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25/132

25:要救助者――

「悟くん、酷い格好……」

「何も言わないで、サクラちゃん」


 ゾンビオークの返り血で汚いのはわかっている。

 早く帰って風呂に入りたい。


 襲って来たゾンビオークを全て倒し終え、改めて岩壁の向こうに人がいないか確認することにした。

 歩行型ドローンが岩をよじ登り、どこかに隙間がないかくまなく探してくれる。


『右上、天井に近い位置に穴発見』

「私が見てくるわ。悟くんは周辺を見てて」

『その通路に向かう分岐のところで見張ってるから、モンスターが来たら知らせますよ』

「ありがとうございます」


 通路の前後では、ドローンが何機か待機してくれている。

 更に他のドローンは二十九階への階段を探すグループと、下の階からの合流を目指す後続隊の誘導のために上層へ向かう階段前で待機してもらうことに。


「悟くん。この穴、私なら入れそうよ」

「サクラちゃんなら? でも――」


 俺も自分のスマホを出して、配信映像を確かめる。

 穴というより、崩落した岩の隙間でしかない。ここに無理やり入り込んでもし岩が崩れれば、サクラちゃんが危険だ。


「サクラちゃん、危ないから止めておこう。もし穴の中を進んでいる間に崩落したら――」

「大丈夫よ。だって私、神速の持ち主よ? 穴の中だってササっと行けるわよ」

「でもそれは地面に足がついていればの話だろう。その穴だと匍匐前進しかできないじゃないか」

「もう、大丈夫だって。私、動物なのよ?」


 動物だから大丈夫というのがわからない。イタチやテンみたいに、細い動物ならまだしも。

 サクラちゃんはお世辞にも、細いとはいえない。

 毛がふさふさしていて、実際には見た目より細いとは思う。でも細身――ではないはずだ。


「サクラちゃんっ」


 サクラちゃんの姿は、霧のせいでうっすらとしか見えない。


「悟くん、行かせて。私だって捜索隊の一員よ。スキルを手に入れて、人間の言葉を話せるようになって、そして力を手に入れたの。人を救える力を。役立てたいのよ。この力は無駄じゃないって」

「サクラちゃん……」

――『サクラちゃん!?』

――『(´;ω;`)ブワッ』

――『フラグ立てちゃらめぇぇ』

『悟、穴の直径を調べたが、サクラならギリギリ通れそうだ。サクラ、アイテムボックスからロープを出せ。腰に括りつけて、万が一の時には悟、お前が引くんだ』

「ロープね、えぇっと……あったわ。はい、悟くん」

――『マジで行かせるの?』

――『危ないってっ』


 ぴょんっと飛び降りて来たサクラちゃんは、笑顔でロープを差し出した。


『心配するな悟。サクラに着せてるベストも帽子も、捜索隊特性素材だ。多少の衝撃には耐えられる』


 後藤さんはそう言うけど、それでもやっぱり心配だ。

 けど、心配したところでサクラちゃんは中止しないだろう。


 サクラちゃんも捜索隊の一員だから。

 そう。人命救助のためには、多少の無理だってするのが当たり前なんだ。

 俺がサクラちゃんの立場でも、行くと言うだろう。


「サクラちゃん。十分に気を付けて。撮影はちょっと停止にしよう。ライトの光量を上げるから」

「あ、そうね。視聴者のみなさん、ごめんなさい。凄く眩しくなるから、撮影は一旦止めるわ」

『ならこっちで撮影してますよ』

「お願いします、12号さん」


 サクラちゃんの帽子に取り付けてあるカメラには、ライト機能も備わっている。

 普段はライトの電源は切ってあって、点けると映像が眩しくて白くなってしまうからだ。

 だから今回はカメラを停止して、ライトを点けた。


 サクラちゃんが穴の方へと登ると、明かりも動いて位置がわかりやすくなる。

 が、すぐにその明かりは消えた。


『12号です。サクラちゃん、中に入りました』


 その声を聞いてすぐにスマホを確認する。

 映っているのはサクラちゃんのもさもさした尻尾と後ろ足だ。

 ずりずりと穴を進んでいくサクラちゃん。

 辛うじて岩とサクラちゃんの隙間から、ライトの明かりがほんのり見える。


 しばらくして、その明かりが突然消えた。


「サクラちゃん!?」


 インカム越しに彼女を呼んだ。


『きゃっ! んもうっ悟くん! 大きな声出さないでっ。耳がキーンってするじゃないっ』

「サ、サクラちゃん……よかった。カメラに映ってる明かりが突然消えたから」

『穴から下りたからよ。うわぁ、こっちも霧が出てるのね』


 無事に抜けられたのか。本当によかった。

 サクラちゃんがカメラのスイッチを入れたようで、配信には真っ白い画面が映し出されていた。


『サクラ、ライトを消すか、光量を下げろ』

『あ、そうだったわ。んっと……このぐらいでいいかしら?』


 帽子を脱いで明かりの調整をするサクラちゃん。光量が抑えられたおかげで、周囲の様子も見えるようになった。

 誰もいない?


『奥から声がするわ。いるみたい』

「サクラちゃん、それは人の声?」

『大丈夫。モンスターじゃないわ。でも……うなされているような声』


 うなされている?

 サクラちゃんが十数メートルぐらい進んだあたりで、人影が見えた。

 ひとり、ふたり、三人……。


『八人全員いるわ。でも』

――『やった!』

――『うおおおおぉ要救助者発見! 救助者発見!』

――『え、マジで見つかった。これすげくね?』

――『視聴者参加型の捜索活動が成功……した』

――『いやぁ、泣いちゃうよこんなの。感動して泣いちゃう』

――『いやいや、この状況じゃ喜べねぇだろ』

『でも八人全員、倒れてるの。どうしたらいいのかしら』


 映像に映っていた採掘者らしき八人は、全員気を失って倒れているようだった。



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― 新着の感想 ―
こんばんは。 救出経路が満足じゃない、この状況で八名か…。生きててくれたのは幸いですが、難しい現状ですなぁ。
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