215:終結。
「ニコ。ロスに帰りなよ」
「……疲れたからあんたん所の客室に泊めてよ」
「ホテルに泊まって」
「あんたんところもホテルみたいなもんでしょ」
「悟も何か言ってくれよ」
ホテルとして使わされている俺は、何も言えない。
ヤケ狩りだーと言ってた彼女は、面白いほど見事に転送装置のある階段へと走って行った。
で、そのまま地上へ戻って来たと言う訳だ。
もしかしてこの人、方向音痴か?
「お、帰って来たか。悟、お前に客が……あ? ニコじゃねえか。なんだ、戻ってくる気になったのか?」
エディさんが出迎えてくれた。彼もニコールのことを知っているのか?
それに今、戻る気にって。
「Hi、エディ。戻る気はないわ。私はオーランドより強くなって目立ちたいの」
「ボクも戻って来て欲しくないな。ニコが騒がしいし」
「なんですって!! 私のどこが騒がしいっていうのよっ」
たぶん、そういうところ。
しばらく彼女はあーだこーだと言っていたが、やがて何かを思い出したようにピタっと止まった。
「エディ、泊めてよ」
「俺の部屋にか?」
「死ね」
「冗談だって。部屋なら空いてる。ゲストルームの3を使え。1は彼が使ってるし、2は今日来たゲストが使う」
「わかったわ。3ね。ありがと」
それだけ言うと彼女は正面のエレベーターへと向かった。
「で、悟。お前さんに客だ」
「え、俺にですか?」
「まぁでも呼んだのはオーランドだ」
「そう、ボクが呼んだ」
誰を? もしかしてゲストルーム2を使うっていう人か?
俺たちもエレベーターで上に行くために歩き出す。
ちょうど到着したようで、ポーンっと音が鳴ってドアが開いた。
すぐに駆け込むニコールが、降りようとした人とぶつかる。
「キャッ」
「わっ」
二人は短い悲鳴を上げ、バランスを崩したニコールを降りようとした男が咄嗟に支えた。
男が彼女の腰に手を回し、ぐいっと引き寄せる。
まるでダンスのワンシーンを切り取ったような構図だ。
で……。
「オーランド。呼んだってまさか」
「うん。真田だ」
今、ニコールと見つめ合っているのは真田さんだった。
あ、視線を逸らした。
こっち見た。
あれは助けを求めている目だな。
仕方ない。
「大丈夫か、二人とも」
「や、やぁ三石くん。俺は大丈夫。えっと、この人が」
「ニコールさん、大丈夫ですか?」
なんだろう。ぼぉっとしてるようだけど。
「足、挫いたりしていませんか?」
翻訳機からちゃんと英語は出ているんだけど、通じてない?
「Hi、ニコ。ボクの親友その二の真田から離れろ」
「はぁぁ? あんたの親友ですって!? この……彼……が……」
ん? ニコールの顔が急に赤くなりはじめた。
な、何かの状態異常か!? モンスターから変な毒攻撃を喰らってたんじゃ??
「あら」
「まぁ」
サクラちゃんとヨーコさんが、ニマニマした顔で二人を見つめている。
ん? どうしたんだ?
「真田、今助けるぞ!」
「オーランドぉぉ」
状況がよくわからない。隣でエディさんも笑っている。
そして――。
「お前ら……エレベーターが、止まったままだろうが! こんなところで、遊んでんじゃねぇっ」
と、エレベーター脇の階段を駆け下りてきたトムさんが、肩で息をしながら叫んだ。
「ええぇぇぇ、も、もうレベル160!? 早すぎないですか?」
「悟たちにはそれだけの実力があったんだよ。ボクは知ってた」
「明日から俺も参加しますんでっ」
参加って……レベリング?
それは心強いけど、なんで彼がここに?
「オーランド。なんで真田さんを?」
「ん? 隠しダンジョンのボス攻略のために呼んだんだ」
「呼ばれました。三石くんところのおじさんの体を、健康な状態に戻すため、でしょ?」
真田さんに話したのか、オーランド。
いや、別に口止めもしていないし話されて困る事でもないけど。
でも……真田さんまで父さんのことを……。
こんな嬉しいことって、あるだろうか。
「隠しダンジョンのボス攻略ですって! オーランドたちもそれを狙っているわけね」
「え、まさかニコも?」
「そうよ。だから01ダンジョンの最下層を目指していたんじゃない」
01ダンジョン?
あ、もしかしてアメリカで最初に出現したダンジョンのことか。
あの日、アメリカで出現したダンジョンは三つある。でも同時じゃなく、数時間の時間差があった。
一番最初に出現したのが、オーランドが生まれたあのダンジョンだ。次はロサンゼルスで、その次がワシントン。
ん? 01を攻略していたって……俺たちがさっきまでいたのは、01じゃなくブルックリンのダンジョンだったんだけど。
「ニコ。君が攻略していたのはブルックリンのダンジョンだ。01じゃない」
「……そう。じゃ、明日、案内してよ」
「嫌だ」
「なんで案内しないのよ!」
「案内してやる理由がない」
「案内してってばっ。してよ!」
「嫌だ」
「だからあんたは友達がいないのよ!」
「友達がいないのはニコだろう? ボクにはこんなにたくさん友達がいるんだ」
「ぐぬぬ……あんたに友達がいるなんて……く、悔しくないわよ!」
……。
「真田さん、時差ぼけとか平気?」
「あ、飛行機の中で寝てしまったから、今夜眠れるか不安なんです」
「じゃあお腹空いてるんじゃ?」
「はい。なんかここのハンタービルにお店も入ってるって聞いたんですけど」
「じゃ、ご飯行こうか。みんなも行こう」
「そうね、行きましょ」
「ウチお腹ペコペコぉ」
「あなた。明日から私たちも行こうと思うの」
「え? ツララ大丈夫なのか?」
「へーきだもん。ツララも飛べるようになったんだしっ」
「偉いぞぉ、ツララぁ」
「ケッ」
今夜は何を食べようかなぁ。




