182:フラグ回収。
「結構広いな」
サクラちゃんが前、ヨーコさんが後ろ。
抱っこ紐の改良版で一度に二人を抱え、一階外周を走る。
最初の角、南西の端に到着したのは、走り出して三十分を過ぎたころ。
「時速八十キロぐらいで走ってたから……えっと、四十キロはあるってことかしら」
「スタート地点が、ど真ん中やったんやろ? そしたらこの壁って、八十キロもあると!?」
「ボクの予想だと、もうちょいあると思うけどね」
「よし、休憩終わり。サクラちゃん、時間測っといて。ヨーコさんは俺の走るスピードの方を頼むよ」
「「は~い」」
サクラちゃんのスマホで時間を計測。
ヨーコさんのスマホで、流れる景色を撮影し、そこから速度を割り出すアプリを使って時速を測る。
俺は走る。
ブライトは飛ぶ。
さ、出発だ。
南から北の一直線。壁際は三メートルほど開けた場所になっていて、ここは走りやすい。まぁ地面はでこぼこしているけど、障害物となる木が生えてないだけマシだ。
「ブライト。何か見えるか?」
「んー……ダメだね。森の方は木が生い茂ってて、少し先までしか見えないよ」
「そうか……」
――[早すぎて無理]
――[まぁゆっくり走っても無理だろうけどな]
人海戦術じゃないと、捜索は無理か。
先に入った海外の冒険者はどうしているんだろう?
たぶん、心理的に階段を下りたらそのまま真っ直ぐ正面の方に進むよな。
「角に到着。二人とも、どう?」
「六十九分よ」
「平均したらだいたい八十五キロぐらい? たぶんそんな感じ」
「一辺が百キロ近くあるのか!?」
広い……。こんなジャングルかって思うぐらい木々が鬱蒼している場所で生存者探しは、難航してあたり前か。
更に北側の端を東に向かって走る。
入り口の真北に来たら、一度内側に入って入口の方へと戻った。
「階段下到着です。かなり広いですよ、ここ」
『すぐ行く。休んでいろ』
階段に腰を下ろして待つこと数分。
「お疲れお疲れ。暖かいココア飲むか?」
「あ、頂きます」
「サクラさんには蒸しイモ、ヨーコさんには蒸しニンジンを持ってきました。ブライトは馬肉でいいですよね?」
社長がココアを、金森さんがおやつを持ってダンジョンに下りて来てくれた。
その社長の肩にはヴァイスがいる。
「これが地図です。一辺がだいたい百キロですね」
「端っこまでずっとこの風景か?」
「南側と西側、北もそうですね。壁際に少しだけ開けた通路みたいなところはありますが」
「そうか……このままお前は二階に下りてくれ。もう一時間ほどで第二陣が到着する」
その第二陣は下り階段のところで兄妹のチェンジを使って移動。
何組かのパーティーは一階の南側を捜索。残りは二階へ下りる。
「わかりました。十五分ぐらいで階段までいけますから、待ってる間に二階の地図を少しでも埋めておきます」
「十五分か。早いな」
「ダンジョン入口への階段が、ちょうどド真ん中なんですよ」
――[違うぞ社長www]
――[普通の人間が十五分で行けるわけないw]
そう言って地図を社長に見せた。
下り階段は入口の真南。しかも南端と入口の中間地点にある。
「社長。三石が走る速度で十五分ですよ。普通の人間なら数時間かかりますって」
「あぁ、そうだな。こいつの基準で考えるからバグった」
――[バグwww]
――[気持ちはわかるw]
――[さぁ次は二階だ]
――[そういや二階に下りてなかったな。迷路か?]
――[またオープンだと泣ける]
――[フラグ立てんな]
「じゃ、二階に行ってきます。準備出来たら知らせてください」
「あぁ……おい、三石」
立ち上がって、社長から呼び止められる。
「はい?」
「……あー。気をつけろよ」
「……はい。じゃ、行ってきます」
気をつけろ――そう言った社長の顔は、いつになく真剣な表情だった。
サクラちゃんとヨーコさんを抱っこ紐に乗せ、ヴァイスはリュックに入れて手に持って南へ向かって走る。
「心配してくれてるのね」
「あの社長、案外優しいやん」
「ケッ。あいつずーっと、カメラ見て変なポーズしてたぜ」
ヴァイスは地上での社長の様子を話してくれた。
なんでも「そこだっ」「気をつけろっ」「後ろだ後ろっ」と、カメラに向かって話していたらしい。
まるで自分も戦っているような感じで。
「通信の姉ちゃんに邪魔だって怒られてやがった」
と、最後に締めくくる。
その光景が目に浮かび、ちょっとかわいそうになった。
「さて、階段到着っと。少し休むか?」
「ううん、いいわ」
「ウチも平気たい」
「当然、ボクも大丈夫さ」
「ケッ」
じゃ、ちょっと下りてみるか。
――[ヴァイスのツンデレ]
――[雛たんかわいい雛たん]
――[二階もモンスター溜まりになってないといいな]
――[さすがに外国人冒険者もここまでたどり着いてはないだろう]
――[悟くんだから短時間で到着できてるだけだしな]
――[下りてくぞ]
階段を下りると、最初に見たのは――土。
それから石。
いや、土と石しかない!?
「おい、嘘だろ」
視界に映ったのは、一階とは対照的な――。
――[誰がフラグ回収しろっていったよ!]
――[嘘だろ]
――[ここにきてまさかの荒野とか]




