43:密入国。
――上空一万メートル弱を飛行する機内の貨物室。
「寒くないか?」
「えぇ、あなた。でもこの子のことが心配……」
ネットで固定された箱の上で、白い塊が二つ、互いに身を寄せ合っていた。
シロフクロウだ。
「君のこともこの子のことも、僕が温めるよ」
そう言って雄のシロフクロウが翼を広げ、雌を包み込むようにして温める。
その雌は懐で卵をひとつ、温めていた。
「ありがとう、あなた」
「もう少しで日本に到着だ。頑張ろう」
「えぇ……でも、本当に大丈夫なのかしら。その日本人……」
「大丈夫だ。きっと大丈夫。彼はスキルを手に入れたタヌキをパートナーとして、人助けをする仕事に就いている人間だ。そして……僕らの子と同じ、ダンジョンで生まれた人間。きっと助けてくれるはずだ」
「そうね。そうだといいわね……」
二羽を乗せた飛行機はまもなく成田空港へと着陸する。
機体を揺らす振動が始まり、ブレーキ音が聞こえ出す。
「さぁ。準備をしよう」
「えぇ」
雌のフクロウは脇に置いてあった小さな鞄に卵を入れ、紐に頭を通す。
暫くすると貨物室の扉が開き――
「わっ。な、なんだ?」
「い、今のフクロウか!?」
貨物を取り出す空港職員の驚いた声が響く。
扉が開いた瞬間、二羽は全力で飛び出した。
西の空が赤みを帯び、時刻は夕暮れ時を告げる。
大空に舞った二羽の白いフクロウは、そのまま真っ直ぐある方角へと向かった。
その方角にあるのは、株式会社ATORAの捜索隊本部ビル。
彼らの求める人物が、きっとそこにいる――そう信じ、二羽は疲れた体に鞭打って羽ばたいた。