189:ダンジョンの穴。
「極稀に、ダンジョン生成時に下層と上層が繋がった穴が出現するんだ」
「生成時に? えっと、それはずっと繋がったまま?」
オーランドの説明に俺が質問すると、彼は首を左右に振った。
「し、しばらくすると消えるそうです。えっと、二、三日ぐらいで……」
「閉じるのか!? え、もしその穴に誰か落ちていたら」
「どの階層に繋がっているか分からない以上、救助は不可能だろうね。下の階なら希望はあるけど」
真田さんとオーランドが交互に説明する。
それから、穴の先にはひとつの共通点があるらしい。
「地形的な共通点だ。だから穴が出現するのは、オープンフィールドに限定されているんだよ」
「じゃあ、下の方のどこかに砂漠があって、そこに繋がっているってこと?」
「そうだよ、サクラちゃん。だからさっきのサンドワームがいたんだ。あれは適正レベル110前後のモンスターだね」
そんな高レベルモンスターが、二階にいるなんてとんでもないぞ。
この先もずっと穴が開いたままだと、このダンジョンは高レベル以外立ち入り禁止になってしまう。
「報告。地下二階の南側は砂漠地帯ですが、ここにレベル110相当のサンドワームが出現します」
『は? 何を言っているんだ三石』
『げっ。穴っすか?』
穴――そう言った声に聞き覚えがない。冒険者か。
知っている人は知っているって奴かな。生成後、二、三日で消えるとなると実際に見たことがあるって人はほとんどいないんじゃ。
地下一階、二階がオープンフィールドなんて稀だし。
『穴……下層と繋がっているっていうヤツか。日本でも過去一度だけ穴があったらしいんだが、実際に見た奴はいなくてな』
「あ、社長は知ってたんですか」
『検索した』
……一瞬でも見直した俺がバカだった。
『その時は地下三階に、あり得ない強さのモンスターがいてな』
『そう。七年前です。長崎のダンジョンでそれがあって。スタートダッシュした若手冒険者が何十人かやられたんですよ』
日本でもあったのか!?
でも穴は発見されてないなら、穴だけ消えて上がってきたモンスターが残ったのか。
それはそれで大変だ。
『レベル100以上の奴以外、砂漠には近づくな』
『言われなくてもそうさせてもらいます』
『100以上は今すぐ南下して砂漠地帯に入れ。手あたり次第、モンスターを片付けろ』
「社長。生成に巻き込まれた人が、万が一穴に落ちていたらどうしますか?」
『どうするってなぁ……穴の位置はわかるのか? そういやあの躾のなってないアメリカ人がいたな』
「オーランドならここにいますよ」
『よし。そいつがいればまぁ大丈夫だろう。穴に入るかどうかは任せる。ヴァイスとツララがいればチェンジも使えるし、戻るのも難しくはないだろう』
イヤホンはスピーカーモードにしてある。話を聞いたオーランドが親指を立てて応えた。
真田さんは無言で「俺も」とアピールしている。彼と一緒にいた冒険者はさすがに首を横に振る。
「わかりました。見つけたら俺とオーランド、真田さんで穴に入ってみます」
『頼んだ――真田? 誰だそれ』
「あ、ヴァイスのトール・ハンマーの師匠ですよ。福岡の」
『ダンジョンベビーのか!? おいおい、ダンジョンベビーが三人揃うなんて、そうそうあるもんじゃないぞ』
まぁ、日本じゃ俺と真田さんしかいないし、アメリカでのオーランドの他に三人ぐらいだったか? それぐらいしかいないもんな。
全世界でみても三桁いない。まぁ公表されている人数だけではあるが。
「ん? サクラちゃん」
足元でサクラちゃんが俺のズボンを引っ張る。
「置いていったりしないわよね?」
「そーよそーよ。ウチらも一緒やけん」
「もちろんだよヨーコさん。ボクが君たちを守るよ」
「キモぃわ人間」
「キ、キモぃ!? ボ、ボクが……そんなバカな」
だから泣きそうな顔で俺を見るなって。
「もちろん一緒に来てもらうよ。サクラちゃんはアイテムボックスがあるし、必要なものは君が全て持っているんだ。来て貰わなきゃ困る。何があるかわからないから、補助系スキルも必要になるだろうしね」
「そうよね、そうよね。穴の下も砂漠みたいだし、お水いっぱいいるわよね」
「ヨーコさんも。もし生存者がいたら、ナーススキルは必要不可欠だ」
「任せとって。サクラ、医療キットもあるよね?」
「いつもより多めに用意してくれてたから、たくさんあるわよ」
「ブライトとスノゥは空から生存者を探すのに、これ以上ない適任者だ」
「空は僕らの天下だからね。任せたまえ」
「暑いときは言ってね。涼しくしてあげるから」
うん。凄く助かる。
「ヴァイスとここにはいないツララが、救助の要だ。もし誰もいなかったとしても、俺たちが無事に地上へ出るために二羽の力が絶対だからね」
「フン。ツララは張り切るだろうけど、オレは違うね。オレはいつだって冷静なんだ」
といいつつ、そわそわしているのはどこの誰かな?
「よし。それじゃ、まずは穴を見つけよう」
「そうね!」
「はーい」
「空から探すかい?」
それがいいだろうな。
「んー、いや。そこにあるよ」
「「え?」」
オーランドが指さした先に、渦を巻く砂が見えた。
意外と近かったぁー!




