23:12号の道。
『カメラ28号、分岐点進みます』
――『12番、なんか映ってなかった?』
――『岩』
『23号です。行き止まりでした』
『指示しますので、引き返して24号のルートを追ってください』
『了解です』
三十三機のドローンは三つのグループに分けて出発した。
入り口から道が三方向に分かれているから、それぞれのグループに進んでもらっている。
分岐点の度に一機ずつ別れていって、しらみつぶしに探す作戦だ。
『わっ、モンスターだ。どうします? どう?』
「心配ありません。モンスターは生命反応のない対象には興味がありませんので」
『触れたり足元を横切ったりしなければシカトされますんで。モンスターの近くを通るときは、可能なら天井歩行で抜けてください』
『天井かぁ。カメラが逆さまになるから操作しずらくなるんだよね』
『わかる。あれは高等テクニック』
ドローンの操縦は、やっぱり難しそうだ。
三十三機のドローンの映像は、配信画面に全て映し出されている。
でもこの状態だと視聴者が非常に見難いので、各画面をリンク制にしてそれだけが映るようにもしてもらった。
捜索隊本部では各ドローンを見ている視聴者ごとにチャットを管理し、AIを使って重要度の高いコメントを抜き出すようにしてある。
俺とサクラちゃんも、ただ見ているだけじゃない。
俺たちも正面の通路を、一機のドローンと進んでいる。
「サクラちゃん、追えてる?」
「えぇ。お芋のニオイを追ってるわ」
俺たちの前を進むドローンには、干し芋を括りつけた。サクラちゃんがニオイで追えるようにだ。
視界は五メートルもない。ドローンもゆっくりと、分岐を見落とさないよう進んだ。
三十三機のドローンが進んだ道は、リアルタイムでAIで地図に起こしていく。
それによって行き止まりだった場合も、引き返して仲間のドローンを正確に追うことが出来た。
「後藤さん、ドローンを使って全てのダンジョンを――」
『待て待て。ここみたいにモンスターが少ない階層ならいいが、他の階層だとドローンが壊される心配があるだろう』
『他に冒険者もいますし、どうしたって邪魔にしかならないんですよ』
後藤さんに続き、佐々木さんから説明された。
そっか。他の階層だとモンスターの傍をそっと抜けるってことが出来ないのか。
戦闘中の冒険者の邪魔にもなってしまうし、物理的に無理があるのか。
『ちなみにだが三石。そのドローン、一機で二百八十万するからな』
「みなさん、慎重に行きましょう」
『プレッシャーかけてくんな』
『現実を知りたくなかった』
――『壊すなよwww』
もうちょっと距離とって歩こうかな……。
俺のオートマッピングもまぁまぁ埋まってきた。といっても全体の一割にも満たないと思うけど。
ドローンを使った捜索を開始して三時間ほど、まだそれらしい人影なんかは見つかっていない。
最悪の場合、遺体が――という可能性もある。
ドローンの操縦を買って出てくれたくれた人には、事前にそう言った話もした。
『この階にいない可能性っていうのは?』
「もちろんあります。でも人手がない以上、二十九階を探すわけにも行きませんし」
『ドローンを何機か二十九階に……あ、モンスターがいるんだっけ』
「いえ、二十九階もここと似た感じです。もしかするとそっちも霧が出ているかもしれません。それに――」
二十九階へ行くには、二十八階を抜けるか、もしくは一度地上に戻り、転移陣で三十階に飛んで階段を上るしかない。
後続の捜索隊が到着すれば、三十階から向かうことになるだろう。
二十九階に霧が立ち込めていたら、結局人力で捜索するのは困難な訳で。
「誰かのドローンが上り階段を発見した場合は、二十九階の様子を見に下りていただきましょう」
『そうだな。近くに他のドローンがあれば、そっちの捜索に移ってもらおう』
――『あれ? 12号の道、おかしくないか?』
――『おかしい?』
――『別モニターで二十八階のマップ出してんだけど、道が続いてるはずなのに壁になってる』
――『地図?』
――『個人で地図をupしてる冒険者とかいるんだよ。信憑性はいまいちだけど』
二十八階で見つかってくれるのが一番だ。そのうえで生きていてくれたら……。
『なんだと!? そのマップのアドレスは? 佐々木、調べろ』
『はい』
ん? 本部の方で何か動きがあった?
『こちら12号カメラです。道を引き返しますね』
「悟くん、悟くん」
「ん? どうしたのサクラちゃん。あ、1号さん、いったん止まってください」
『了解』
サクラちゃんがスマホを向けて来る。
個人で地図をアップしている冒険者? SNSやブログ、個人配信をやってる冒険者は少なくはない。
自分でマッピングをし、それを公開している人もいるようだ。
東区の二十八階をマッピングして、手描きの地図を見つけた視聴者がいたらしい。
スキルのマッピングと違い、手描きだと描き洩らしもあるから正確かどうかっていう点では微妙ではあるけれど。
『12号です。ここ?』
『そうそうそこ』
『なんかそこの壁だけ、他と違わない?』
『岩で塞がった感が』
サクラちゃんのスマホに流れて来るコメントを見て、直ぐに画像を12号カメラに変更する。
確かに、崩落したようなあとだ。
ダンジョンの構造は基本的に変わらない。
ただし、採掘場になっているような場所では、嫌がらせのように崩落することがある。
ここは採掘場の多い二十八階だ。
もしかして。
「佐々木さん、俺たちをその現場まで誘導してくださいっ」
『わ、わかりました。12号さん、その場から動かないでください。13号さんと17号さん、20号さんは個別に担当職員が指示を出します。指示通り動いてもらって、ライトを点滅させてください』
「いくよサクラちゃん」
「えぇ。きっと見つけるわっ」
佐々木さんの指示で道を引き返し、12号ドローンの元へと向かった。