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21:貸してください。

「な、なんなのこれ!? ね、悟くん。真っ白よっ」

『はぁ……やっぱりか』


 やっぱりだ。


 四時間もかけて二十六階と二十七階を捜索し、採掘者たちを見つけることが出来なかった。

 そして二十八階。

 前方の通路は真っ白な霧に覆われて、数メートル先すら見えなくなっていた。


「サクラちゃん、検査キットお願い」

「わ、わかったわ。毒かしら? 呼吸したら死んじゃうかしら?」

「たぶん大丈夫。でも念のためにね」


 二十八階は時々――いや、結構な頻度で霧が立ち込める。

 出ない時もあるんだ。でも、週の半分ぐらいは霧に包まれているらしい。

 俺がマッピング目的で来た時もそうだった。両手で数えるほど来ているけど、いつも霧だ。


『お前の霧遭遇率は高いからなぁ。霧男かってぐらいに』

「霧男? 悟くん、霧になれるの!?」

「いや、違うから。成分に問題なし。普通の霧です。進めます」

『わかった。だが視界はほとんどない。走らず、歩いていけ。サクラぁ』

「は~い」


 キットを取り出してもらうために一度おんぶ紐から下ろしたサクラちゃんを、再び紐に――


『鼻は利くか? 三石から降りて歩いても、そいつを見失わないどうか』

「すぐ傍にいれば大丈夫よ。数十メートル離れてても平気。あ、そうだわっ」


 サクラちゃんを再び下ろす。彼女はアイテムボックスを開いて、箱の中から何かを取り出した。


「私の大好きなビワの芋サンド! ね、悟くん、これ持ってて」

「え、持っててって……」


 ビワの芋サンド? え? なにそれ?

 百均で売ってるサンドイッチなんかを入れるパックに、見た目はハンバーガーのようなものが入っている。

 こ、これは……。

 干し芋みたいなものを、ハンズというよりは分厚いハムだな――の形に整え、間に薄切りにしたビワを挟んだ……バーガー……。


「でもこのままじゃニオイがしないからお弁当箱から取り出して、ティッシュで挟んで、悟くん、これをポケットに入れておいて♪」

「……え」

「そうしたらニオイで追えるわっ。大好きなニオイだもの、一キロ先! はさすがに無理だけど、百メートルぐらいなら余裕よ」


 これを……ポケットに……嘘だろ。


 捜索隊の装備は、防犯セキュリティの警備会社の制服に似ている。現金輸送なんかをする会社のだ。

 防弾チョッキではなく、わりと普通のベストではあるが、素材がダンジョン産なのである程度の防御力は保証されている。

 ポケットも多く、確かにこれは入るだろう。

 入るけど……ティッシュで包んだだけって……。


 もし壁にぶつかったり、地面にスライディングでもしようものなら……。


 入れたくない。


 でも。


「さ、入ったわ。行きましょう、悟くん」


 もう入ってしまった……。


「行く前に食事にしよう。もう時間も時間だし」

「あっ、そうね! じゃあもう一個のビワの芋サンドを食べちゃおうっと」 


 もう一個あったのか……。

 

「後藤さん、家に連絡しといてもらえますか?」

『もう連絡した。ちゃんと飯食えとさ』

「ありがとうございます。サクラちゃん、水筒出してくれる?」

「んぐ。えぇ、いいわよ」

「それとカップ飯」

『悟ぅ、サクラのスマホのバッテリーも、今の内に交換してくれ』


 長丁場になりそうだ。こういう時は気分的にお米が食べたくなる。

 アイテムボックス内に入れた食材は、その時の温度を保った状態だ。生鮮食品なんかは、保冷剤の入った発泡スチロールにでも入れておけば、何日も鮮度を保てる。

 熱湯を入れた水筒も、何日でもその温度をキープしてくれる。


 カップにお湯を注ぐだけでお茶漬け完成。

 満腹になると眠気がきやすくなるし、食べるのはこれだけだ。


 お茶漬けを食べながらマップを確認する。

 登り階段口から百メートルも進めていない。

 ここはT字になっていて、左のルートに絞ってマッピングしている。

 左手の法則に従ってみたけど、進んで直ぐに分かれ道に。左に進むと、少し広い空間に出る。

 問題はその先だった。


 霧に覆われているせいで、そう広くはないはずの空間も全貌が見えない。

 外周をぐるっと一周しているつもりで、気づけば違う通路へと出ていた。

 そこから先の通路が広く、左手を壁に触れながらだと、右側の壁が霧で見えない状態になる。

 オートマッピングは、俺が目視している空間を自動で描きこんでいるから、霧で見えないと描き込みもされない。

 本当に嫌な階層だ。


「ほんとに全然埋まってないのね、地図」

「あ、うん。霧が邪魔でね」

「嗅覚と聴覚は人間よりいいけど、視力はあんまりお役に立てないわ」

「その二つだけでも、人探しをするのには役立つよ」

「そう言って貰えてうれしいわ。でも、これだけ視界が悪いと、探すのも、進むのも大変ね」


 登り階段に腰を下ろし、少し早めの夕食を食べている。

 ここは霧が薄いけれど、ちょっと進めば真っ白だ。


「はぁ……前も後ろも上も下も、ぜーんぶ見なきゃいけないのに、私たちの目は二つしかない。しかも同時に見れる方角はひとつだけ。同時にいろんな方角を見ることが出来ればいいのに」

「あぁ、複眼ってスキルがあって――複数の目……」


 サクラちゃんのスマホバッテリーの交換を終え、電源を入れる。

 起動して『スマート・マジック・フォン』のロゴが浮かぶ。


「悟くん、魔力平気?」

「あぁ、大丈夫」


 一般のスマホはダンジョン内では使えない。アンテナがないから。

 このスマート・マジック・フォンは、魔力を媒体にして電波を飛ばす仕組みだ。

 起動時に魔力が少し吸い取られるから、魔法スキルを使う人は注意をしないといけない。

 

 起動後、配信チャンネルの画面が映し出される。

 視聴者数――十三万人超え!?


「こ、こんなに見てるのか……あの、えっと……お食事中の方もいらっしゃると思いますが、実はみなさんにお願いがあります」

『おい、悟?』

「どうしたの、悟くん」


『悟くんからのお願い?』

『お、なになに?』

『オレもお茶漬け食ってるwww』

『サクラちゃんからのお願いなら聞こう』

『彼女いますか!?』

『捜索隊の給料って薄給って本当?』

『wktk』

『お願い?』

 ・

 ・

 ・


 コメント全部読むの無理だなこれ……。


「みなさん。みなさんの目を、貸してください」

 

『無理』

『無理だな』

『カメラ通して視聴者にも探してくれってこと?』


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