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31:サクラちゃんがもたらした縁

「1号です」

「あ、自分12号です」

「初めまして、23号です」


 給料がアップする!

 全社員が大喜びした三日後、本社ビルの一階カフェで彼らと会った。


「どうして番号なの?」


 サクラちゃんの質問は最もな内容だ。

 どうして?


「いやぁ、その方がわかりやすいだろうから」


 どうして……。


「だから名札にも、数字が書かれているのね」

「え? あ……本当だ」


 制服の胸ポケットには『鈴木1号』と書かれた名札があった。

 鈴木さんでいいじゃないか……。

 12号さんは館川さん。24号さんは森田さんだ。


「そういえば、崩落個所を見つけてくれた人は?」

「あー、発見者さんね。彼は――」


 三人の中で一番年長そうに見える24号森田さんが、サクラちゃんにニンジンのスティックを手渡しながら顔をほころばせる。


「彼は在宅なんだ」

「ざいたく? お家にいるってこと?」

「そうそう。リモートだね。この前のことで、リモートでも十分、勤務可能ってことになったそうなんだ」

「もしかして他県の方だったんですか?」


 俺の質問に鈴木さんが首を振る。


「いや、都内だ。まぁ、高校の時からずっと引き籠りだったらしくて」

「でも今回のことをきっかけに、自分も人助けしたいって思うようになったようだぜ」

「まぁ出動中の捜索隊が撮影する映像を見ながらの指示は、リモートでも出来るからってね」

「でも大変じゃない? だってルートの指示なんて、手元に地図がないといけないんだし」

「サクラちゃん。それはパソコンがあれば十分だから」


 とはいえ、複数のパソコンがなければ難しいかも。

 本社とデータリンクさせなきゃいけないし、いきなりサポートってのは……。


「ふっふっふ。そこは大丈夫」

「え? 佐々木さん?」

「お邪魔しまーす。佐々木です。これからよろしくお願いしますね」


 佐々木さんがやってきて、空いたスペースに椅子を置いて座った。

 指令センター勤務だから、1号さん、12号さん、24号さんとは同僚ってことになる。

 年齢的には佐々木さんが一番若そうだけど、それでも彼女が先輩だ。


「「よ、よろしくお願いします」」


 三人は少し緊張した面持ちで頭を下げた。


「や、やだ。畏まらないでくださいよ。私の方が年下なんだし……たぶん?」

「たぶんって佐々木さん……。佐々木さん、二十三歳でしたよね。俺の一つ上」

「ちょっと三石くんっ。女性の体重と年齢は絶対聞いちゃダメなことよ!」

「え、そうなんですか? えっと、じゃあ、身長は?」

「悟くん……ほんっと、わかってない子ね」


 え、何が?


「はぁ……三石くんはこんな感じなんです。応答の面で首を傾げることがたまにありますけど、気にしないでくださいね。ぜんっぜん他意はないから」

「そう、なんですか。ちなみに三人の中では俺が一番年下で、二十六」

「あーっ。やっぱり私が一番年下じゃないですかぁ。敬語とかやめてください。なんかやりづらいんで」


 佐々木さんが唇を尖らせそう言うと、三人は顔を見合わせて笑った。

 24号森田さんは、自衛隊に三年勤務していたそうで、ドローン技術はそこで学んだものらしい。他の二人は趣味の範囲だ。

 

「佐々木さん、さっきの大丈夫ってどういうことなの?」

「あ、それね。発見者の早川くんは、パソコン四台持っているんだって」

「四台!? なんでそんなに……」

「ゲームとかで使うって言ってた。で、こっちから一台送ってね」


 五台になるのか……。


 送るパソコンには捜索隊で使ってるソフトやデータが既に入っている。

 更に――。


「うちからひとり発見者くんの所に通って、業務教育をすることになってるから」

「そうですか」


 捜索隊は慢性的な人手不足だ。理由のひとつは、命を懸けている割に給料が安いってのがある。

 後方支援の部署では命がけなんて場面はないのに、結局、出動隊と同じように見られてしまっている。


 先日の社長の話は、一部を編集して会社の公式サイトで公開された。

 ネットでもかなりの反響があったようだ。主に利用料が安くなる――というあたりだけど。

 それでも、求人のことも多少は話題になっているらしい。

 出動隊の方も増えるといいんだけどな。


「あ、そうだ三石くん。前に救助した富田さんのこと覚えてる?」

「はい。妹さんの結婚式費用のために、一攫千金を求めてダンジョンに入った方ですよね?」

「うん。その彼がね、探索者の求人に応募してきたんだって」

「本当ですか!?」


 あの幸運スキルを持ってる富田さんが。

 彼がいればきっと、救助率が上がるはずだ。まぁスキルの恩恵が救助に向けられればだけど。

 わずかでも確率が上がればいい。わずかでも。


「それともうひとり。左手を失ったたけ……」

「武田さんですか?」

「そうそう。三石くん、よく覚えてるわよね。その武田さんも、うちの求人に応募したんだって。浅い階層なら潜れるだろうからって、後藤さんも採用するみたいよ」

「そうですか。よかった……」


 確かに西区の五階層未満なら、片手を失っていてもなんとかなるだろう。数人のグループで行動しているんだし、なんとかなるはずだ。

 この時期って、意外と冒険者になりたての人たちが二、三階で救助要請してくることが多い。

 スキルを手に入れて浮かれて、それでいて一階層は人が多すぎて二階、三階、ヘタすると四階五階まで下りて行くことがある。

 そういう人たちが高確率でモンスターを処理しきれず、怪我を負って戻れなくなることが多いんだ。

 最悪、亡くなる人も。


 武田さんはレベル20を超えていたし、西区の五階層なら余裕だろう。

 一、二階のパトロールだって出来るし、立派な戦力だ。


「その二人って、サクラちゃんがうっかり配信ボタン押した時の?」

「や、やだ1号さん。うっかりの話はやめてよぉ。恥ずかしいんだから」

「いやいや。サクラちゃんのうっかりがあったからこそ、俺たちは捜索隊に入社できたんだし」


 頬を抑える仕草で首を振るサクラちゃんを、三人は緩んだ顔で見つめていた。

 ほんと、サクラちゃんがもたらした縁だよな。


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