160:ハリー③
「ウオオオォォォォォーン!」
走った! オレ走った!
あ、ボール忘れちゃった。取りに戻らなきゃ。
「ボォォォールゥゥゥゥ!!」
走った! さっきの原っぱに向かって走った!
あれ? こっちだっけ?
なんだここ。いつもの散歩コースと違うぞ。
すっごく高い建物も多いし、遠くが全然見えない。
夜なのに、なんだか明るい。
なんでだ!
あ、ボール。
「原っぱどこーっ。ボールどこーっ」
オレ迷子! オレ迷子になった!
アキラ心配してるかな。早く戻らなきゃっ。
いっぱいいっぱい走って、川を見つけた。でも原っぱがない。
またいっぱいいっぱい走って、お腹が空いて、歩いて、お腹が空いて、空が明るくなってきた。
「ウオオォォォォォォォン。お腹空いたよおおおぉぉぉぉっ」
ママさんご飯食べたい。カリカリしてるヤツ。
ご飯……ご飯……。
「ごはあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーんっ」
「うるさいぞ、カァーッ!」
箱のような家と家の隙間に細い道があった。そこにカラスたちがいた!
「あ、カラスだ! 黒いカラ……」
カラスは黒い。オレ知ってる!
地面には黒いカラスがいち、にい、さん、いちいる。
バケツの上にいたのは、オレが知ってるカラスと少し違う! 雀? 雀か!
「派手な色の雀なんて、初めてみたぞ!」
「誰が雀よぉーっ!!」
「んぎょええぇぇぇーっ!?」
派手な色の雀が飛んで来た!
雀だから飛ぶのは当たり前だな!
いやでもすっごく早かったぞ! あと痛かったぞ!
「ん? んん? あんた……毛並みがいいわね。野良じゃないってこと?」
「野良? 野良犬ってことか? 違うぞ! オレは飼い犬だ!」
「スキル持ちの飼い犬ねぇ。その飼い犬様がどうしてこんな朝早くから一匹だけでうろうろしてるのかしら」
「迷子になったはらだぞ! あ、そうだお前、原っぱと川を知らないか!?」
「は? 原っぱと川? どこのよ」
どこの? どこ? どこおおぉぉぉ!?
「おい、こいつやっぱアレだよな」
「でしょうねぇ~」
「はぁ……人間ってのはほんと勝手な生き物だぜ」
「どうするのこいつ?」
「どうもしないわよ。だってそいつ、飛べないじゃない」
「オレは飛べないぞ! 犬だからな!」
「わかってるわよそんなこと! ピヤァーッ」
「痛い、痛いぞっ。お前乱暴だ。乱暴な雀だ!」
「雀じゃないって、言ってんでしょー! インコよ! セ・キ・セ・イ・イ・ン・コ!!」
インコ? オレ知らない言葉!
「セキセイインコってなんだ!」
「セキセイインコってのはね、そういう種類の鳥のことよ。あたしたちはカラス。その小さくて黄色いのはセキセイインコ。他にも青だったり緑だったりする色のインコがいるのよ」
「ふぅーん。あ! 犬にもオレみたいなシベリアンハスキーとか柴犬があるのと同じてこと!?」
「そうよ。案外賢いじゃない。無駄に元気だけど」
えへへ。褒められた。
「オレ、もっといろいろ教えて欲しい! スキルってなんだ!」
「あんた、スキル鑑定を受けてないの? それを受けて捨てられたんじゃない?」
「オレは捨てられてないぞ!」
「あ、そ。そう思いたいならそう思ってればいいわ。あぁ、お腹空いた。ご飯食べに行きましょうよ」
セキセイインコはちょっと冷たいぞ。クゥーン。
オレのお腹空いた……。
みんな鳥だから、家まで飛んで帰ってご飯を食べるんだろうな。
オレも早く家に帰ってご飯食べたいぞ……クゥーン。
「ちょっと、あんた何やってんの。早く来なさいよっ」
「え?」
「え、じゃないのよ!」
「ぐへぇっ。い、痛いぞっ――あ」
黄色いセキセイインコが消えた!
「あぁ、いいわぁ。ここいいわぁ」
「わおっ。どこ? どこにいる?」
「いいから行くわよっ」
「痛いっ。頭!? 頭の上!?」
「なんだよ、こいつも連れて行ってやるのか」
「何? 何か文句あんの?」
「ないない。ほんっとお前は、小さいくせに強ぇからなぁ」
オ、オレわかったぞ!
セキセイインコがここのボスなんだ!
「ほら、行くわよハスキー!」
「ハスキーだけど、名前はハリーだぞ! お前、名前はなんだ?」
「キコよ。キコ様とお呼び!!」
「ああぁぁーっ。突かないでっ、突かないでぇぇー!」
痛い。痛いけど、でも本当はそんなに痛くない?
あれ?
キコと、カラスのクロベェ、クロスケ、カンクロ、クロミの五羽と一緒にどこかへ向かう。
ここは……お店?
土とか石とか花とか売ってる……ホームセンターだ! オレ知ってる!
ここ、犬のご飯売ってるお店!
「あら、そのハスキー犬、お友達?」
人間だ! 店員さんっていうんだ。オレ知ってる!
「違うわ。下僕よ、下僕!」
「キ、キコちゃん。下僕なんて言葉、知ってるんだ」
「あったりまえよ! それで、ハリーの分のご飯も……」
「んー……あっ、そうだ。試食用の無料配布のがあったんだった。ちょっと待ってね」
人間、お店の中に入って行った。
「おい、お前も手伝え」
「手伝う? 何をすればいい! オレ頑張るぞ!」
「ゴミを拾うんだよ。この店の駐車場に落ちてるゴミを拾って回るんだ」
「ご飯を貰う代わりの労働よ」
労働って、仕事のこと? パパさんとママさんは仕事しているから、ご飯食べられるって言ってた!
オレも仕事してご飯もらえるのか!
「うおおおぉぉぉぉぉぉ! オレは働くぜ! オレは働くぅぅぅぅっ」
「うっさいわね! 黙ってゴミ拾いしなさいよっ」
「キャウゥーンッ」
ハリーのお話は⑨まで続きます。




