214:ニコール。
「しつっこいわね。だからモテないのよ!」
角を曲がる前、そんな声が聞こえた。そして角を曲がるとこちらに背を向け、指をパチンと鳴らす女の人の姿が。
途端、ドォォーンっと前方が爆発する。
爆破系スキル?
「はぁ……もう、ここどこよ!!」
どこって、階段からまだそんなに離れていないんだけど。
「Hi、ニコ」
「っんっひぃぃーっ!? だ、だだ、誰!?」
金髪を乱し、彼女が振り向く。
「オーランドオオォォォォォォ」
片手をあげて挨拶をするオーランドに向かって、彼女が駆け出す。
やっぱり友達?
走ってきた彼女は、そのまま――そのまま――何故かオーランドにラリアットポーズで迫った。
オーランドは左に体を捻って躱す。
友達じゃ、なさそうだ。
「チッ」
え? 今この女の人、舌打ちした?
「Why are you here!?」
「I came to search」
「Who?」
「You」
英語での会話が始まってしまった。
足元を見ると、サクラちゃんが何かを取り出し、ヨーコさんに渡している。そのヨーコさんはスマホを二人に向けていた。
翻訳機か。
「サクラちゃん。俺の分もある?」
「もちろんよ。はい」
「ありがとう」
「ブライトとヴァイスも、はい、どうぞ」
サクラちゃんやヨーコさん、ブライト、ヴァイスはヘアバンドに翻訳機が取り付けられている。
サクラちゃんが二羽にヘアバンドを付けてやった。フクロウって左右の耳の位置が違うんだよな。
「なんであなたが私を探しに来たのよ!」
「ボク、捜索隊だから」
「はぁぁぁ? 捜索隊ぃぃー? なにそれ」
「ダンジョンで遭難した人や助けを求める人を、探して助ける仕事」
「……私は遭難したんじゃないわよ!」
「いや、迷子になってるだろ? 君の所のギルマスが捜索願出してるよ。いったい何日迷子になっているんだ、君は」
「キアヌが!? 何日って、知る訳ないでしょ。ここじゃ昼も夜も関係ないんだし」
「時計があるだろ」
「ないわ」
「スマホは」
「忘れたわ」
「君はバカなのか?」
「バカって言ったわね! バカっていう奴がバカなのよ!」
……なんだろう。この状況は。
物凄く、仲が悪い?
だけど俺やオーランドと同じだと言うが、彼女はなんというか……普通だ。
何がどう普通かっていうと、表情が豊かなんだ。
俺やオーランド、真田さんは表情の変化があまりない。
感情がないわけじゃなく、感情を顔に出すのが下手というか……とにかく、表情があまり動かないんだ。
だけど彼女は違う。コロコロと表情が動いている。
とてもダンジョン・ベビーには見えないな。
ん?
オーランドがこっち見てるな。助けてくれってこと?
でも要請の電話を受けたのはオーランドだし、俺はその内容もわからないしなんとも言えない。
「オーランド。とりえず捜索隊のニューヨーク支部に電話したらどうだ? 要請が出ていることが本当だって、わかってもらえるだろうし」
「それだ! 悟、君は冴えてるな」
いや、別に普通のことだから。
オーランドが急いで電話をし、更にその電話を彼女に代わった。
「え……もう一週間? そう……一週間……どおりで、お腹空いたわけだわ。えぇ、大丈夫。食事は六日分持ってきてたから」
一週間も潜ってたのか!?
アイテムボックスのスキル持ちだろうか?
彼女はスマホを切ると、それをオーランドに返す。それから――。
「お腹空いたわ。何か持ってる?」
そう尋ねてきた。
で、オーランドは俺を見る。
「サクラちゃん、非常食あったろ?」
「えぇ。悟くん用のならたくさんあるわ」
お、俺の……し、仕方ないか。
サクラちゃんに総合栄養食のチョコ味を出してもらい、それを彼女へと差し出した。あと飲み物も。
「ありがとう。ところであんた、誰?」
「あ……えっと、俺は――」
「ボクの親友」
バッと横から出てきたオーランドが、いつになく胸を張ってそう言った。
「ほんとに?」
何故か彼女が聞き返してくる。
「まぁ……はい」
「ふーん……オーランドに親友がねぇ」
「羨ましいだろ、ニコール」
彼女が口を閉ざす。
その間に非常食をモリモリ食べ、ようやく口を開いた。
「ぜんっぜん、別に!」
「羨ましいくせに。ニコも友達いないもんな」
「い、いるわよぉ。友達ぐらいいるわよ」
「ちなみに、サクラちゃんもヨーコさんもブライトもヴァイスも友達なんだ」
「だ、誰!? え? あんた友達そんなにいるの!? 誰!」
オーランドがサクラちゃんたちを指さす。
「サクラよ。よろしくね」
「ウチはヨーコばい」
「僕はブライトだ。よろしく、お嬢さん」
「ケッ。オレはこいつの友達じゃねーぞ」
「友達じゃないって、オーランド。っていうか、また動物なのあんた?」
「彼は人間だよ」
俺は人間です。
「そうね。人間の友達はひとりってことね。フッ」
「チッチッチ。勘違いしているねニコ。ボクの友達はまだいるんだ! な、悟」
「え、誰のことを言っているんだ?」
「真田だよ、真田!」
あぁ、真田さんね。まぁいろいろとウマの合う友達って感じだったな。
「確かに真田さんとは友達と言える仲だったな」
「ほらみろ! 二人だ、二人! 羨ましいか」
「う、嘘……信じられないわ! あんたに友達なんて。キィーッ、悔しいっ。ヤケ狩りよ、ヤケ狩り!」
あ、ちょっと! 捜索依頼だされているんだから、狩りに行かないでくれぇーっ!




