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19:彼らは勘違いをしている。

「そこよ! 右っ。次、左よ!」


 なぜだ。


「足も使って! そうそうっ。シュッシュッ」


――『そこだそこ!』

――『素手最強www』

――『コボルトとゴブリンとスライム雑魚オブザイヤー』


 なぜ俺は、グローブをはめてモンスターを殴らされているんだ。

 俺には攻撃スキルがない。

 でも、昨日、わかったことがある。


 生まれた時に与えられたスキル『総合身体能力強化』によって、俺のパンチ力は格闘スキルを持つ人並みだってこと。

 キック力もだ。

 後藤さんには今後、正確な測定をして貰えと言われている。


 それはいい。

 なぜ、今――。


「俺だけ戦わせられているんだ?」

「えー? だって私、攻撃スキル持ってないもの」

「俺も持ってない」

「悟くんは、生けるスキルじゃない」


 生けるスキル……なんか生ける屍みたいでいやな呼ばれ方だ。

 

「大丈夫よ、悟くん。私がばっちりサポートするから♪」

「……いや、もう終わったから」


 袋小路になっている通路の奥に、十数匹のモンスターが突然湧いた。

 たまたまそこで休んでいた冒険者がいて、彼らが不慣れだったということ。


「大丈夫ですか? 怪我は?」

「ありがとうございます。だい、大丈夫です。かすり傷ですから」

「あら。じゃあポーションを出してあげるわよ」

「いえ、いいんです。ポーション代、取られるんですよね?」

「えぇ、まぁ。サクラちゃん。怪我の程度は軽いから、大丈夫だ」


 捜索隊は慈善活動をしているわけじゃない。

 今回のような救助は費用を請求しない。でもポーションを提供すれば、そのお金は請求することになる。

 重傷なら有無を言わさず使うけど、彼らの怪我は確かにかすり傷程度だ。


「すぐに叫び声を上げてくれたおかげで、被害が出ずに済んでよかった」

「いやぁ……はは。職業訓練で言われたんですよ。ヤバそうなときには叫べって。そしたら誰かしら、駆け付けてくれるだろうからって」

「特に浅い階層だと人も多いからってね」


 その簡単なことも出来ない――いや、やらない人も少なくはない。

 理由は単純で、他人に助けを求めるのが恥ずかしいから――だそうだ。


「それにしても、凄かったですね。一階の弱いモンスターとはいえ、殴り倒していくなんて」

「めちゃくちゃカッコよかったですよ!」

「格闘スキルでも、鍛えればモンスターと渡り合えるんっすね。俺も格闘スキル欲しいなぁ」


 彼らは勘違いをしている。

 俺のは格闘スキルじゃない。スキルじゃなくって、素の殴りだ。


「おーい、三石。どうだ?」

「あ、白川さん。大丈夫です」

「そうか。俺たちは北区での出動命令が出たから、このままそっちに向かうことになった」

「北区ですか……気を付けてください」


 そう返事をすると、白川さんは「おぅ」と短く答えて踵を返した。


「悟くん。北って難易度の高いダンジョンでしょ?」

「あぁ。北区は都内でも一番難易度が高く、一階ですらレベル20以上じゃないと突破出来ないような所だよ」


 推奨レベルは階層+20から40と言われている。

 北区のダンジョンが出現して、もう十五年経つけど、未だに最下層は発見されていない。

 現時点で九十三階まで確認されていて、その階層で活動出来る冒険者は二十人ほどしかいない。

 残念ながら、エースの赤城さんたちですら九十三階での捜索救助活動は不可能だ。

 あの三人は八十七階で「命の危険を感じる」そうだから。


 怪我をした冒険者と一緒にダンジョンを出て、電車で本部に戻ろうと思ったけれど――。


「私、乗れるかしら?」


 とサクラちゃんが不安そうに言う。


――『ペット料金でいけるんじゃね?』

――『ゲージに入ってないとダメだろそれ』

――『昨日はどうしたんだよ』


「サクラちゃん、通知……あれ? まだ配信してた?」

「あっ。わすれてたわ」


 スマホを取り出すサクラちゃんから帽子を取り上げ、彼女が映るように構える。

 カメラ担当で映らないのはかわいそうだ。


「サクラちゃん」

「なぁに? え、やだっ。映してるの? きゃぁ~っ」


――『サクラちゃんかわえぇ』

――『ってブツって映像切られたぞおいwww』

――『俺たちが見てるのはタヌ――レッサーパンダだよな? なんか段々女の子に見えて来た』

――『お前……奇遇だな。俺もだ』

――『ヤバい連中がいると聞いて今北産業』

――『配信』『終わった』『お疲れさん』


「もうっ。撮影するときは事前に言ってよねっ」


 なんで?


「あの、よかったら俺たちの車に乗りますか? 六人乗りですが、そっちのタヌ「レッサーパンダ」レ、レッサーパンダさんは膝の上に乗ってもらえば問題ないと思うんで」


 ふぅ。危うく冒険者がタヌキと呼ぶところだった。

 幸い、サクラちゃんは気づいていない。


 本部までは、徒歩だと三十分以上かかる。

 報告書も書かないといけないし、なるべく早く帰りたい。


「お言葉に甘えて――」


 そう言った瞬間、俺のスマホが鳴った。


「はい、三石です。――はい、はい……わかりました、すぐ戻ります」


 スマホを切ってからすぐに彼らへ伝える。


「すみません、出動要請が出たのでこのまま東区のダンジョンへ向かうことになりました」

「送りますよ。でも準備とか大丈夫なんですか?」

「平気よ。私、アイテムボックスのスキルを持っているから。必要な物は全部入れてあるもの」

「便利なスキルを貰ったんだなぁ、タ――……レッサーパンダさん」

「ふふ。サクラちゃんって呼んでね」


 東区のダンジョンには採掘場が多い。

 一昨日から採掘作業に出た作業員が、今日になっても戻ってこないという。

 

 採掘による現場の崩落なのか、それとも別の要因なのか。

 採掘者の多くはスキル持ちだけど、俺と同じで攻撃スキルを持たない人がほとんどだ。

 つまり、モンスターと戦えない。


 急いで探し出さないと。


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