表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/123

24:モザイク案件。

「誰かいますかぁーっ」


 視聴者が見つけた「おかしな壁」前に到着し、周辺を調べる。

 やっぱりここの壁だけ妙にゴツゴツしているな。

 

「よく見たらここ、やっぱり通路みたいだ。ほらここ」


 ゴツゴツした壁は、通路から一メートルほど引っ込んだところにある。

 行き止まりにしては短すぎるし、道ではなく壁だとしても、わざわざ周囲より一メートル下がっている意味がわからない。


「じゃあ、奥に続く道があったのね」

「だと思う」

『この奥がどうなってる? 付近のドローンは周辺を捜索してくれ』

「よろしくお願いします」

『ラジャ。見つかるといいな』

『ただの崩落って可能性もあるだろ』


 そう。ただ偶然に崩落しただけかもしれない。

 でも偶然の可能性は限りなくゼロに近いのも事実。


 ダンジョンの一部が崩落するのには条件があった。

 崩落は、資源の採掘を邪魔するためのトラップみたいなものだ。

 トラップが発動する条件、それは短時間で資源オブジェを大量破壊することだ。

 だから資源の採掘は、こんな時代でも原始的な方法で行っている。

 ツルハシによる人力での採掘だ。


 ただ、火薬を絶対に使わないわけじゃない。

 短時間で大量に破壊しないのであれば、火薬を使うこともある。


「サクラちゃん。火薬のニオイが残ってない?」

「火薬? んー、そうねぇ……ふんふん……あら、少し匂うかも」

「本当かい!? もし火薬を使って資源オブジェを大量破壊させていたら……」

『崩落が起きてもおかしくはないな』


 そう。崩落の原因は火薬かもしれない。

 でも――採掘者がそんな初歩的ミスをするだろうか?


「やだ、悟くん。大変。モンスターのニオイがっ」

『こちら13号っ。モンスターが十体以上そっちに向かってる!』


 サクラちゃんとドローン操縦者からの報告は、ほとんど同時だった。

 それを聞いて確信する。


「ここの地図を開いている方、教えてくださいっ。あるはずの道の先は行き止まりですか?」


 スマホを見ていないので、視聴者のコメントはわからない。

 だがそこはサクラちゃんがしっかり確認してくれた。


「行き止まりだそうよ、悟くん。それよりモンスターよ!」

「後藤さん、もしかしてこの崩落、故意にやったものだとは考えられませんか?」

『故意に? なんで――そうか、モンスターに追われて、それでわざと天井を崩落させて身を守ったのか!』


 その可能性は十分にある。

 問題は崩落が通路の奥まで続いていないかってこと。その場合は……助からないだろう。

 それに崩落させるのが間に合わず、中にモンスターが入り込まれていた場合も……。


 直ぐに岩をどかして確認しないと。


『フゴォォォォッ』


 正面奥から現れたのはオークだ。豚のような顔をした二足歩行型モンスター。

 だけど普通のオークじゃないな。うぁ、こいつらゾンビだ。ゾンビオークか。


「サクラちゃん、グローブッ」

「はいっ」

「サクラちゃんはロック・ファイアの杖で応戦。出来る?」

「マジックアイテムの使い方は習ってるわ。たぶん大丈夫」

「よし、じゃあサクラちゃんは俺と交戦中じゃないオークを頼むね」


 ロック・ファイアの杖から発射される火球は小さなものだ。ピンポン玉ほどしかない。

 西区の地下一階ならこれで十分。

 でもこの階層のモンスターだと、致命傷を与えることだって不可能に等しい。

 ただし、あいつらはゾンビだ。ゾンビは聖属性と火属性に弱い。

 小さな火球でも多少はダメージを与えられるだろう。


 俺はグローブを嵌め、姿が見える位置まで来たゾンビオークの腹に一発叩きこむ。


『ゴバァッ――』

「うっ……」


 ぐちょ……という嫌な感触と共に、ゾンビオークが吹き飛ぶ。


――『うわぁぁぁスプラッタだぁぁ』

――『悟くん無茶しやがって』

――『うわぁ、あれゾンビだろ? グローブつったって指抜きのやつだし、素手とそうかわらんよな』

――『あれは気持ち悪い。マジ同情する』

――『か、かっけぇ』

 

 せめて……せめてボクシングのグローブみたいに手全体を覆えていたら。

 少し気持ち悪いけど、あとでちゃんと手を洗えば大丈夫だ。

 大丈夫。うん。よし。


「次、来い!」

『オグオオォォォッ』


 どすどすと地響きを立て、ゾンビオークが突進してくる。

 突進、と言ってもそう早いスピードではない。元々大きなからだな上に、ゾンビだ。むしろ遅い。

 避けるのは簡単。そしてカウンターを合わせるのも簡単。

 ぶよぶよとした腹にパンチをお見舞いすると、今度は吹っ飛ばなかった。

 ただし、パンチしたところの肉だけが吹き飛び、風穴が空いてしまう。


『おい、モザイクいれろ。すぐモザイク処理をしろっ』

――『霧が濃くてある意味よかった』

――『鮮明な映像だと吐いたかも』

――『結構冒険者の配信とかみてると、これぐらいよく見るけどな』

――『わかる。耐性つくよな』


 後ろから飛んで来た火球が、別のゾンビオークに命中する。

 ゾンビオークの体に着弾した火球は、そのまま奴の肉に引火した。

 燃えるのか、あいつら。なんでだろう?


――『オークの脂肪に火が点いた?』

――『そんなバカな』

――『いやそうでもない。オークの脂肪は燃えやすいって配信してる人いた』

――『動物性脂!?』


「やだ、焼けるニオイって臭いわね」

「肉が焼けるようなニオイだったらよかったけど」

「悟くん、お肉食べたいの?」

「いや、たぶんそうは思っていないよ」

「私は豚より鶏肉の方が好きだわ」

「そっか」


 俺はどっちも好きだな。でもオークは美味しそうだとは思わない。何より目の前にいるのはゾンビオークだ。間違っても絶対に口にしたくない。


 その後も次々と霧の中からゾンビオークが現れ、ぶん殴って蹴って――倒した数は両手じゃ足りないぐらいになった。


――『ごとさん。悟くんにもモザイクが必要だと思います』

――『今すぐ彼を風呂に入れてやりたい』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ