析のおかげで、こうして日本語もマスターしたのだからね」
あ、そうか。二羽はロシアの森林で暮らしていたんだし、スキルを手に入れて話せるようになっての、おそらくロシア語のはずなんだ。
動物がスキルを手に入れて人間の言葉を話せるようになると言っても、どこの国の言葉でもってわけじゃない。
サクラちゃんのように人間に飼育されていたり飼われていた場合は、それまで聞いていた言語を習得するような感じだ。
人間の赤ちゃんと同じ。親が周りの人が話している言葉を、覚えるだけだ。だから外国語は、スキル獲得時には話せない。
スノゥは北海道まで渡っていたようだし、もしかするとその時の記憶から日本語を解析して覚えたのかもしれない。それをブライトにも教えたんだろう。
「でもスノゥ。体の周りを冷たくしちゃったら、卵が冷えてしまうんじゃないの?」
「えぇ。だから夫よりも高い温度で調節しているし、覆っているのは頭周りだけなの」
「あら、そうなの?」
サクラちゃんがスノゥを小さな手でペタペタ触る。
「あら、本当だわ。頭の周りだけほんの少し冷たく感じるわね。ブライトは……凍り付けばいいのに」
「あんた、酷い女だな。番がいないんじゃないか?」
「失礼ね!」
「なっ。いるのか!?」
「ぐっ……」
「なんだ。いないんじゃないか」
「ぐぬぬぬぬぬぅぅ。がおーっ!」
「負けるかっ。ホオォーッ!」
サクラちゃんは仁王立ちして、ブライトは翼を広げる。
なんの戦いだ、まったく。
「ははは。かわいいねぇ」
「赤城さん……あれがかわいいんですか?」
「え? かわいくないのかい?」
「えぇーっ。かわいいじゃないですかぁ」
「やっぱり三石はズレてるんだよ。俺ですらちょっとかわいいなって思うぞ」
白川さんまで……。俺だけがおかしいのか?
改めて一匹と一羽を見る。
巨大化させたら、怪獣大決戦みたいだな。
そういうのを普通の人はかわいいって思うのか。俺には理解できないな。
「悟は戻って来たか? お、いたな」
「後藤さん? どうかしましたか」
「あぁ。冒険者ギルドから連絡が今入ってな。ロシアの冒険者が成田行きの飛行機に搭乗しているらしい」
「ロシアの冒険者がですか? 別に国際法で違反しているわけでもありませんし……」
「同じ時間帯に搭乗手続きした奴の中に、ロシアの生物学者と遺伝子学者、それから政府要人がいるとしても、気にはならないか?」
それは気になり過ぎる組み合わせだな。
ブライトとスノゥを追って来たのか。日本にいるのを知っているってことは、北海道の観測グループのパソコンに侵入してたのは、やっぱりロシアの研究機関だろう。
さっきまでスノゥにはマイクロチップがあったし、居場所はバレているってわけだ。
「それでだ。社長考案の、お涙頂戴作戦でいくそうだ」
「……なんですかそれ」
「そう胡散臭そうな顔をするな」
いやするでしょ。
「今社長が、その人脈を使って各国の動物好き有名人にコンタクトを取っているんだ」
「は?」
「動物好きな有名配信者、インフルエンサー、歌手、俳優、富豪。そういった連中にな、ロシアの極秘生物実験施設から我が子を守るために日本へやって来た、スキル持ちのシロフクロウがいる――と、大々的に発表するんだ」
「え? そんなことしたら見つかるじゃないですかっ」
「見つかっても奴らは取り戻せないだろうな。世間の目があまりにも多すぎて、動物好きの人類全てを敵に回すことになる。そもそもロシアは今、世界的に見ても弱小国家だからな」
ダンジョンベビー実験のせいで人口が激減しているし、かつての都市や大きな町は壊滅している。
先進国であったのは一昔前の話だもんな。今は他国の支援なしでは国がまともに機能しないまであるし。
そんなロシアを、世界各国の動物好き有名人が非難すればどうなるか。
特に動物好きというわけでもない有名人も賛同するだろう。動物虐待に賛成なんかしたら、それだけで評判はガタ落ちだもんな。
有名であればあるほど、そういうのは避けたいもの。
あっという間に全世界から非難されれば、ロシアを経済的に支援する企業も国もなくなってしまう。
うちの社長はそれを狙っているのか?
なんか……エゲつない。