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3/93

3:まずは時速60km。

「こちら三石悟。要救助者の捜索、開始……ん?」


 ズボンを引っ張られ、思い出す。


「訂正。こちら三石悟とサクラ。要救助者の捜索を開始します」

『了解。まずは転移陣で十五階まで下りてくれ』


 これでいいのかと足元を見ると、自称レッサーパンダのタヌキことサクラちゃんがにっこり笑って頷いた。


『サクラちゃん、インカムはどう? 重たかったりズレそうだったりしない?』

「大丈夫よ佐々木さん。技術部の人が私に合うよう、特別に作ってくれたんですもの。ピッタリよ」

『よかった。じゃあ十五階到着後から、カメラを起動してね』

「は~い。さ、悟くん、行きましょう」


 東京西区の冒険者ギルドから捜索要請が届いたのは今朝のこと。

 ダンジョン内にはゲームに出てくるようなモンスターが生息している。スキルがなければ相手にできないようなモンスターも多い。

 ダンジョンに潜ってモンスターを倒し、資源石を回収する人たちを冒険者と呼び、ギルドへの登録が義務付けられている。


「この要請書、冒険者は三名ってなってるのに、捜索対象が五人っていうのはどうしてなの?」

「それはね、残り二人が冒険者じゃないってことさ」

「冒険者じゃないのにダンジョンへ入ったの!? バッカじゃない。どうしてダンジョンなんかに」


 理由はふたつある。

 スキルが欲しい。お金が欲しい。このどちらかだ。


「スキルを持てるかどうかは、ダンジョンに入ってみないとわからないだろ?」

「あ、そうだったわね。私は勝手に落とされたから、自分から入るってことを忘れていたわ。でもスキルの獲得率って少ないじゃない。いくら一階でいいって言ったって、入ってすぐ死ぬなんてこともあり得るのに」

「そうだね。スキルは一万人にひとりぐらいだって言われてるし、誰でも手に入れられる訳じゃないんだけどね」


 サクラちゃんが言う様に、スキルはダンジョンの一階でも手に入れられる。

 手に入れるというか、突然、スキルに目覚めるのだ。

 人によっては入って一時間以上過ぎていたとか、直ぐだったとか、まちまちだ。

 入り口でもいいし、歩き回っているうちにっていうのもある。

 だから大抵の場合、冒険者を護衛に雇うわけだ。


「この二人も護衛を雇ったってわけね」

「いや、どうだろう? この五人、中学からの友人らしいんだ」

「あら。じゃあお友達に頼んで護衛に来てもらったってことかしら」


 普通はそう考えるけど、それにしてはおかしな点がある。


「二人の冒険者が地下十五階に下りたという記録がある。スキルを手に入れるために十五階まで下りる必要はない」

「えぇ!? じゃあスキルが目的じゃないの? なら何? あ、お金っ。お金ね! 美味しいもの食べるのも、かわいいお洋服を着るのにも、お金がいるものね。そうでしょ?」

「うん。もしかするとスキルとお金、その両方かもしれないけどね。さ、転移陣だ。サクラちゃんは十五階まで下りたことは?」

「ないわ。だから抱っこすることを許可してあげる」


 サクラちゃんが立ち上がって、万歳ポーズをとる。威嚇ポーズと同じだ。


 ダンジョンは五階ごとに、この転送陣が設置されている。

 設置したのは冒険者ギルドで、利用するには通常、お金が必要だ。

 捜索隊だけは例外。

 でも利用条件に『一度踏んだことのある陣』というのがあって、つまり行ったことのない階層には瞬間移動できないってわけだ。

 ただし、行ったことのある人に背負われてたり抱っこされてたり、とにかく地面に足を点けていなければ同行出来る。


 サクラちゃんを抱きかかえ、陣の中へ。

 すると陣の中に書かれた『5』『10』『15』『20』『25』……と、五の倍数で50までの数字が青白く光り出した。

 その中の『15』をつま先で踏む。


『十五階への転送を開始します』


 電子的な音声が聞こえ、青白い光に包まれた。

 すぐに転移が完了し、目の前には草原が広がる。遠くに見えるのは壁だ。


「ここは四方を壁に囲まれたエリアがいくつも存在する階層なんだ。壁にはそれぞれ色のついた扉があって、別の所にある同じ色の扉と通じてるんだ」

「あら。じゃあ隣のエリアに行くわけじゃないのね」

「あぁ、そうなんだ。地下十六階へ行くためには、正しい順番で扉を潜らなきゃならない」

「十六階? この階を捜索するんじゃないの?」

「先に十六階へ行く。十六階の端末に、冒険者の二人が登録していたら十五階にはいないってことになるし」


 各階層に置かれた端末に冒険者カードをかざすことで「ここまで来た」という証明が出来る。

 ただ証明するだけじゃなく、今回みたいに捜索する時の手掛かりにもなるんだ。


「サクラちゃん、俺のあとからついて来て。モンスターは無視するから」

「ちょっと待ってね……んー、動画動画……これこれこうして、うん、いいわよ」


 そうだ。動画だ。もう忘れてた。

 サクラちゃんいなかったら、今日も動画のスイッチ入れ忘れて怒られてたんだろうな。

 

「じゃ、行くよサクラちゃん」

「えぇ。早く見つけて上げましょう! さぁ、走るわよぉ~」


 サクラちゃんはやる気満々だけど、少し手加減して走り出す。

 振り返ると、四足歩行でサクラちゃんが追って来た。

 おぉ、早い早い。これならもう少し早く走っても良さそうだ。


「サクラちゃん。もう少し速度出すよ」

「ノープロブレムよ!」


 よし。じゃあまずは――時速60キロいってみよう。


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