39:魅了。
「あぁ、クソっ。なんでスキルが発動しないんだよ」
「落ち着いて悟くん。イメージよ、イメージ。ほら、こう"がおーっ"って」
サクラちゃんの体がほんのり光る。
ごめん……がおーじゃわからないや。
『三石さん。サクラちゃんが言う様に、イメージが大切なんです』
「発見者さん? スキルの使い方、知っているんですか?」
『いえ、検索しました』
ネットでなんでも調べられるのか。便利な世の中だよな。
――『検索www』
――『さす発見www』
――『あと普通に殴るより、ポーズは空手の正拳突きみたいな方がいいらしい』
――『なんで?』
――『インパクトオオォォォって感じがするから』
――『草生えるwwwwww』
『三石さん。空手の正拳突きは知ってる? 拳を繰り出すときは正拳突きのようにするといいそうです』
「やってみます」
正拳突きか。
捜索隊では格闘技の訓練もある。あまり本格的ではないけど、実戦空手も多少やった。正拳突きならわかる。
拳を腰の位置で構え――
「ゴレェェェムッ!」
踏み込んで――
「悟くん。イメージ。イメージよ!」
『粉砕粉砕粉砕粉砕粉砕』
――『呪いの呪文かよwwwww』
――『粉砕粉砕粉砕』
――『粉砕粉砕粉砕粉砕』
――『粉砕粉砕粉砕粉砕粉砕』
――『粉砕粉砕粉砕粉砕粉砕粉砕』
――『伸ばすなwww』
イメージ……拳を突き出して奴の体に接触した瞬間、その内部を――粉砕!
「インパクトッ」
あ……光った。
「ゴ……ゴレ……ムウウゥゥゥゥ――」
奴の一番大きな岩、胸部に拳を叩き込んだ。
叩き込んだ瞬間、拳から光が放出されゴーレムに吸い込まれた。
俺に向かって岩腕を振り上げたポージングのまま、ゴーレムが固まる。
ピキッ、ピキッと岩に亀裂が入ると、そこからさっきと同じ光が噴き出し――表面が剥離するような感じで崩れ、そして砂がザァーっと零れた。
――『マジで粉砕ww』
――『もう北区いっちゃえYO』
た、倒せた……。
地下五十階のボスを……倒せた。
「やったわ悟くんっ」
「わっ、サクラちゃん」
――『悟くんのドアップ』
――『のどぼとけ?』
――『何をした? サクラちゃん?』
――『この角度はサクラちゃんが悟くんにダイビングハグを繰り出したんだな』
――『ダイビングハグとか何のスキルだよw』
ピョンっとジャンプして飛び込んで来たサクラちゃんをキャッチ。
カメラ……顎に当たって痛い。
「ね、悟くんなら大丈夫だったでしょ」
「結果的に倒せたけど、あんまり無茶させないでよサクラちゃん。もしダメだったとき、命にかかわるんだからさ」
「あ……そ、そうね。ごめんなさい。悟くんが強いから、倒せるって決めつけちゃってたわ。そうよね。ダンジョンなんだもの。一歩間違えれば、死んじゃうかもしれないんだし。ごめんなさい」
「いいよ。今回は倒せたし。でも次からは慎重に行こう」
「えぇ」
さて、それじゃあ帰るか。
『三石さん、ゴーレム討伐おめでとうございます! いやぁ、スキル一発で倒すなんて、さすがですね』
富田さん?
いや、スキルが発動するまで、数十発殴ってるんだけどね。
『ボスならドロップも美味しいものが出るんでしょうね。何か出てますか?』
「何か……えぇーっと……」
ゴーレムの方を見るが、砂の山が出来ていてドロップのドの字も見えない。
そろそろ消える頃だ。
あ、消え……た……なんか出てる!?
「あら、ドロップ?」
「あぁ。なんだろうな……長細い……筒?」
『なっ。筒か? 筒? 巻物じゃなくて筒か?』
「え? あー……あ……巻物!?」
「巻物? 何かの古文書とかかしら?」
ボスドロップで巻物といったらひとつだけ。
スキル書、もしくはスキルスクロールと呼ばれる――。
――『スキルゲットのチャンス!?』
――『すげーっ。あれボス限定だろ?』
――『ゴーレムがボスだろ』
――『そうだった』
――『あれがあったら、誰でもスキルを手に入れられるのか?』
――『スキル書は、スキル保有者にしか開けないから無理』
スキル書のドロップ率なんて、そう高くもないのに……。
こ、これも富田さん効果か!?
『スキル書……お前ら、運良すぎだろ。滅多に出ないんだぞ、それ』
「牧田さん。たぶん俺たちの運じゃないですよ」
「ふふ、そうね」
『三石さんもサクラちゃんも、実は俺より幸運の持ち主だったりするんじゃ』
そんなことはない。絶対これ、富田さんの幸運だと思う。
ボスが見たい。ドロップ何が出ているのか……。富田さんの期待が幸運スキルに影響したんだろう。
『で、何のスキルなんです?』
「それは開いてみないとわかりませんよ、発見者さん。これ、開く瞬間に、何のスキルが手に入るか完全ランダムなんで」
持ち帰って、後藤さんに渡そう。勝手に使うわけにはいかないし。
『三石。社長命令だ』
「ん? 牧田さん、社長命令って?」
『スキル書、開けてみろってさ。その方が視聴者も喜ぶだろうからて』
――『コーヒー牛乳社長wwww』
――『わかっていらっしゃる』
――『オープン!』
視聴者が喜ぶだろうからって……本当にいいのか?
今まで、捜索や救助中に出たドロップ品は会社に提出って決まりだったのに。
まぁ、開けていいなら……。
「はい、サクラちゃん」
「え?」
「俺はこの前、新しいスキルを使えるようになったし。次はサクラちゃんだ」
「えええぇぇぇ!? で、でも悟くん。わ、私、何もしていないのよ?」
「したよ。岩ゴロを全部、引き受けてくれていただろ? 共同戦闘だったじゃないか」
サクラちゃんの小さな手に、スキル書を持たせる。
攻撃スキルが出るといいけど、そう簡単に思い通りのスキルが出るわけじゃない。
「悟くん……ありがとう、悟くん」
――『悟くん惚れる。マジ尻ください』
――『悟くん逃げてっ』
――『アッー!』
結び目の紐を解き、サクラちゃんが巻物をしゅるしゅると伸ばす。
さて、何かな。
「サクラちゃん」
――『ワクワク』
――『ドキムネ』
サクラちゃんが手にした巻物が、薄っすら光を発しながら消えていく。
「私の……新しいスキル……」
「何だったの?」
「攻撃スキルじゃなかったわ。これ、どういう時に使うのかしら」
「そっか。攻撃じゃなかったのか。それで、どんなスキルなんだい?」
「えぇ。チャームっていうの」
チャーム……魅了?