175:これだから金持ちは・・・。
「うん、うん、そう。ニュースでやってる奴。そこに行くことにしたから」
『そう。生水には気をつけるのよ。ニュース見てても、大変なことになってるみたい。気をつけてね』
「うん。じゃあ行って来る」
『いってらっしゃい』
本部を出発する前に、母さんへ電話を掛けた。
「おばさまにちゃんと伝えたの?」
「今電話した」
「ウチらが言わんと、お母さんに連絡もしないなんて」
「まったく、ダメな息子だぜ」
こんな風にくどくど言う仲間のおかげで、忘れず連絡出来て俺は嬉しいよ。
はぁ…………。
『アルジェリア行きチームは、地下駐車場へ移動してください。バスが到着していますので――』
「お、来たみたいだ。じゃ、行こうか」
「あーい」「ウィー」
ツララとヴァイス、スノゥも一緒に行くことになった。
まぁ兄妹のスキルは上野ダンジョンでも有能だってことが証明されたしな。
アルジェリア行きの参加表明をしたのはほとんどのチーム。
結局、上層部の方でチームを決め、俺たちはアルジェリアに行くことになった。
それと――。
「真田ちぇんちぇーも行くぅ~?」
「う、うん。な、何か出来るかもと思って」
「出来るよ。というか生成直後のダンジョンは、何の情報もないから。戦闘慣れしている冒険者がいてくれた方が安心だから」
俺がそう話すと、真田さんは頷いた。
今回、彼もアルジェリア行きを希望してくれた。戦闘特化のスキル構成で、赤城さんよりもレベルが高い彼が一緒っていうのは相当心強い。
東京で活動している冒険者も話を聞いて三十人ほどが駆け付けてくれた。
第一陣には間に合わないけど、ギルドの方には参加の旨を伝えてきた冒険者が百人はいるって。
第二陣は今日の十四時に出発だ。近県の捜索隊メンバーもその飛行機でアルジェリアへと向かう。
「はーい、みんな乗り込むポッポ」
「バスん中ではトイレを我慢するように!」
「乗り込めぇーっ」
「飛行機乗んのか? なぁ? それよかオレら飛んだ方が早くね?」
「あんたバカなの? 飛行機に勝てるわけないでしょ」
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「うるさいわよ!」
……アニマル隊は賑やかだな。
動物たちはほとんどが参加する。「捜索」という点で動物たちは、スキルの有無関係なく人間よりも優れた能力を発揮できるからだ。
「よーし、そろそろ出発するぞーっ。全員乗り込めぇー!」
社長の号令で、全員がバスに乗り込んだ。
そういえば、社長のプライベートジェットにこの人数は……無理、だよな。
でも動物たちが多いし、普通の飛行機は搭乗出来ないんじゃ?
なんて思っていた俺は、目の前の光景を見て呆れるしかなかった。
「なんで……専用ジャンボジェットとか持ってんだよ」
「お金持ちって、怖いわね」
「あれでいくらぐらいなん?」
「億は超えるだろうね。ボクは貨物室の近くがいいなぁ」
国際線で乗るようなジャンボジェットが目の前にある。機体の側面には「ATORA」というロゴがあった。
「はいはい、乗り込めぇー」
「わーい」
「おい待てツララッ」
「アタシが一番よぉーっ」
「ウォオォォォン」
俺たち、これから外国のダンジョンに捜索のために行くんだよな?
まぁ……動物たちは飛行機に乗るのも初めてだし、少し浮かれてしまうのも仕方ないか。
変に緊張しまくってお通夜ムードになるよりはいい。
捜索隊の荷物は、そのほとんどをアイテムボックスを持つ隊員のソレに入っている。
冒険者の荷物が積み込まれると、すぐに飛行機は出発した。
そこから長い道のりの間、ニュース映像が常に機内のテレビに映し出されていた。
社長の言う通り、軍隊は出動していない。地元警察もだ。
だけどニュースで流れる映像には、人々がダンジョンに入っていく姿が映し出されていた。
ダンジョン生成に家族が巻き込まれ、助けに入ろうとする人。
スキルを手に入れ一攫千金を狙う人。
これまでダンジョンを知らずに生きてきた人が興味本位で……。
目的はまちまちだろう。
ただ、見る限り……入る人はいても出てくる人がいない。
「なんで入っていくんだよ。命が惜しくないのかっ」
「出てくるのがいないって、まさか入口にモンスターハウスが出来てんじゃね?」
「アフリカってダンジョンがほとんどないんだろ? ダンジョンに対する危機感ってのがないんじゃないか」
あちこちから声が上がる。
危機感がない。たぶんそうなんだろうな。
ざわつく機内でダンジョン入口の映像が流れ続ける。
その時だ――。
「カァーッ! いたっ。ダンジョンから出て来る人間いた!」
「クロスケ、映せ!」
「上映開始ぃーっ」
飛行機の天井に映し出されたのは、ニュースで流れているダンジョン入口のもの。
左上に出ている時計の数字は一分前のものだ。
その映像がズームされ、ブラックホールのような渦から人が出て――いや、出てない。
「おいっ。引きずり込まれたぞ!?」
「マジかよ……引きずり込んだの、モンスターか?」
「人間って可能性もないこたないが……そうする意味がわからないし」
「モンスターだとして……マズくないか? 階段上ってるってことだろ」
スタンピードが発生している!?
「あ、あのおじちゃん――」
仰向けになったツララが足をパタパタさせながら、天井に映る映像を見て何かに気づいた。




