24:モザイク案件。
「誰かいますかぁーっ」
視聴者が見つけた「おかしな壁」前に到着し、周辺を調べる。
やっぱりここの壁だけ妙にゴツゴツしているな。
「よく見たらここ、やっぱり通路みたいだ。ほらここ」
ゴツゴツした壁は、通路から一メートルほど引っ込んだところにある。
行き止まりにしては短すぎるし、道ではなく壁だとしても、わざわざ周囲より一メートル下がっている意味がわからない。
「じゃあ、奥に続く道があったのね」
「だと思う」
『この奥がどうなってる? 付近のドローンは周辺を捜索してくれ』
「よろしくお願いします」
『ラジャ。見つかるといいな』
『ただの崩落って可能性もあるだろ』
そう。ただ偶然に崩落しただけかもしれない。
でも偶然の可能性は限りなくゼロに近いのも事実。
ダンジョンの一部が崩落するのには条件があった。
崩落は、資源の採掘を邪魔するためのトラップみたいなものだ。
トラップが発動する条件、それは短時間で資源オブジェを大量破壊することだ。
だから資源の採掘は、こんな時代でも原始的な方法で行っている。
ツルハシによる人力での採掘だ。
ただ、火薬を絶対に使わないわけじゃない。
短時間で大量に破壊しないのであれば、火薬を使うこともある。
「サクラちゃん。火薬のニオイが残ってない?」
「火薬? んー、そうねぇ……ふんふん……あら、少し匂うかも」
「本当かい!? もし火薬を使って資源オブジェを大量破壊させていたら……」
『崩落が起きてもおかしくはないな』
そう。崩落の原因は火薬かもしれない。
でも――採掘者がそんな初歩的ミスをするだろうか?
「やだ、悟くん。大変。モンスターのニオイがっ」
『こちら13号っ。モンスターが十体以上そっちに向かってる!』
サクラちゃんとドローン操縦者からの報告は、ほとんど同時だった。
それを聞いて確信する。
「ここの地図を開いている方、教えてくださいっ。あるはずの道の先は行き止まりですか?」
スマホを見ていないので、視聴者のコメントはわからない。
だがそこはサクラちゃんがしっかり確認してくれた。
「行き止まりだそうよ、悟くん。それよりモンスターよ!」
「後藤さん、もしかしてこの崩落、故意にやったものだとは考えられませんか?」
『故意に? なんで――そうか、モンスターに追われて、それでわざと天井を崩落させて身を守ったのか!』
その可能性は十分にある。
問題は崩落が通路の奥まで続いていないかってこと。その場合は……助からないだろう。
それに崩落させるのが間に合わず、中にモンスターが入り込まれていた場合も……。
直ぐに岩をどかして確認しないと。
『フゴォォォォッ』
正面奥から現れたのはオークだ。豚のような顔をした二足歩行型モンスター。
だけど普通のオークじゃないな。うぁ、こいつらゾンビだ。ゾンビオークか。
「サクラちゃん、グローブッ」
「はいっ」
「サクラちゃんはロック・ファイアの杖で応戦。出来る?」
「マジックアイテムの使い方は習ってるわ。たぶん大丈夫」
「よし、じゃあサクラちゃんは俺と交戦中じゃないオークを頼むね」
ロック・ファイアの杖から発射される火球は小さなものだ。ピンポン玉ほどしかない。
西区の地下一階ならこれで十分。
でもこの階層のモンスターだと、致命傷を与えることだって不可能に等しい。
ただし、あいつらはゾンビだ。ゾンビは聖属性と火属性に弱い。
小さな火球でも多少はダメージを与えられるだろう。
俺はグローブを嵌め、姿が見える位置まで来たゾンビオークの腹に一発叩きこむ。
『ゴバァッ――』
「うっ……」
ぐちょ……という嫌な感触と共に、ゾンビオークが吹き飛ぶ。
――『うわぁぁぁスプラッタだぁぁ』
――『悟くん無茶しやがって』
――『うわぁ、あれゾンビだろ? グローブつったって指抜きのやつだし、素手とそうかわらんよな』
――『あれは気持ち悪い。マジ同情する』
――『か、かっけぇ』
せめて……せめてボクシングのグローブみたいに手全体を覆えていたら。
少し気持ち悪いけど、あとでちゃんと手を洗えば大丈夫だ。
大丈夫。うん。よし。
「次、来い!」
『オグオオォォォッ』
どすどすと地響きを立て、ゾンビオークが突進してくる。
突進、と言ってもそう早いスピードではない。元々大きなからだな上に、ゾンビだ。むしろ遅い。
避けるのは簡単。そしてカウンターを合わせるのも簡単。
ぶよぶよとした腹にパンチをお見舞いすると、今度は吹っ飛ばなかった。
ただし、パンチしたところの肉だけが吹き飛び、風穴が空いてしまう。
『おい、モザイクいれろ。すぐモザイク処理をしろっ』
――『霧が濃くてある意味よかった』
――『鮮明な映像だと吐いたかも』
――『結構冒険者の配信とかみてると、これぐらいよく見るけどな』
――『わかる。耐性つくよな』
後ろから飛んで来た火球が、別のゾンビオークに命中する。
ゾンビオークの体に着弾した火球は、そのまま奴の肉に引火した。
燃えるのか、あいつら。なんでだろう?
――『オークの脂肪に火が点いた?』
――『そんなバカな』
――『いやそうでもない。オークの脂肪は燃えやすいって配信してる人いた』
――『動物性脂!?』
「やだ、焼けるニオイって臭いわね」
「肉が焼けるようなニオイだったらよかったけど」
「悟くん、お肉食べたいの?」
「いや、たぶんそうは思っていないよ」
「私は豚より鶏肉の方が好きだわ」
「そっか」
俺はどっちも好きだな。でもオークは美味しそうだとは思わない。何より目の前にいるのはゾンビオークだ。間違っても絶対に口にしたくない。
その後も次々と霧の中からゾンビオークが現れ、ぶん殴って蹴って――倒した数は両手じゃ足りないぐらいになった。
――『ごとさん。悟くんにもモザイクが必要だと思います』
――『今すぐ彼を風呂に入れてやりたい』