44:夫を焼き鳥にするなら。
「お土産って……三石くん……多すぎない?」
「俺じゃなくってサクラちゃんに言ってください」
有休明けは、母さんに車で送ってもらった。
お土産の菓子箱が六十箱を超えたせいで、自転車では運べなかったからだ。
お土産コーナーの人がめちゃくちゃ困惑していたけど、嬉しそうでもあったな。
朝から各部署に配っていると、六十箱あったお土産もあっという間になくなった。
配りに行くたびにサクラちゃんはそこの人と楽しそうにお喋りをし、全部配り終わったのは昼過ぎだ。
疲れた。
「三石、ゆっくり休めたか?」
「あ、秋山さん。お疲れ様です。休んだっていうんですかね。動物園のベンチで、ぼぉっと動物を眺めていただけなんですが」
「まぁ癒しにはなっただろう。今日から三日間は曽我たちのチームが有休だ。張り切って働いてくれよ」
「はい」
そう返事をした途端、スマホが鳴った。
「さっそくか」
「さっそくですね。じゃ、行ってきます。サクラちゃん、行くよ」
「は~い」
待機室のコピー機から出動内容が転送されてきた。
えぇっと、なになに。
「西区の十五階で……あぁ、迷ったのか」
「十五階って、あの壁に囲まれてて扉のある?」
「あぁ。今年、冒険者になり立てて、先に進むためのマップを買わずに入ってしまったようだ」
あそこは扉の色の順番を知ってないと、すぐに迷子になる。
いいスキルを手に入れた人は、一ヶ月かそこいらで十五階まで下りる実力を身に着けられる――人もいる。もちろん、努力は必要だ。
「早く見つかれば、夕飯までには帰れそうだ」
「じゃあ急ぎま……走るのね?」
「うん」
「全力で?」
「あそこは全力で走れる数少ない階層だしね」
ん? なんかサクラちゃんの耳が、垂れた?
まぁいいや。
パっと行ってパっと帰ろう。
「じゃ、次からはちゃんと地図を買ってから、進んでくださいね」
「すみません。扉の順番をネットで調べて、メモしてきたんですけど……うっかり読み飛ばしたみたいで」
「地図を買ったら、クリアファイルに挟んで持ち歩くといいですよ。通過した扉を、ファイルの上からマジックでチェックするんです」
ギルドで買う地図は特殊なインクが使われていて、コピー不可能だ。
写真撮影してもまともには写せない。
地図の販売もギルドの収入になるから、コピー出来てしまうと意味がない。
でも十五階は地図を見ながら、そして入った扉をその都度チェックする方が確実に進める。
まぁ慣れると暗記出来るけど、モンスターと戦いながらだとうっかり見落としてしまうこともある。
俺みたいにモンスターの相手をせず、走り抜けるだけならいいけど。
「そうします。お手数をお掛けしてすみませんでした」
「ところで、そのタ――「レッサーパンダ」え?」
「だ、大丈夫よ。ちょっと乗り物酔いになっただけだから」
乗り物酔い?
俺の肩に乗ってて酔ったのか……。それは……悪いことをした。
柔らかいクッションでもあったらいいのか?
救助した冒険者と地上に戻ってくると、太陽は西の空に沈みかけていた。
夕飯にはまだ時間があるな。よかった。
「サクラちゃん、本部に戻ろう。俺が報告書を作成している間、休んで」
「そうする……ね、次は私、自分で走るわ。四つ足で走れば、悟くんに追いつけると思うし」
「そうだね。次があればサクラちゃんは下ろそう」
サクラちゃんの神速のレベルが上がれば、移動速度も上がるだろう。
走ればレベルが上がるかな?
「それじゃあ戻ろうか」
いつものことだけど、サクラちゃんをおんぶ紐で背負って自転車を漕いでいると視線を集めるな。
けどなんだ? いつになく注目を集めてる気が……。
「さて着いた。サクラちゃんは一階のカフェで休んでてくれ」
「わかったわ。でも……悟くん、あれ、お友達?」
「あれ?」
「あれ」
背中から下りたサクラちゃんが空を見上げる。
そういえば、周りの人も何人か空を見ているな。何があるんだろう。
何が……。
「人間っ。見つけたぞ人間!」
「え? え? ええぇ!?」
突然目の前に真っ白な何かが、いや、ふわふわもこもこしたものが突っ込んで来た。
鳥、みたいだったけど、喋った。スキル持ちか?
「ちょっとあんた、悟くんに何してるのよ!」
「おぉ、いたなスキル持ちのタヌキ。やはり僕らを救えるのは君しかいない!」
「誰がタヌキよ! 私はレッサーパンダなのよっ」
「は? 本気かこのタ――んむーっ」
「はいはいっ。中に行くぞ。ここじゃ目立つ」
これ、フクロウか? 真っ白なフクロウ。
ん? 空に――
「あなたぁぁぁっ。私の夫を離してっ」
「うわっ。もう一羽いたのかっ」
「夫を焼き鳥にするなら、私も一緒に食べなさい!」
「焼き……いや、どういうこと?」
「勘違いだ、おまえ。大丈夫だ。この人間は大丈夫」
この二羽は番なのか。でもなんでスキル持ちのフクロウが……俺に用があって来たのか?
「ねぇママ見て。フクロウさんだよ」
「そ、そうね。フクロウさんね」
はぁ。ここじゃ目立ちすぎる。早く中に入れよう。