177:金森さん撃オコ。
テレビには上空か降り注ぐ紙切れに人が群がる光景が映し出されていた。
そしてスクリーンには……こちらは社長が雇った? カメラマンが撮っている映像が映されているのだが、そのカメラマンの声が入っている。
何を言っているのかサッパリだけど、スノゥが同時通訳をしてくれた。
「えっと、お金が降って来てる……ですって」
「「お金!?」」
全員が一斉に社長を見る。
鼻をフンっと鳴らし、社長が――。
「実際には三割ぐらいが金で、残り七割は札と同じサイズにカットした新聞紙だ」
――と。
いや、七割が新聞紙だとしても、あのばら撒き具合だと相当な現金が降ってることになるんだけど……。
「なぁに。配ってるのは一番安い札だ。えっと、200ディナールだったか? な、金森」
「……はぁ。日本円にして、一枚が二百三十五円ほどです。まぁそれをぉ、ざっとぉ……はぁ……五万枚、降らせてるだけですよね社長のポケットマネーで」
「え……い、いや、あれは必要経費……」
「あんたのポケットマネーだよなぁ?」
「あ……はい……うん……」
か、金森さん……ちょっと、いや、かなり怒ってるようだ。
いやそれにしても、この短時間によく用意できたな?
もしかして最初から?
飛行機に乗って三時間ぐらいだ。出来なくはないだろうけど……でも現地でそれをやってくれるスタッフがいないと無理な話だし。
そういや、ATORAってホテル業もやってるんだっけ。
海外にも支店があるなら、そこのスタッフが?
――と思ってスマホで検索してみると、あったよ。アルジェリアのATORAホテル。
「あ、見て見て悟くん。ほら、トラックがダンジョンの入り口を塞いでるわ」
「何台もあるばい。あれで入り口を囲むんやね」
サクラちゃんとヨーコさんがテレビを見ている。
映っているのは七台ぐらいの貨物トラック。それが入り口を塞ぐようにして停止し、運転手が慌てて出ていった。
さらに、そこへ銃を構えた軍人がずらりと並ぶ。
救助にはいかないが、これ以上中へ侵入しようとする人を止めるには十分だろう。
「これで時間が稼げる。ではザックリだが、救助の手順を話し合うぞ。冒険者チームは各パーティーのリーダーだけ前の方の座席に来てくれ」
上空を飛ぶ飛行機の中で、席替えが始まった。
飛行機内って、こんなにうろうろしていいもんなのか?
まず。現場に到着したら、生成範囲内に設置された仮設のプレハブ小屋を拠点にすることになる。
それは今現在、手配しているから数時間後には用意できるそうだ。
「我々が現着する頃には、入口のモンスター溜まりも解消されるだろう」
「え?」
「エジプトにはダンジョンがあって、そこから新規ダンジョンを目指す冒険者も出るだろう。日本からアルジェリアまで十四時間。エジプトからだと四時間ぐらいだ。判断の早い連中は、もう飛行機に乗って現地に向かっている頃だろう」
あぁ、そうか。エジプトから向かう人もいるんだな。
ただその人たちは冒険者で、救助隊ではない。
救助のために向かっているのか、それとも新規ダンジョンの攻略が目的なのかまではわからない。
まぁ入口のモンスターハウスが解消されるなら、それは良いことだ。
「現着後、まずはうちの技術スタッフが通信アンテナを立てる」
「えー、技術部担当です。えー、スキル持っていませんので、護衛の程よろしくお願いします。それでですね――」
中継アンテナを設置しなければ、ダンジョン内と外での連絡が取り合えない。映像も映せない。
だがこのアンテナ、厄介なことに各階に設置しないといけないのだ。
アンテナを設置した階とだけ、通信が可能になる。
「今回、急を要する状況ですので小型アンテナを各パーティーに一つずつ、装着して頂こうと思っています」
装着?
「この小型アンテナはバッテリー制なので長くは使えませんが、メインアンテナを設置した階の前後階ぐらいまでなら通信可能です。それ以上離れた階だと、電波が弱くて通信状況が悪くなりますが」
「三石。お前は全力で四階層を探せ。四階まで到着したら――」
「ツララとヴァイスのチェンジで技術者を呼ぶんですね」
「そうだ。ただし、要救助者が一、二階にだけいるなら下層は目指さなくていい。状況次第だ」
そうあって欲しい。
出来れば全員、一階にいてくれるといいんだけど。
こればっかりは、ランダム要素があるからな。
上野のように建造物ごとダンジョン内に放りだされた場合でも、建物内にいる場合とそうでない場合がある。
生成時、そこにあった建物が存在しない場合の方が圧倒的で、身一つでダンジョンに放り出される場合がほとんどだ。
俺がまだ母さんのお腹にいた時に巻き込まれたダンジョンでは、近くにコンビニがあった。
もちろん他にも建物はあったけど、コンビニ以外は存在していなかったって後藤さんに聞いたことがある。
建物内なら入口を塞げば多少は時間を稼げるが、生身で放り出された場合は――。
今ここで考えたって仕方ない。
現地に到着するまで、俺たちには何も出来ないんだから。




