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26:SFサクラちゃん。

『濃度はかなり低いですが、吸い続けると気を失って危険です』


 採掘者八人が気絶している原因を調べるため、空気の成分分析キットをサクラちゃんに使ってもらった。

 その結果、昏睡系の成分と神経毒の成分を検出。

 濃度が低いので、即効性ではないのが幸いか。


 けど、問題は他にもある。


『奥は行き止まりだけど、そこまで三十メートルぐらいはありそうなの。モンスターが湧いたりしないかしら?』

『可能性はゼロじゃない。さっき三石が倒したゾンビオークがそろそろリポップする頃だろう。サクラ、お前が使える武器アイテムを用意しておけ。それとガスマスクを装着するんだ』

『マスク! あぁ、そうだわ。それがあったわね』


 ふぅ、よかった。こういう事態にも備えて、ガスマスクも常備してある。


「サクラちゃん、ちゃんとマスクを装着できているか確認するから、帽子を外してカメラに映るよう立ってごらん」

『わかったわ悟くん。んしょ、んんっ――どう?』

――『ガスマスクタヌキ!?』

――『レッサーパンダだろ!』

――『ちょwww 腹いてぇぇ』

――『SFサクラちゃん!?』

『ぶふっ』

――『強そうだ』

――『動物用のマスクとかあるんだ・・・もうちょっとデザインどうにかならんかったんか』

――『普通のガスマスクだ。普通だ。普通なんだけどなんでこんなことに』


 ……なんか物凄い勢いでコメントが流れていく。ドローン操縦者の中には噴き出す人もいた。

 うん……まぁ、凄いインパクトのある絵面だとは思うよ。


『え? え? 装着の仕方間違ってる?』

「サクラちゃん、後ろも見せて」

『え、えぇ。こう?』

「うん。大丈夫っぽ。いいですよね、後藤さん?」

『お、おう……だ、大丈夫だ。ぐふっ』


 後藤さん、笑いを堪えてるな。

 こっちは真剣なんだ。笑うなんて酷い人だ。


「サクラちゃん。残りのガスマスクは、倒れている人に装着させて欲しいんだけど」

『いくつあったかしら……あ、六個しかない……』

「じゃあ八人の容態を見て、悪そうな人から装着してもらおう。時々、マスクを他にも装着させてくれ」

『わかったわ』

「同時に周囲の警戒も……」


 サクラちゃんだけに全て任せることになってしまった。

 早く……早く到着してくれ、後続隊。


 いや、俺もやれることをやろう。

 装備類はサクラちゃんが全部持っている。今あるのはこのフィンガーグローブだけ。

 さすがに岩は砕けないだろう。いや、振動を与えて変に崩れたら二次災害だって起こるかもしれない。危険だ。

 サクラちゃんが通った穴のあたりから、一つずつ岩を運んで広げて行こう。


「このぐらいなら持てるかな? よっ」

――『このぐらいwwww』

――『このぐらいの基準がバグってる』

――『人の頭より一回り大きいこのぐらいww』


 ここから投げ落とせれば楽だけど、地面に落ちた衝撃で壁が崩れてもマズいな。

 慎重に――。


『三石くん、佐々木です。あなたにだけ聞こえるチャンネルを使っています。そのまま黙って聞いてください』


 ん? 佐々木さん?


『救助、急いだほうがいいと思います』


 そりゃ出来るだけ急ぐけど。


『サクラちゃん、人間よりガスが全身に回るの早いと思うんです。体が小さいですから』


 ガスの回りが……そうだ。体が小さい方が、ガスや毒の回りは早い。

 そんな当たり前のこと、なんで忘れてた!

 でも、サクラちゃんはマスクを着けているし。


『サクラちゃん。自分のガスマスクを、採掘者に着けさせているの。時々自分も使ってるけど』


 な、なんだって!?

 のんびりなんてしていられない。急いで岩をどかさないとっ。


『悟、くん、何してるの? なんだか音がしてるけど』

「岩を運んで、ここの穴を広げてるんだ。サクラちゃん、ガスマスク」

『岩を!? 重たい、わよ、無理しないで、悟くん』

「採掘者がいつぐらいかかそこにいるのかわからないし、どのくらいガスを吸っているのかもわからないけど、早くそこから出さないとだろ」


 それにサクラちゃんも……。既にガスで呼吸が乱れているのが、通信でもわかる。

 それだけじゃない。万が一、岩壁の向こう側にモンスターがリポップしたら大変だ。

 武器になるアイテムをいくつも持っているだろうけど、だから安全って訳じゃない。

 ここは東区の二十八階だ。冒険者レベルでいうと、適正はレベル30から35ぐらい。

 さっきのロック・ファイアのようなアイテムだと、足止め程度でしか使えないんだ。

 少しでも早く助け出さないと。


『そういえば、ね、私に、文字の読み方を教えてくれた先生がね、あ、先生って言っても、スキルを持ってる人なんだけど、その人がね、元々小学校の先生だったの』

「職業訓練所での話?」

『そうそう。でね、その人のスキルが、インパクトって、言って――』

「インパクトかぁ。まさに今、俺が欲しいスキルだな」


 格闘系のパンチスキルであるインパクトは、対象の内側に衝撃を与えて破壊するというものだ。

 モンスター相手だと、内臓にダメージを与えられる。まぁ向こうの方が強ければちょっとのダメージってことになるが、そこは他の攻撃スキルにしたって同じこと。

 このスキルを岩に使えばどうなるか……。


 聞いたことがあるのは、冒険者じゃなく解体業者になったという人の話。

 コンクリートにスキルを叩きこむと、表面はそのまま、内側だけを粉砕して解体しやすく出来るってことだ。


『ふふ。実はね、悟くん、に、渡したグローブはね、その人から、貰ったものなの』

「え? これが?」

『うん。先生がね、もう必要ないから、あげるって。いつか、人間とパーティーを組むだろうし、格闘スキル、持っている人がいたら、使ってもらってって言われて』

――『サクラちゃん様子おかしくね?』

――『サクラちゃんマスク! 外しちゃダメだって!!』


 格闘スキルを持つ人が、必要なくなったから手放したグローブ……なぜ?

 素手での戦闘に特化した格闘スキル持ちは、それでも拳を守るためにグローブは着けている。

 後藤さんも格闘スキル持ちだから、よくグローブを嵌めて鍛錬しているのは見ていた。年季の入ったグローブだ。

 現場に出て捜索活動をしていたころからずっと使っているグローブだって聞いたな。


 そんな大切なものを手放すなんて……いや、必要なくなったってことは……もしかしてこのグローブ、スキルが付与されているマジックアイテム系!?

 格闘スキル持ちの先生だという人が必要ないということは……自分が持っているスキルと同じものが付与されているものとか……。

 あり得る。あり得るぞ。

 だってこのグローブ、使い古された感じがまったくしない。

 せっかく手に入れたのに、自分が持っているスキルと同じスキルが付与されていたから……サクラちゃんにあげたのかも?

 しかも格闘スキルを持っている人に渡してくれって――。


「インパクト……インパクトが付与されたグローブだったのか!?」

『え? どうしたの、悟くん。え?』

「よし、そうとわかれば――インパクト!」


 拳を岩に打ち付ける。

 くっ。スキルが発動しない。

 ロック・ファイアの杖を始めて使った時も、案外うまくいかなかった。


 イメージしろ。スキルのイメージを。

 表面ではなく、岩の内側を粉砕するイメージを!


「インパクトッ。インパクト!」

『お、おい、三石? お、おい。悟!』

『悟くん? え? スキル、に、目覚めたの?』

――『悟くん? 岩砕こうとしてんの?』

――『無茶しやがって。それめちゃくちゃ大きい岩やん』

「インパクト!」

――『攻撃スキル持ってないだろ?』

――『スキル付与のグローブ? それだったらワンチャンある』


 砕け散れ!


「インパクト!!!」


 光った気がした。

 でもそれは些細なことだ。

 

 パキんという音がして、次の瞬間、拳を打ち付けた岩の表面が崩れ落ち、砂が落ちた。


「で、出来た……」

――『おおおぉぉやった!』

――『スキル付与グローブだったか』

――『サクラちゃん救出急げ!』

――『おい、今光ったよな。悟くん光ったよな』

――『スキル付与のアイテム使っても、光らないよね?』

――『自分でスキル使った時しか光らないはず』

――『え、どういうこと?』



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