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2:出動だ。

「え、サクラちゃん二歳半なの? わっかぁ~い」

「やだぁ、若いだなんて」

「サクラちゃん、いつスキル持ちになったんだ?」


 突然この世界に出現したダンジョンでは、一部の人間にスキルという超人的な力を与えてくれる。

 でも実は、スキルを授かれるのは人間だけじゃなかった。

 その対象は動物たちにもある。


 動物の場合、知能が高くなって人の言葉を介せるようになるというオマケもついていた。


「半年前よ。生まれ育った動物園から隣の県にお引越ししてる最中にね」

「あ、それって宮城県で発生したダンジョンじゃない?」

「正解よ、佐々木さん。岩手県から引っ越してたのよぉ。トラックごとダンジョン生成に巻き込まれちゃってさぁ」


 ダンジョンは突然生成される。生成地点には次元の裂け目ができ、それがぐるぐると渦を巻く。

 その時、周辺にあるすべてのものを飲み込んでしまう。ブラックホールのようなものだ。

 建物も、人も、車も、動物も、なんでもだ。


 あのタヌ――レッサーパンダは、飼育員と一緒に生成に巻き込まれ、幸い浅い階層に落とされたから無事に生還できたそうだ。

 飼育員はスキルを得ることはなく、今でも普通に飼育員として動物園で働いているという。


 その情報、ここで必要なのか?


「で、私はアイテムボックスと神速、それから威嚇スキルを収得したの。レッサーパンダっぽいでしょ?」


 後ろ足で立ち、前脚で万歳ポーズ。

 あぁ、確かにレッサーパンダって、あんなポーズしてたな。


「サクラちゃん、かわいい~」

「かわいいだなんて、ヤダ恥ずかしいわぁ」


 小さな手のひらを頬に添える。人間っぽい仕草だぁ。

 そうは思うけど、やっぱりアレはタヌキだ。


 そのタヌキが俺の方へと歩いて来る。


「パートナーになったんだし、お互いの親睦を深めるべきだと思うの」

「はぁ、まぁ……」

「んもうつ。覇気のない子ねぇ。とにかく行くわよ」

「え、行くってどこに。待機時間だから社外には――」

「一階のカフェよ」


 それならまぁ……。でもタヌキって、カフェに入ってもいいのか?






「え、悟くんって、ダンジョンの中で生まれたの?」


 今、タヌキと一緒にカフェへ来ている。

 捜索隊の社員登録が済んでいるし、ノミダニ駆除も完璧。その証明書を持っているため、出入り可能なのだという。


「母さんが産気づいて、父さんが車で病院に送ってる最中だったんだ」

「そう。大変だったでしょう~。人間の出産は切ったり縫ったりするって聞いたけど、お母様大丈夫だったの?」

「あー、実はね。部長の後藤さん、以前は救急救命士でね」


 父さんが運転する車と、後藤さんが乗った救急車が、揃ってダンジョン生成に巻き込まれた。

 ちょうと二台がすれ違う瞬間だったのもあって、同じ階層に落とされたんだ。

 

「後藤さんは救急車内での出産で処置経験があったそうでね、しかも運よく、医大生がいて」


 というか、生成現場の近くに医大があったからってのもあったんだろう。

 学生だったけど、縫合の練習はもちろん、実習も経験済みって人がいて、切った縫ったはその人がやってくれた。


「ちなみに、その時の医大生が後藤さんの奥さんなんだよ」

「え!? なにそれ、胸キュンなんだけどぉ。ステキぃ。ダンジョン内で妊婦さんを助け、赤ん坊を取り上げた二人が結ばれるなんて。ロマンチックだわぁ」


 そうなのかな?

 まぁその時のことが縁で、後藤さんたちとは家族ぐるみの付き合いなんだけど。


「あ、でも。ダンジョン内で生まれた子って、凄い能力があるんでしょ? どうして悟くんはエースチームにいないわけ?」

「うぅん。攻撃スキルがないから、かな?」

「あら、そうなの? じゃあ、じゃあ。他の人より身体能力が高くなるっていうのは?」

「あー、うん。まぁ……」


 スキルを得た人は、一般の人より身体能力が高くなる。

 個人差があるものの、最低でもオリンピック選手並みだ。しかも全種目で。


「悟くんの能力値は――」


 サクラは小さな手で、器用にスマホを操作している。

 社員の能力データは、同じく社員なら誰でも見ることが出来た。それを見て、サクラが驚く。


「え? ちょっと待って。何よこれ、おかしくない?」

「俺のスキル、総合身体能力強化なんだ。生まれた時に手に入れてるし、二十二年間、ずっと鍛えてるからね」

「総合……いやでも百メートルをさ――」


 と言ったところで、サクラと俺のスマホが鳴った。


「出動だ。行こう、サクラ」

「サクラちゃんって呼んでよ。みんなそう呼んでくれるから」

「あー、うん……」

「ほら、早く呼んで。サ・ク・ラ・ちゃん」


 それ、今呼ばないとダメなやつ?

 椅子に座ったまま、呼ぶまで立たないわよと言っているようだ。


「はぁ……行くよ、サクラちゃん」

「は~い。さぁ、初任務よぉ~♪」


 張り切ってるな、サクラちゃん。


 初任務は捜索か、それとも救助要請か……。

 前者だと高確率で死体発見になるし、後者でも間に合わなければそうなる。

 時間との問題だ。


 だけどサクラちゃんは初任務だし、実際どのくらいの移動速度が出せるかわからない。

 様子を見るために、少しだけゆっくり動かないとな。


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