203:異変。
遂に……遂に始まる。
規定レベルに達していない者の、転移先の制限。
「まぁつまりはだ。各階層の適正レベルよりマイナス10レベルの者は、その階層への転送が不可になるって奴だ」
「「おぉ~」」
後藤さんの説明に拍手が湧く。
これで無謀なダンジョン攻略をして遭難する冒険者が減るだろう。
もちろん、これは転移装置を使った場合のみだから、徒歩で攻略する冒険者はマイナス10でも20でも、階層を下りて行く事は出来る。
それが出来るのは、レベルこそ低いが実力のある人ってことだ。
「更に。来年度からATORAの警備会社が、入り口の二十四時間監視を行うことが決まった。そのために、各ダンジョン入口横に監視小屋も設置しているところだ」
「「おぉ~」」
再び拍手。この監視員の報酬は、冒険者ギルドと協議をした結果、ドロップ品の買取時にギルドが受け取る手数料の0.5%を頂く――ということになった。
それとは別に、ダンジョン入場料を取ることに。
名目は――
「転送装置は我々ATORAの開発したものだ。そしてダンジョンでスマホが使えるのもATORAのアンテナがあるからだ。その利用料ってことだから、文句は言わせない」
「そーだそーだっ」
「つかこれまでタダで使えてたのが問題なんだよ」
「まぁ転送装置にお金を差し込む場所なんてなかったしなぁ」
「お金に反応して起動するって仕組みも、なんだかんだ出来なかったみたいだしね」
「ダンジョン産アイテムなら反応してたから、それで硬貨を作るって手もあったらしいけど」
結局、その硬貨を開発する資金の方で大赤字になるし、捜索隊自身には無駄なアイテムになるから止めたそうだ。
しかし入場料か。冒険者と揉めないか心配だ。
年末を迎え、ダンジョンはすこーしだけ人の出入りが減る。
家庭を持つ人たちは一家団欒を満喫したり、旅行に出かけたりするからだ。
ダンジョンから人が減る=遭難者や救助者が減る……というわけではない。
報告会議のさなかにも、
『東区の四十一階で救助要請です』
『上野の十階で方角を見失ったという冒険者パーティーが』
『北区の六十七階で――』
と、立て続けに救助要請が入った。
家庭を持っている人っていうのは、実は冒険者歴の長い人が多い。
たいていの人は高卒と同時にダンジョンに入って、スキルの獲得ガチャをするのだから、結婚して子供がいるような年齢の人はスキル所持歴もそれなりってことになる。
そしてダンジョン内のモンスターは常に一定数が生息している。
ベテラン勢がいなくなった人間側VS常に一定数生息するモンスター。
この時期は冒険者ひとりあたりが相手にするモンスターの平均数が上がる。適正レベルの階層でも、囲まれやすくなるから危険なんだ。
「というのを、冒険者ギルドでも伝えているとは思うんだけどな」
「聞かない人も多いんでしょうねぇ」
「人が少ないってことは、稼ぎ時でもあるけんね」
「普段よりサクサク狩れて喜んでいたら、うっかり囲まれてピンチってか」
「バッカじゃねーの」
「こらヴァイス。すぐ人のことをバカ呼ばわりしちゃダメだって、母さんにも言われただろ。確かにバカだけど」
ブライト……それは教育の仕方として何か間違ってる気がするぞ。
というわけで、俺たちにも出動要請が入り、日帰りでサクっと救助完了。
本部に戻って来ると、本日二度目の出動要請が入った。
「残業だな」
「今日はお家に帰れるかしら~」
「ウチ電話しとくけん」
「あ、ヨーコちゃん、お願いね」
二度目の救助もサクっと終わったものの、本部に戻って来たのは深夜二時。
そのまま仮眠室で休み、翌日は朝から通常勤務。
家に戻ったのはその日の夜だった。
「え? 父さんの麻痺が進行してる?」
寝る前に俺の部屋へとやって来た母さんが、突然そんなことを言いだした。
「お医者様に診てもらったわけじゃないの。でもね、ここ最近、体を起こしたりするときにお腹の辺り触っても、気づいてないのよ」
触れていることに気づけていない……触れられている感触がないってことか。
「お父さんも気づいてると思うの。時々ぼぉーっと、手を見つめていることがあるから。もしかして手の方にも麻痺がいってるんじゃないかしらって思って」
「医者に診てもらった方がいいんじゃないか?」
「う、ん……でもお父さんになんて言えばいいのかしら。麻痺が広がっているようだから病院へ行きましょう?」
それが一番理解しやすい言い方なんだろうけど、半身麻痺状態の父さんにそれを言うのは酷……母さんはそう思うんだろう。
俺だってそんなこと言うのは辛いよ。
でもこのまま放っておくのは危ないし、何か別の病気だって可能性も、いや気のせいだってことだって!
「俺が……俺が話してくるよ」
「悟が? だ、大丈夫?」
「うん。父さんの体の状態を知るのは、大事なことだからね。言わないと」
すぐに父さんの寝室へ行く。父さんはベッドのリクライニングを起こし、まるで俺を待っていたかのように笑って出迎えた。
「父さん……明日、病院へ行こう。体の検査をしてもらいに」
「明日か……大晦日は病院かなぁ」
苦笑いを浮かべる父さん。
その言葉に、やっぱり自分でも体の不調に気づいている――というのがわかった。




