199:家族旅行
「悪いねぇ、誠二」
「毎年毎年、なぁに言ってんだ。元救急救命士だぜ、俺は。野郎ひとり抱えるなんざわけねえよ」
十二月二十二日。毎年恒例の家族旅行の日だ。
まぁこの日っていうが、学生が冬休みに入ったタイミングで毎年行ってるわけだけど。
三石家と後藤家の二家族だから、後藤さんところの息子さんと娘さんが、まだ学生だからな。
「きゃーっ、かんわいぃ~」
「シロフクロウなのに白くない!」
「お兄ちゃん知らないの? 雄は白っぽいけど、雌は黒い斑点模様みたいな羽根があるから真っ白じゃないのよ。フッ、勉強不足ね」
今年はいつになく賑やかだ。サクラちゃん、ヨーコさん、それにブライト一家も一緒だからな。
毎年お世話になっている旅館の系列に、ペットと泊まれる宿があったから今年はそっちで予約させてもらった。
でも想定外の動物たちだし、事前に確認を取って、更に部屋には持ち込んだラグマットを敷いている。
旅館の人に挨拶する動物たちに、さすがの従業員さんも驚いていたけど。
「じゃーなんでヴァイスも白くないんだよ。雄だろ」
「ケッ。オレは子供だから黒っぽいんだ。そんなことも知らねーのかよ」
「うわ……本当にお口の悪い子だぁ。でもそこがかわいい~」
「け……ケッ」
照れてるのか、ヴァイスは?
アルジェリア後、ヴァイスは真田さんにみっちり訓練され、トール・ハンマーをちゃんと制御できるようになった。
秀さんにも見てもらい、お墨付きをもらったからスキル封印は全解除されている。
ツララの方もだ。まぁ光の精霊はそこまで危険なスキルでもないしな。ただ慣れない時は夜中に突然、屋根裏部屋が光っていたりはしていたようだ。
「わぁ~。旅館なんて初めて~」
「うちも~」
「そりゃヨーコは野生だったんだから、初めてだろうさ」
「ふふ。私たちもそうだものね」
「野生じゃなくても初めてよ」
動物園にいたんだからそうだよな。
サクラちゃんたちは旅館に興味津々だった。テレビでは見ていたけど、実際には来たことないしな。
「ねっ、ねっ、悟くん。あれが温泉なの!? 部屋のすぐ外じゃないっ」
「あぁ。ここは離れだからね。個別に露天風呂があるんだよ」
「ろ、露天風呂! きゃーっ」
「でもウチらは入れんやろ」
「あ……そ、そうね。そうよね」
ちょっとしょんぼりするサクラちゃん。隣で専用座椅子に座っていた父さんが、サクラちゃんの頭を撫でる。
「大丈夫だよ、サクラちゃん。ほら、向こうに小さい露天風呂があるだろう? あっちは使ってもいいそうだから」
「い、いいの!?」
「あぁ。旅館の人に許可をもらっているからね。ただし、上がった後は内風呂の方でしっかり毛を乾かすこと」
その乾かす作業は人間がするんだけどね。
小さい方なら掃除も楽だからと、事前に追加料金を払って許可してもらっている。
動物たちがお風呂に入ると聞いたら、従業員の方は驚いていたな。
「晩飯前にひとっ風呂入るか」
「賛成~。お母さん、遥おばさん、大浴場いこ~」
「そうね。じゃあ一時間後に戻ってくるわね」
人間の女性陣は本館の大浴場へ行く。
俺たち人間の男と動物たちは離れの露天風呂だ。
これが毎年のルーティン。
その理由は――父さんが大浴場に行けないから。
俺と後藤さんの介助が必要だし、他の宿泊客の目もある。だから毎年泊まるのは離れのある宿だった。
後藤さんと協力して父さんの服を脱がせ――といっても上は自分で脱げるのでそこは任せ、下を脱がせたら抱えて露天風呂へ。
「足元気をつけろよ、親父」
「わかってるって」
「誠也くん、大学はどう?」
「んー……なんか聞いてたより勉強多くて面倒くさい」
ふぅーん。確かに大学って、必要な授業以外受けなくていいって印象だけど。
「一年生の時はそんなもんだよ。少なくともわたしの時はね」
「うんうん。一年の時は辛抱して勉強に励め」
「親父は大学行ってないじゃん」
「専門学校にいった!」
「大学じゃねーし」
俺からすれば、大学も専門学校も行っただけで凄いけどな。
俺は小学校すらまともに通えなかったし。
「はぁ……やっぱり温泉は気持ちいいねえ」
「あぁ。骨身に染みるぜぇ」
「あら後藤さん。スケルトンだったの?」
「は? いやそういう意味じゃなくてだな、サクラ」
「骨ってことは、お出汁がとれるんやろ?」
「いやいや。だから違うって」
サクラちゃんとヨーコさんはダンジョンでスケルトンを見た時も、出汁がどうとか言ってたな。
最近は家で料理番組を見てるし、それでだろうな。
「なんだよ。フクロウ一家は入らないのか?」
ブライト一家は離れの屋根の上だ。誠也くんの質問にブライトが「熱いから」と答える。
「真水の方が気持ちいいぐらいだからね、僕らは」
「うへぇ」
「ツララとヴァイスも、上手く飛べるようになってきたねぇ。またうちのリフォームをしようかな」
「父さん、魔改造するのはもういいじゃないか。今のままで十分だって」
自分が建築家だからって、ほんと好きなように弄りまくって。
「そういやおじさんさ、俺が子供の頃親父に肩車されて家に上がった時、頭ぶつけたじゃん。あの後も天井を高くするんだ! って言ってたよね」
「覚えていたのか、誠也くん!? いやぁ、天井を高くしたかったんだけどねぇ、事務所にもダメだしされちゃって」
「当たり前だろ、賢。建築基準法とかもあるんだしよ」
あったな、そんなこと。
しばらくゆっくり温泉を堪能したら、上がって父さんの体を拭いて浴衣を着せて。
その時、父さんがぼそりと言った。
「すまないな、悟」
「ん?」
「お前に苦労ばっかりかけさせて。お前をおんぶしたり、肩車だって一度もしてやれてない」
「……傍にいてくれるんだ、それでいいよ」
「すまん」
父さん……普段滅多にそういうこと言わないのにな。
別におんぶや肩車をして欲しいなんて思ったことはない。でも、父さんが自由に動けるようになったら、父さんが楽だろうなってことは思う。
でも、スキルのヒールでもハイ・ヒールでも治せないんだ。
仕方ないさ。
歩けなくたって、自由に動けなくたって、父さんは元気なんだし。




