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33/123

33:制服で銭湯。

「つまり君はだ。日頃から無意識のうちに力をセーブする癖がついていたというわけだ」

「はぁ……まぁそうじゃないと、いろいろ壊したりぶつかったりしますので」


 俺の前には安虎社長がいて、この人はまたコーヒー牛乳を飲んでいる。

 そもそもここは会社ではない。

 捜索隊本社から徒歩二十分のところにある、ATORAの商業施設に俺は呼び出された。


 十二階建てのここは、その最上階がスーパー銭湯になっている。

 社長は寛ぎスペースに置かれたリクライニングチェアに腰を下ろし、コーヒー牛乳を片手に書類を見ていた。ガウン姿でだ。

 この人、風呂に入ってただろ。


「しかしそのクセが、セーブしなくてもいい場面ですらセーブしているようだな」

「どう、なんですかね? 自分ではよくわかりません。ところで、話なら本社に戻ってからでもよかったんじゃ」


 ここは社員専用の施設ではない。一般に開放された普通の銭湯だ。

 つまり一般客がいる。

 そして俺は制服だし、サクラちゃんもいる。


「銭湯ってたくさんお風呂があるんでしょう? 凄いわ。どんなのかしら」

「おぉ、サクラは銭湯に入ったことがないのか。俺と一緒に入るか?」

「え? やだ社長さんっ。私は女の子なのよっ。セクハラっていうんでしょ、これ?」

「んなっ。サ、サクラくん。訴えないで。ね? ね?」


 いやそれ以前に動物を銭湯に入れたら怒られるでしょう。


「検査官の話だと、本気を出せと言った後も、計測毎に結果がまちまちだったようだな」

「何度も走らされたりジャンプさせられたりすれば、数値にだってブレがでますよ」

「おぉ、なるほどな。まぁ日常生活に支障がないのは幸いだが、セーブしなくていい場面で力をちゃんと解放、コントロールできるようになればもっといいんだが」


 力の解放って、なんだか仰々しいな。

 別に俺は、これまでだって手加減して仕事をしてきたつもりはない。

 あ、いや、走る速度は階層の構造によって加減してきたけど。


「これまで君には、足が速いという能力を買って頑張ってもらってきていたが……」


 え……な、なんの話?

 社長に呼び出されて、先日の身体測定の結果資料を見られながら何を言われるんだ?

 これまで、手抜き勤務だと思われてる?

 まさか……俺……クビになる!?


「これからは――」

「社長っ。俺、真面目に働きますっ。いや、これまで不真面目だったわけじゃありません。でもこれからはもっと真剣に、全力を出して捜索しますのでっ」

「え? あ……うん……。そう、そうなんだ。君には全力を出して貰いたいんだ」

「はいっ!」

「でもカーブを曲がれないほど全力は出さない方がいいと思うの」

「サクラの言う通りだな。必要な時に必要なセーブをして、全力を出せる場面では出してもらいたい」


 全力を出せる場面で――西区の十五階みたいに広い階層ならいいけど、迷路状の階層は無理だ。

 全力を出せる場面が少ない。

 や、やっぱり俺、勤務姿勢が不真面目だって言われて、クビになるんじゃ……。


「そこでだ、三石くん」

「は、はいっ」

「君、冒険者登録してきてよ」

「はいっ。……は?」


 なんで冒険者登録?






「お、三石くん。なんだ君、冒険者に転身か?」

「違います。社長命令で冒険者に登録しろって言われて」

「なーんだ。残念」


 スーパー銭湯から直接、冒険者ギルドの東京本部へとやって来た。

 ここは仕事の用事で週一回は顔を出すから、職員とも顔見知りだ。


「ようこそサクラちゃ~ん。オレは冒険者ギルド、案内係のアイドル、矢立やだち昴流すばるだよぉ」

「はじめまして、昴流さん。アイドルっていうことは、歌手なのね! 凄いわぁ」

「い、いや、歌手ではない、んだけどね……」

「あら、違うの? アイドルって、歌手のことよね? ね? ね?」

「い、いや、その、うん、えっと、そう、だね。ははは」


 ただの自称だからな。

 矢立さんはルックスが良く、女性の人気者だ。捜索隊でいう、赤城さんみたいな人だ。

 赤城さんは自分で自分をカッコいいとアピールしないけど、この人は違う。アピールしまくっている。


「それで、冒険者の登録をお願いします。登録料の領収書もください」

「会社負担か。タダで出来ていいねぇ」

「だって社長命令ですから」

「またなんでそんな命令が。たしかに捜索隊は元冒険者がほとんどだけどさぁ」

「まぁそれに関しては――」


 モンスターを倒すと魔素というものが放出される。

 薄い煙のようなもので、直ぐにダンジョンの地面や壁に吸収される。

 冒険者登録をするとカードが発行され、そのカードは魔素を感知して経験値を算出。

 弱いモンスターと強いモンスターでは魔素の性質が違うようで、それもしっかり読み取ってくれるそうだ。


 ちなみにカードの開発もATORAだ。


「で、俺のレベルがわからないことには、深い層が危険かどうか判断できない。だからレベルがわかるようにしてこい……ということです」

「つまり社長は、三石くんをより馬車馬のごとく働かせたいわけだ」

「悟くんは馬じゃないのよ。社長さんもわかっていると思うわ。社長さんはね、きっと悟くんにもっと活躍して欲しいのよ。うん、きっとそう」


 俺が馬じゃない云々の下りは横に置いて、活躍させたいと言うか、俺の能力を有効活用したいってことなんだとは思う。

 わざわざ冒険者登録をしてカードを持たせるのは、俺のレベルをハッキリさせてどの階層までなら行けそうだって視覚的に知りたいからだろう。

 危険かどうかもわからない階層に出動しろと言わないのは、あの社長のいいところだ。


 ただ……。

 制服姿の時に銭湯へ呼び出すのは止めて欲しい。



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