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45:悟くんのパートナーは私なのよ!

「シロフクロウ? サクラ以外に、動物園で飼育されていた動物がスキルを獲得したという届出はないはずだが」


 喋る二羽のシロフクロウを連れ三階の待機室へ。向かいながら後藤さんに連絡を入れ、到着したときには既に待っていてくれた。


「僕たちは飼育されていたんじゃない」

「野生か? 日本にもいたのか、シロフクロウって」

「稀にですが、北海道なんかだといるそうですよ」

「出たな、動物大好き赤城ちゃん」


 赤城さんはいつも以上にニコニコしながら、さり気なくシロフクロウの傍に立っていた。

 いつ来たんだ……まったく気づかなかった。


「あれ? こっちの子……鞄を――」

「触らないでっ」

「いたっ」

「赤城さん!?」


 女の声――雌だろうシロフクロウは鞄を首からぶら下げていて、それに手を伸ばそうとした赤城さんが突かれた。


「お、おい、おまえ。わるい、その鞄には僕らの卵が入ってんだ」

「あなたっ」

「隠せるものじゃないだろう」

「いや、こちらこそごめんよ。大事な卵が入っていたとは知らず。温めなくていいのかい?」


 赤城さんが優しくそう言うと、雌は卵の入った鞄を大事そうに翼で包み込んだ。

 それを見て赤城さんが待機室を出ていく。どうするのだろう?


「ぼ、僕らは日本のずっと北の国から、飛行機に乗って来たんだ」

「飛行機? えぇっと、航空券を買って?」


 という後藤さんの質問に、雄のシマフクロウは首を振る。そして貨物室に隠れてやって来たのだと話した。

 つまり……密航!?

 いや、でもフクロウだし。密航にはならないのか? だって渡り鳥は取り締まったりしないんだし。

 でも飛行機に無断で乗り込んだんだから、密航? どっちだ?


「ずっと北……ロシアですかね?」

「かもな。それで、なんでそんな長旅を?」

「……僕らは、その……彼に保護して欲しくて」

「彼? ……悟に!?」

「え? お、俺?」


 いったいどういうことだ?


「ちょ、ちょっと! 悟くんのパートナーは私なのよっ。ロシアだかメシアだか知らないけど、わざわざ来てくれたのに悪いんだけど帰ってちょうだい」

「はぁ? なんだとこのタヌキがっ。どっちが有能かって話なら、僕は絶対に負けない自信があるぞ」

「な、なんですってぇー!? また言ったわね、タヌキって!!」

「あぁ、何度でも言ってやるさ。この――んむっー」

「はいはい。ちょっといいかな君」


 サクラちゃんをタヌキタヌキと連呼されちゃ困る。


「あー、サクラちゃん。ちょっといいかしら」

「え? 何? 紫織ちゃんどうしたの?」

「ね、カフェ行こう。ね?」

「あ、長瀬さん、お願いします」

「任せて。さ、サクラちゃん行くわよぉ」

「え? え? 待って、あのフクロウが」


 不安そうな顔をするサクラちゃんに、俺は大丈夫だと告げる。


「サクラちゃん、安心して。サクラちゃんが俺のパートナーなのは、絶対だから」

「悟くん……」

「この二羽は混み入った話があるようだし、いろいろ聞かなきゃならないから。長瀬さんとカフェに行って休んでて。終わったら迎えに行くよ」


 それでもサクラちゃんは不安そうな表情を浮かべていたけど、小さく頷いて長瀬さんと待機室を出て行った。

 二人と入れ違いに、カゴとバスタオルを抱えた赤城さんが戻って来る。


「果物を入れていたバスケットと、洗濯したてのバスタオルを持ってきた。これを使って」

「え……あの……さ、さっきはごめんなさい」

「いいんだよ。さ、温めてあげて」


 赤城さん、巣の代わりになるものを探してきたのか。

 雌のシロフクロウが鞄の紐を嘴で器用に開け、卵をふかふかのバスタオルの上に乗せる。そして自身もその上に。

 疲れていたのか、彼女は卵を抱えるとすぐに眠ってしまった。


 飛行機の貨物室って、確かすごく寒かったはずだ。いくら寒い地方に生息するシロフクロウだからって、卵を抱えての貨物室は過酷な環境だっただろう。


「ありがとう、人間。あんたの名前を聞かせてくれ」

「赤城っていうんだ。困った時はお互い様だからね。それで、話はどこまで?」

「えっと、俺に保護してもらいたいって」

「三石くんに?」


 それから話は戻って、何故俺に?


「君はダンジョンで生まれたのだろう? そしてタヌキをパートナーにして人命救助をしている」

「確かに俺はダンジョン生まれだし、サクラちゃんのパートナーだ。ただパートナーに関しては会社の指示だけど」

「それでも、あのタヌキとは信頼関係が築けている。そうだろう?」

「そう、なのかな?」


 それと彼らと、何の関係があるんだ?


「妻は……妻はダンジョンで卵を産んだんだ」

「え、ダンジョンで?」

「そうだ。二カ月前、僕らが暮らす森にダンジョンが出現した。僕らの他にも動物たちが呑み込まれたが、スキルを授かったのは僕ら夫婦だけだった」

「番でスキルを授かるとは、運がいいというかなんというか」


 その時既に、雌のお腹には卵があった。

 二羽は脱出するためダンジョン内を移動。だけど下層に落ちたようで、なかなか地上には出られず。

 その途中で奥さんが卵を産んだ。


「安全な場所で子育てをしたい。だから僕らは卵を抱えて飛んだんだ。いくつ目かの階段を上ったところで、人間が現れた。奴らは僕たちを捕まえ、そして卵がダンジョンで生まれたと知ると……研究……すると、言って……ひとつ、奪ったんだ」

「研究……なんて酷いことを」


 あまり記憶はないけど、俺も似たようなことを、赤ん坊の頃にされたらしい。

 血を抜かれ、皮膚を剥がれ、脳波を調べられ。

 それはまるで人体実験のようだったって。

 その様子を後藤さんの妻で俺たちと一緒にダンジョンに落ち、母さんの出産を手伝ってくれた沙織さんが動画に撮影し、それを世間に公表した。

 それによって人体実験に関わった政治家、医師、化学者は世間から批判され、反対運動からデモ、関係者への殺害予告、政府の支持率も失墜。

 で、実験は中止され、禁止する法案まで作られた。


 赤ん坊の頃の話だし、俺はよく覚えていない。

 今は健康だけど、あの実験が続いていたらどうなっていたか。

 先進国の多くでは似たようなことがあって、多くの国では人体実験を禁止されている。

 表向きは――とつくけど。


「それで逃げて来たのかい? 残った卵を抱えて」

「あぁ、そうだ。僕らは見たんだ。君の配信を。スキル持ちのタヌキとパートナーを組み、人の命を救おうと必死に戦う君の姿を。その君はダンジョンで生まれている。きっと……きっと僕らの子も救ってくれるはずだと、そう信じて」


 俺を頼って海を越えてきたっていうのか……。 


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