22:タダ働きです。
「後藤さん、探索用地上ドローンをありったけ集めてください。あとカメラ映像をライブ配信出来るように調整お願いします」
『ドローンだと!? ありったけってお前……操縦者が足りないだろう』
「そうですね……じゃあ……サクラちゃん、カメラこっちに向けて」
「え、えぇ」
スマホをサクラちゃんに返し、カメラを向けて貰った。
「すみません。ディロプロ……えっと」
『ディロプロドローンR12式だ』
「そうそう。ディロプロドローンR12式を操縦できる方いませんか?」
『まさかの操縦士募集!?』
『日当でるの??』
『ドローンの操縦って誰でも出来るん?』
『誰でもできねーから募集してんだろバカか?』
『歩行型って実は飛行型より難しい』
『てかダンジョン内のドローン操作って外からできんの?』
『魔力いるんじゃね?』
「魔力は捜索隊本部と俺とで補います。捜索隊経由なのでタイムラグがありますから、それを念頭に入れて操作できる方」
ドローンの操作はスマホと同じで、魔力を経由して電波を飛ばす。
捜索隊でドローンの操縦技術のある人は少なくはないが、多くもない。
しかももう十八時を過ぎているから、帰宅した社員も多いだろう。夜勤担当者だけだと数人しかいないはず。
帰宅した人を呼び戻すより、ここで視聴者から操縦可能な人を探す方が早い。
「後藤さん。ありったけのドローンを東区に持って来てください。入口まで運んでもらったら、地上に出ますので」
「え? 悟くん、今から戻るの? でもそれだと――」
「これを使うんだ。これは一度だけ使える、緊急脱出用の風呂敷なんだ」
転移陣と同じ魔法陣が描かれた風呂敷で、どこでも使えるけど、一度発動させると数秒で消えてしまう消耗品だ。
しかも利用できるのは一名のみ。誰かが乗ると消えてしまうタイプだ。
「もう一つ、これ」
「また風呂敷?」
「そ。こっちは二枚セットで、対になっているんだ」
こっちの風呂敷にも転移陣が描かれている。双方の転移陣を行き来出来るアイテムだ。
ただしこちらも一度きり。そして一枚目を発動したら、十分で消えてしまう。
技術部が開発した渾身のアイテムだけど、なかなかに制限が厳しい。
わざとではない。使用されるエネルギー量の都合で、一回以上は無理なんだと聞いた。
「だから地上側の準備が出来てからじゃないと、使えないんだけどな」
「便利なようで、不便なのね」
「これもひとり用だけど、サクラちゃんなら俺が抱えていけば乗れると思う。その場合、十分でドローンや必要な物をアイテムボックスに入れなきゃならない」
「わかってるわ。もし乗れなかったら?」
「その時は俺がなんとか担いでくるよ。サクラちゃんは階段から動かないように。それよカメラで自分を映してて」
何かあったら後藤さんが指示してくれるだろう。
地上の準備が出来る間に、俺たちは少し休憩する。
疲れてはいない。でもこれからのことを考えると少しでも休んでおかないと。
今夜はこのまま徹夜だろうからな。
「ドローンの操縦士をしてくれる方、いませんか? 申し訳ないですが、ボランティアです。タダ働きです」
『タダかYO!』
『ここまで清々しく言い切るとは』
『特殊なドローンならそうそういないんじゃ?』
『オレできるけど』
『元自衛隊員です。俺もできます』
『地上ドローンは二、三回操作した程度だけど』
『私も少しなら』
『おい、結構いるじゃんかwww』
『報酬でないなら無理』
これだけ視聴者がいれば、そりゃ操縦できる人だっているよな。
よかった。
「タダ働きです。本当にいいんですね?」
『ここまで見て「やりません」じゃ、なんか夢見が悪くなるじゃん』
『人命救助のためにドローンの操作を学びました。役立ててください』
『暇だしいいよ』
『ごめん。明日も仕事だから一晩中は無理』
「はい。お気持ちだけで。ありがとうございます」
『オレもやるよ』
「ありがとうございます。みなさん、ありがとう」
「うっ、うっ。こんなにたくさん手伝ってくれる人がいるなんて、私、嬉しい」
『サクラちゃん泣いてる』
『尊い』
『推せる。俺は推し活でドローンの操縦をするぜ!』
『ちょおま、本当に操縦できんのかよ』
『操縦時間百二十時間以上だぜ』
『マジもんだった』
協力してくれる人は二十四人。夜勤スタッフと合わせれば三十台以上稼働出来る。
三十分ほど階段で休むと、後藤さんから準備が出来たと連絡が入った。
まずはサクラちゃんを抱っこする。おんぶ紐だと地上に出てから解くのに時間がかかるから。
「もし俺だけが転移した場合――」
「えぇ。ここで待ってるわ。その時は荷物、頑張ってね」
「あぁ。じゃ、行くよ」
対になる片方の風呂敷を発動させる。踏むだけだ。
サクラちゃんを抱いたまま転移陣に乗る。そして地上に転移した。
「やったわ悟くん!」
「サクラちゃん、よかった。すぐに荷物の積み込みに」
「三石、こっちだ。ドローン三十三機」
捜索隊の後方支援スタッフがドローンを運んでくれた。
サクラちゃんが箱を開き、みんなで手伝ってドローンを入れていく。
「よし、全部だ。こっちは予備の食料と水、それとスマホのバッテリーだ」
「全部入った。時間はまだ大丈夫だ。頑張れよ、二人とも」
「はい。行ってきます」
『こちら、捜索隊の後藤です。配信ID――』
後藤さんが協力者に、ドローンの遠隔操作パスワードを伝えている。
二十八階に戻ったらすぐに稼働テストだ。
すぐに探す。すぐに。