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4/95

4:五万人。

『なんだこの異様な速度』

『おかしいだろwww』

『草通り越して大草原www』

『人間が走る速度じゃねえ』

『加工してる?』

『やたらとカメラアングル低くね?』

『サクラちゃん顔出しNGなん? 声めちゃくちゃかわいいんだけど』

『画面端でモンスター吹っ飛んでね?』






 各エリアは正方形で、一辺が二キロある。扉はだいたい真ん中あたり。

 最初のエリアは右手側にある青い扉を潜る。直線で一キロ走るだけ。一分程度だ。


「次は正面。黄色い扉だ」

「悟くん、覚えてるの?」

「ここを狩場にしている人は、みんな覚えてるよ。メモってる人もいるだろうし」


 扉を潜る順番は決まっている。定期的に変更されるなんてギミックもない。

 ただそれ以外に理由もある。


 俺が持っているスキルに『オートマッピング』と『ナビゲーション』ってのがあって、オートマッピングは自分が歩いたルートを自動で紙に描きこんでくれるスキルだ。

 スキルで描きこんだ地図を使い行きたい場所を指定すると、俺にだけ見える矢印が出て来て道案内をしてくれる。これがナビゲーションだ。

 記憶だけを頼りにして間違うといけないから、捜索や救助に向かう時には必ずスキルを使う様にした。

 この階層の場合、ナビには次に向かう扉の色もメモされるから事前でもわかるわけだ。


「悟くん、そんな便利なスキルを持ってるのに、どうしてエースじゃないのよ」

「えっと、それは――」

「おかしいじゃないっ。絶対絶対おかしいわよっ」


 捜索隊にはエースと呼ばれる人たちがいる。

 周囲がそう呼んでいるのではなく、階級みたいなものだ。

 エースは主に深い階層での救助や捜索をする人たちで、当然、下層には強いモンスターがいるからそれに合わせて実力が必要になる。


「俺、攻撃スキルを持っていないんだ。だから下層では要救助者がいた場合、連れて帰るってことが出来ないんだ」


 ここ十五階のように広い空間があれば、モンスターを無視して走り抜けることも出来る。

 通路タイプでも俺ひとりなら、全スルーで走り抜けられる。

 でも捜索対象者や救助者が生きていた場合、いや、それが一番いいんだけど、とにかく行きのようにはいかなくなるんだ。


「だから俺は、本命の捜索隊が駆け付けるまでに相手を見つけ、その位置を伝えるのが役目なんだ」

「ふぅ~ん。そういうのって、縁の下の力持ちって言うんでしょ? 結構カッコいぃじゃない」

「サクラちゃん、よくそんなことわざ知ってるね」

「あら、勉強したのよぉ」


 スキルを手に入れたのは半年前だっていうのに、凄いな、サクラちゃんは。

 話している間にも黄色い扉を潜り抜け、次は左手側の緑の扉へと向かう。


「サクラちゃん、大丈夫? 疲れてない?」

「まだ大丈夫よ」


 まだってことは疲れてはいるってことか。


「サクラちゃん、次の扉潜ったら抱っこするよ。君ぐらいなら抱えたまま走れるし」

「えぇー!? お、お姫様抱っこ? や、やだわ、恥ずかしいわっ」


 なんで……。


「あと七エリア分走るけど、階層内では休憩できないから」


 休憩をすればモンスターが寄って来る。

 俺には攻撃スキルがない。身体能力が高くても、攻撃スキルがなければ一般の人とそう大して変わらないんだ。

 後藤さんにも、モンスターと正面から戦うなって言われている。

 一度ゴブリンを素手で殴って、数十メートルぶっ飛ばしたことがあったけど……ゴブリンはスライムに次ぐ雑魚だ。

 雑魚を吹っ飛ばせる程度でどうにかなるなんて思わないことだ。

 ダンジョン内での慢心は、死に直結するのだから。


「えっと、脱線したかな?」

「……そうね。少ししてたかしら。でも理解できたと思うわ。つまり悟くんはモンスターと戦うのが危険だから、ノンストップでここを走り抜けたいのね?」

「その通りだよ、サクラちゃん。だから――あ、緑の扉見えて来た。次から抱っこするよ」

「し、仕方ないわねぇ。こ、これは任務なんだから。別に抱っこして欲しいわけじゃないんだからねっ」

「うん。俺が抱っこしたいだけだから……ところでサクラちゃん。さっきからその……」


 ずっとサクラちゃんの方から「ピヨピヨ」という、ヒヨコの鳴き声が聞こえてくる。

 さすがにヒヨコは持って来ていないだろう。アイテムボックスには生き物は入らない仕組みのはずだし。


「ご、ごめんなさいね。どうしてだか、凄く通知が届いてるの」

「通知? 佐々木さんや後藤さんから? いや、そんなハズないか」


 何かあれば直接インカムを使ってくるだろうし。

 そんなことを考えていると、俺のスマホが鳴った。


 あれ? 後藤さんからだ。

 ダンジョン内でのスマホ使用は、極端にマジックバッテリーを消費するから通話は避けるはずなのに。


「はい、三石で――」

『バカ野郎! お前ら、なんでライブ配信なんてしてんだ!?』

「……ん?」


 ライブ、配信?

 ライブ配信って生中継の動画配信?


「サクラちゃん。動画撮影出来てるよね?」

「もちろんよ。帽子に取り付けられたカメラ映像は、私のスマホ経由で本部に届いてるはず。あら、上手くいってないのかしら?」

『こっちに届いてなくって、配信サイトにリアルタイムで垂れ流してんだよ!』


 ……え?


「サクラちゃん……捜索隊アプリ使ってるよね?」

「あったりまえじゃない。そんな初歩的なミスを私がするわけ――」


 緑色の扉の前で、サクラちゃんの動きが止まった。

 そして――


「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! し、視聴者数が五万人に達してるわあぁぁぁぁぁっ」


 と叫んだ。


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