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17:だって民間企業だもん

「え……後藤さん、正気ですか?」

「俺に聞くな、俺に」


 次の日、いつもと違ってサクラちゃんと出勤して、いつものように待機室のドアを開けると、いつもと違って後藤さんが朝から来ていた。


「捜索模様をライブ配信って、急にどうしたの?」

「昨日のライブ配信でフォロワーが爆増えしただろう? 再生回数は一晩で百十万回突破してんだ。広告収入がどれだけになるか……」

「お金なのね」

「お金だね」

「金に決まってるだろう! うちは民間なんだ。社員に給料を払わなきゃならんし、救助アイテムだってタダじゃないんだぞ」


 国から支援があると言っても、その金額は決して多くはない。

 捜索、救助費用は基本的に全額負担なんだが、救助要請をした人たちが亡くなっていた場合、ご遺族にその旨を伝えても払ってくれない人が少なくはない。


「お前たちが間に合わなかったから死なせたんだろう」

「人殺し!」


 そう言われることも間々ある。

 裁判沙汰にして費用を支払わせることも出来るけど、そうなれば世間の風が一層冷たくなるだけ。

 だから裁判は起こさないというのが会長方針だと、前に後藤さんから聞いた。


「会社の収入が増えれば、予算不足でストップしてるアイテムの開発も再開出来るんだ」

「まぁそういう話でしたら、悪くはないですが……。リアルタイムなんですか?」

「いや。昨日みたいにタイムラグを挟む。お茶の間に死体を映すわけにはいかないだろう」

「モンスターの死体はいいの? そりゃあすぐに煙になっちゃいけど」

「それはいい。ライブ配信をしてる冒険者は結構いて、視聴者も慣れたもんだからな。ま、サクラの言う様に、すぐ煙になるからグロくはないんだと」


 でも人間の方は違う。煙にならないし、ヘタをすればモンスターに食べられてしまう。

 さすがにそれを映すのはマズい。

 配信してる冒険者もそれは理解しているから、ご遺体を見つけたら配信を止めるそうだ。


 以前、他人のご遺体をライブ配信して不謹慎にもそれをネタに再生回数を伸ばそうとした冒険者がご遺体の遺族に訴えられ、数千万の慰謝料を請求されている。

 それもあって、ご遺体撮影はタブーとされているそうだ。


「タイムラグはとりあえず三十秒に設定されるが、今後、長くなったり短くなったりするかもしれん。まぁそこは本部の技術面の話だから、お前たちは気にしなくていい」

「はいはい、後藤さん。それって三石たちだけの話なんっすか?」

「バーカ。全員だ、全員。記録係は配信手順の説明があるから、第二会議室に移動しろ。サクラ、お前も行ってこい」

「わかったわ、後藤さん。じゃ悟くん、私行ってくるわね」


 何人かが待機室から会議室へと移動した。

 ライブ配信……かぁ。


「あぁ、どうするかなぁ……」

「どうしたんです、曽我さん?」


 去年から捜索隊に入社した、元冒険者の曽我さんが困ったような表情を浮かべて顎を撫でていた。


「いや、今朝さ、ちょっと寝過ごして……髭、剃ってないんだ」

「はぁ」

「やっぱマズいよな?」

「どうしてですか?」


 何がマズいのか俺には分からず、聞き返した。

 すると曽我さんは溜息を吐く。


「お前に聞いた俺がバカだった。髭剃ってくるわ」

「そうですか」


 そんなに髭が伸びてるって、悪いことなのか?

 曽我さんが待機室を出ると、他にも何人か出ていく。

 入れ違いでうちのエース、赤城さん白川さん、青山さんの三人が入って来る。


「あれ? みんなどうしたんだい?」

「おはようございます、赤城さん。どうしたんでしょうね?」

「三石ぃ~。昨日のニュース見たぞぉ~」

「ニュース? なんですか、ニュースって。うぐっ、苦しいですって青山さん」

「なんだ、見てないのかい悟。昨日のライブ配信のことがニュースになっているんだよ」


 ニュースにまでなったのか。別段、何かしたってわけでもないのにな。いつもと変わらない捜索の様子なのに。


「あー、なるほど。今日から各チーム、配信することになったんだったな。それでみんな、身なりを整えてんのか」

「何!? オレ、寝癖ついてないか? な? な?」

「お前の頭はいつだって爆発してるだろ、青山」

「なんだとぉ~。白川ぁぁ」


 カメラ映りを良くするため……か。

 気にすることかなぁ。


 と思ったら女性陣が全員、化粧直しをしていた。






「出動がかからないのにダンジョンへ行くの?」

「うん。この時期ならではだけどね」

「この時期?」

「スキルを手に入れても、ほとんどの人はすぐにダンジョンには入らないだろ?」

「職業訓練を受けないといけないものね。冒険者登録をしたら、一ヶ月は強制的でしょ?」


 そう。

 冒険者に登録できるのは、スキルを持っていることが大前提だ。

 そのスキルは個人が初めてダンジョンに入った際にのみ、手に入るか入らないかの判定が行われる。

 スキルを手に入れられるのは一万人に一人という狭き門だ。


 スキルを手に入れたら、そのままの勢いでダンジョンに入る人もいる。昨日の人らのように。

 でも大半の人は、冒険者に登録し、それから職業訓練施設に行ってスキルの使い方を学ぶ。

 最低でも一ヶ月は強制参加だ。その代わり、受講料はタダ。

 一ヶ月を過ぎても通えるけど、一日五百円払わなければならない。ま、安いもんだけど。


「ちょうどこの時期がね、その一カ月を終えた新米冒険者がダンジョンに放たれたぐらいの時期なんだよ」


 と、西区のダンジョンへ向かう社内で、赤城さんがサクラちゃんに説明する。

 今回はパトロールだ。赤城さんたちエースも同行する。


「そうなのね。私がダンジョン生成に巻き込まれたのは十月の末頃だったけど」

「まぁこの時期が一番新人が多くて、そのほとんどが若者っていうだけの話なんだ」

「スキルを手に入れたってだけで、選ばれた者だとか勘違いしてる連中もいるからなぁ。特に少し前まで学生だったような連中は」


 はしゃいでハメを外すなんてのはよくあることだ。

 でもダンジョンでそれじゃあ、死にに行くようなもの。


「パトロールも兼ねてね、装備や準備不足そうな冒険者には声を掛けて回るんだよ」

「まぁ大抵の連中は『余計なお世話』だと思ってるだろうけどな」


 それでも、言われたことが頭の片隅にでも残ってくれればいい。


「今回のパトロールも配信することになってるから」

「え? これも配信するんですか!?」

「なんだ三石、部長から聞いてないのか?」

「聞いていません。サクラちゃんは?」

「撮影よろしくとは言われたけど、このことだったのね」


 パトロール風景なんて撮影して、何が面白いんだか。


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