35:悟くんは無双ゲーが好きなの?
二十階――
「悟くんは無双ゲームが好きなの?」
――『サクラちゃん、無双ゲーとか知ってるんだ!?』
二十五階――
「ダメダメ。こんな連中じゃ、悟くんの相手にもならないわよ」
――『スキル使ってないよな?』
――『素殴りでワンパンしてんじゃん』
三十階――
「大丈夫? 直ぐに悟くんが片付けるから待っててね」
「で、でも、十体以上いるんだよ?」
「平気よぉ。ね、悟くん」
――『返事がない。ただの』
――『ただの無双ゲーのようだ』
――『あ、今スキル出たな。光った』
転移陣から少し行った先で、モンスター溜まりが出来ていた。
それを挟んで向こう側に冒険者が二人いて、処理しきれず困っているようだった。
殴って、殴って、たまに蹴り飛ばして。
「あ、サクラちゃん、奥から――」
「任せて! あんたたち、こっちに来なさいよっ。がおぉーっ」
が、がお?
――『ちょ、なんぞそれ??』
――『光った。サクラちゃんが光った!』
――『あの威嚇ポーズ……まさかスキルの威嚇!?』
――『がおー?』
――『サクラちゃんそれ威嚇やない。萌えや!』
冒険者の後ろから、モンスターのおかわりが迫っていた。
サクラちゃんは奴らの、そして冒険者の足元をすり抜け、おかわりモンスターに向かって仁王立ち。
レッサーパンダ特有の、万歳威嚇ポーズだけど……そのまま威嚇スキルとして使ってるのか。
威嚇にならなさそうなポーズだけど、スキルの効果はちゃんと出てるようだ。
おかわりたちがサクラちゃんの方へと向かっていく。
「サクラちゃん!」
「はいはい、任せて。あなたたち、壁際に寄ってっ」
「は、はいっ」
二人が壁にぴったりくっつくと、サクラちゃんはもう一度「がおー」と威嚇してからこっちにやって来た。
「ふぅ。誘導成功よ」
「ご苦労さま」
「さ、やっちゃって」
――『やれ』
『やっていいですよ』
『やれ、三石』
みんなやれやれって、やるのは俺ひとりだってのに……。
でも俺がやらなきゃ、向こうにいる二人を助けられないわけで。
はぁ……。頑張るしかないのか。
「おかげで助かりました」
「無理なら緊急脱出用の転送陣使うしかないかなって思ってたけど、あれ、高価だから出来れば使いたくなくって」
「持ってたんですか。今回は俺たちが通りかかったからよかったけど、でも備えがあるのはいいことです」
おかわり含めて殲滅が完了したのは、五分ぐらいしてからだろうか。
なんかこう、腑に落ちないというか納得できないというか、思いのほか簡単に殲滅出来てしまってもやもやする。
俺、攻撃スキル手に入れたばかりなのに。しかも戦闘中、スキルを発動させたのはほんの数回だけ。
やっぱりゴリラ……なんだろうか。
二人と一緒に階段まで戻る。
「二人では、人数不足じゃないですか?」
「普段は野良パーティーを組んで潜るんですが、今日は夕方には引き上げなきゃいけない用事があって」
「短時間だと野良が見つからないんだよ」
あぁ、なるほど。
話を聞くと、この二人は学生時代からの同級生で固定パーティーを組んでいるらしい。
二人では当然、人数不足だ。だから冒険者ギルドでその場限りの野良パーティーを探してダンジョンに潜るそうだ。
野良パーティーの場合、一度ダンジョンに入ったら二、三日出てこないのもザラだ。
日帰りだと稼ぎが少ないから、野良の募集はほとんどない。
「二十五階ぐらいにしたほうがいいんじゃないです?」
「ですね。普段ここに来てるから大丈夫と思ったんですが、大人しく上ります」
「気を付けてね、いってらっしゃい」
二人は転送陣を使って二十五階へと移動していった。
さて、俺たちは――。
「ふふ、うふふふふふふふ」
「うわっ。ど、どうしたんだ、サクラちゃん」
――『ご乱心?』
「さっきので神速のレベルが上がってるのぉ~。それにほら、冒険者レベルもぉ」
そう言ってサクラちゃんが冒険者カードを見せてくれた。
あ、本当だ。冒険者レベルが3から11に……え? 8も上がっているのか!?
神速はレベル3だけど、元がいくつだったかわからないし。
お、俺のレベルは?
制服のポケットからカードを取り出す。
あ、冒険者レベルが9になってる。インパクトは2だ。
こ、こんなに簡単に上がるものなのか?
『おぉ、おめでとう三石。今のモンスター溜まりだけじゃなく、十五階からのちょこちょこ倒してたのも合わせてだろうな』
『あと、そこは三十階だからレベル1の冒険者にとって、経験値が美味過ぎるんでしょ』
「そうなのね。神速もさっきちょっと走っただけなのに、レベルが上がってたからビックリしたわ」
確かに俺も、インパクトは片手で数えれる程度しか使っていない。
それでも上がるってことは、やっぱりレベル差で経験値が多いんだろうな。
「じゃあこのままここでレベル上げしようか」
「何言ってるの悟くん」
――『生ぬるい狩場じゃ修行にならないだろ』
――『いつから修行回になったんだ?』
――『三十階でこれってことは、最下層行けば数匹でレベル10ぐらい上がるんじゃね?』
――『最下層に一票』
――『禿げ同』
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『最下層案が多数を占めています』
「なんの案ですか!?」
『狩場の』
そんなのわかってるよっ。なんで裏で票取ってるんだ!
「じゃ、行きましょうか、悟くん」
なんでサクラちゃんも当たり前のように転送陣に入っているんだ……。
はぁ。